フリーランスは下請法で守られる?新法との違い・未払い時の対処法をわかりやすく解説
はじめに
フリーランスとして働いていると、「納品したのに報酬が支払われない」「発注後に一方的に金額を下げられた」「追加修正を無料で求められた」といったトラブルに直面することがあります。
こうした取引トラブルでは、契約書の有無だけでなく、下請法、フリーランス新法、2026年から施行された取適法の対象になるかが重要です。2026年1月1日から、従来の「下請法」は改正され、「中小受託取引適正化法」、通称「取適法」として施行されています。法律名や用語は変わりましたが、フリーランスが発注者との力関係で不利益を受けないようにするという基本的な考え方は引き継がれています。
この記事では、「フリーランスは下請法で守られるのか」「フリーランス新法とは何が違うのか」「報酬未払いが起きたらどう動けばよいのか」を、実務で使いやすい形でわかりやすく解説します。
1. フリーランスは下請法で守られる?まず結論をわかりやすく解説
1-1. フリーランスでも下請法の対象になるケースがある
結論からいうと、フリーランスでも下請法、現在の取適法で守られるケースがあります。
たとえば、企業からWeb制作、システム開発、デザイン、ライティング、動画制作、イラスト制作などを受託している場合、取引内容によっては「情報成果物作成委託」に該当する可能性があります。また、発注者の資本金や従業員数が一定規模を超えており、受注側であるフリーランスが小規模な事業者であれば、発注者には支払期日の設定、期日内の支払い、発注内容の明示などの義務が生じます。
ただし、「フリーランスなら必ず下請法で守られる」というわけではありません。対象になるかどうかは、主に次の3点で判断します。
1つ目は、発注者と受注者の規模です。2つ目は、委託された業務の内容です。3つ目は、その取引が事業者間の業務委託といえるかどうかです。
1-2. 下請法の対象外でもフリーランス新法で守られる可能性がある
下請法、つまり現在の取適法の対象外でも、フリーランス新法で守られる可能性があります。
フリーランス新法の正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」です。一般には「フリーランス・事業者間取引適正化等法」とも呼ばれます。この法律は、個人または一人法人などのフリーランスと、発注事業者との取引を直接保護するための法律です。
フリーランス新法では、発注事業者がフリーランスに業務委託をした場合、取引条件をメールや書面などで明示する義務があります。また、一定の発注者には、報酬支払期日の設定、期日内支払い、減額・返品・買いたたき・不当なやり直し要求などの禁止、募集情報の的確表示、ハラスメント対策なども求められます。
つまり、取適法は「一定規模以上の発注者と小規模な受注者の取引」を中心に規制する法律であり、フリーランス新法は「フリーランスとの業務委託取引」をより直接的に保護する法律だと考えると理解しやすいでしょう。
1-3. 2026年以降は「下請法」から「取適法」への改正も押さえる
2026年1月1日から、下請法は「取適法」に変わりました。正式名称は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」で、通称が「取適法」です。
改正により、従来の「親事業者」は「委託事業者」、「下請事業者」は「中小受託事業者」、「下請代金」は「製造委託等代金」という表現に変更されました。また、従来の資本金基準に加えて、従業員数による基準が追加され、対象となる事業者の範囲が広がっています。
ただし、実務上は今でも「下請法」という言葉で検索されたり、説明されたりする場面が多くあります。そのため本記事では、わかりやすさを重視して「下請法」と「取適法」を併記しながら説明します。
1-4. この記事でわかること:対象条件・新法との違い・未払い時の対処法
この記事を読むと、次のことがわかります。
フリーランスが下請法・取適法の対象になる条件、フリーランス新法との違い、発注者に禁止される行為、報酬未払いや支払遅延が起きたときの対処法、トラブルを防ぐための契約書・発注書のチェックポイント、発注者側が守るべき実務対応を順番に整理します。
2. フリーランスが下請法の対象になる条件
2-1. 下請法の基本:親事業者と下請事業者の取引を規制する法律
下請法は、もともと資本金規模などで力の差がある事業者間の取引について、発注者側が優越的な立場を利用して不当な扱いをすることを防ぐための法律です。2026年以降は取適法として、委託事業者と中小受託事業者の取引を規制します。
主なルールは、発注時に取引条件を明示すること、支払期日を受領日から60日以内のできる限り短い期間で定めること、期日までに支払うこと、発注内容や支払いに関する記録を保存することなどです。支払遅延がある場合には、一定の遅延利息の支払いも義務づけられています。
2-2. 個人事業主・一人法人のフリーランスも対象になり得る
フリーランスが個人事業主であっても、一人法人であっても、取適法の「中小受託事業者」に当たる可能性があります。
特に、デザイナー、エンジニア、ライター、動画編集者、イラストレーター、マーケター、翻訳者、音声・映像制作担当者などは、取引内容が情報成果物作成委託に該当する可能性があります。
一方、フリーランス新法では、業務委託を受ける側である「特定受託事業者」は、個人で従業員を使用しない者、または代表者以外に役員がなく従業員を使用しない法人などと定義されています。副業であっても、事業者として業務委託を受けている場合は対象になり得ます。
2-3. 発注者の資本金・従業員規模によって適用可否が変わる
取適法の適用は、取引内容と、発注者・受注者の規模で判断されます。2026年改正では、従来の資本金基準に加えて従業員基準が追加されました。
| 取引の種類 | 委託事業者側の基準 | 中小受託事業者側の基準 |
|---|---|---|
| 製造委託、修理委託、特定運送委託、プログラム作成・運送・倉庫保管・情報処理に関する情報成果物作成委託・役務提供委託 | 資本金3億円超、または資本金1,000万円超3億円以下、または従業員300人超など | 資本金3億円以下、または資本金1,000万円以下、または従業員300人以下など |
| 上記以外の情報成果物作成委託・役務提供委託 | 資本金5,000万円超、または資本金1,000万円超5,000万円以下、または従業員100人超など | 資本金5,000万円以下、または資本金1,000万円以下、または従業員100人以下など |
具体的な適用関係は、資本金基準または従業員基準のいずれかに該当するかで判断されます。フリーランスの場合、個人も対象に含まれるため、「自分は法人ではないから関係ない」とは限りません。
2-4. 対象となる取引:情報成果物作成・役務提供・製造委託など
フリーランスに関係しやすいのは、特に「情報成果物作成委託」です。
情報成果物には、プログラム、デザイン、文章、画像、映像、音声、企画書、広告クリエイティブ、Webサイト、アプリ、システム仕様書などが含まれる可能性があります。たとえば、企業がクライアント向けに納品するWebサイトのデザインをフリーランスに依頼する場合、システム開発会社がアプリ開発の一部を個人エンジニアに依頼する場合、広告代理店がバナーや記事制作を外部クリエイターに依頼する場合などが考えられます。
また、製造委託、修理委託、役務提供委託、2026年から追加された特定運送委託も対象になり得ます。
2-5. 対象外になりやすい取引:自社業務の外注・個人同士の取引など
一方で、すべての外注が取適法の対象になるわけではありません。
たとえば、発注者が事業者ではない一般個人で、個人的な用途のためにイラストや動画編集を依頼するような場合、取適法やフリーランス新法の対象にはなりにくいです。また、役務提供委託については、発注者が他者に提供するサービスの全部または一部を再委託する場面が典型であり、単なる自社内利用のための外注は対象外になることがあります。
ただし、情報成果物作成委託では、自社で使用する情報成果物を継続的に作成している事業者が、その作成の全部または一部を外部に委託する場合も対象になり得ます。判断が難しいため、「自社利用だから絶対に対象外」と決めつけないことが大切です。
2-6. 自分の取引が下請法に当たるか確認するチェックリスト
自分の案件が下請法・取適法の対象になるかは、次の順番で確認しましょう。
| チェック項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 取引相手は事業者か | 企業、個人事業主、団体など、事業として発注しているか |
| 自分は受注側か | 業務委託を受け、成果物や役務を提供しているか |
| 取引内容は対象類型か | 情報成果物作成、役務提供、製造、修理、特定運送などに当たるか |
| 発注者の規模は基準を満たすか | 資本金や常時使用する従業員数を確認できるか |
| 自分の規模は小規模か | 個人、従業員の少ない法人、小規模事業者か |
| 支払条件は明示されているか | 報酬額、支払期日、支払方法が書面やメールで残っているか |
| 不利益な扱いを受けていないか | 未払い、減額、返品、無償修正、買いたたきなどがないか |
1つでも不安がある場合は、契約書や発注書、メール、チャット履歴、請求書、納品記録を整理したうえで、相談窓口や弁護士に確認するのが安全です。
3. 下請法で禁止される発注者の行為
3-1. 報酬の未払い・支払遅延
下請法・取適法で最も問題になりやすいのが、報酬の未払いと支払遅延です。
発注者は、物品や成果物を受領した日、または役務提供を受けた日から60日以内のできる限り短い期間で支払期日を定め、その期日までに代金を支払わなければなりません。検収が遅れている、社内承認が終わっていない、クライアントから入金されていないといった理由だけで、フリーランスへの支払いを遅らせることは認められない可能性があります。
3-2. 一方的な報酬の減額
発注時に決めた報酬を、発注者が後から一方的に減額することも禁止されます。
たとえば、「予算が減ったから半額にしてほしい」「クライアントに値引きされたからあなたの報酬も下げる」「振込手数料や事務手数料を差し引く」といった対応は、フリーランスに責任がない限り問題になり得ます。
3-3. 成果物の受領拒否・返品
フリーランスが契約どおりに納品したにもかかわらず、発注者が正当な理由なく受け取りを拒否したり、受領後に返品したりする行為も禁止されます。
たとえば、デザイン案を提出した後に「プロジェクトがなくなったので受け取れない」と言われた場合、契約内容や発注後の経緯によっては、発注者側の受領拒否や発注取消しが問題になります。
3-4. 買いたたき・不当に低い報酬の押し付け
買いたたきとは、通常支払われる対価と比べて著しく低い報酬を不当に定めることです。
たとえば、相場より明らかに低い金額を提示し、「嫌なら今後発注しない」と圧力をかける場合や、継続案件でコスト上昇があるにもかかわらず価格協議に応じず、一方的に従来価格を押し付ける場合は問題になり得ます。2026年からの取適法では、中小受託事業者から価格協議の求めがあったにもかかわらず、協議に応じない、必要な説明をしないなどの一方的な代金決定も禁止行為として追加されています。
3-5. やり直し・追加作業の無償要求
フリーランスに責任がないにもかかわらず、発注内容を変更したり、無償でやり直しや追加作業を求めたりすることも禁止されます。
たとえば、当初は1ページのLP制作だったのに、納品直前に「ついでに下層ページも追加してほしい」と言われるケース、修正回数の合意がないまま何度も修正を求められるケース、仕様変更なのに「修正扱い」で無料対応を求められるケースなどです。
3-6. 支払期日や発注内容を書面で明示しない行為
発注者には、発注内容、代金額、支払期日、支払方法などを、書面またはメールなどの電磁的方法で明示する義務があります。取引条件を口頭だけで済ませると、後から「そんな条件ではなかった」と争いになりやすくなります。
フリーランス側も、発注内容があいまいな場合は、作業開始前に次のように確認しておくと安全です。
「今回の業務範囲は〇〇、納品物は〇〇、報酬は税込〇円、支払期日は〇月〇日、修正は〇回までという理解でよろしいでしょうか。」
3-7. 振込手数料・システム利用料などを不当に差し引く行為
報酬から振込手数料、システム利用料、事務手数料などを差し引かれるケースもあります。
契約時に明確な合意があり、合理的な範囲であれば直ちに違法とは限りません。しかし、発注後に一方的に差し引く場合や、実質的に報酬の減額といえる場合は問題になります。2026年の取適法関連資料でも、支払手段に関して、支払期日までに代金相当額の満額を得ることが困難なものや、振込手数料を中小受託事業者に負担させることの問題が示されています。
4. フリーランス新法とは?下請法との違い
4-1. フリーランス新法の正式名称と目的
フリーランス新法の正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」です。一般的には「フリーランス・事業者間取引適正化等法」と呼ばれます。
この法律は、個人で働くフリーランスと、組織である発注事業者との間に交渉力の差があることに着目し、フリーランスが安心して働ける環境を整備するために制定されました。取引の適正化と就業環境の整備という2つの観点から、発注事業者の義務と禁止行為を定めています。
4-2. 下請法よりフリーランスを直接保護するための法律
下請法・取適法は、フリーランスだけを対象にした法律ではありません。中小企業や小規模事業者を含む、幅広い受託事業者を保護する制度です。
一方、フリーランス新法は、フリーランスとの業務委託取引を直接の対象にしています。そのため、下請法・取適法の資本金基準や従業員基準に当てはまらない場合でも、フリーランス新法による保護を受けられる可能性があります。
4-3. 対象者の違い:フリーランス・発注事業者の定義
フリーランス新法でいうフリーランスは、法律上は「特定受託事業者」と呼ばれます。具体的には、従業員を使用しない個人、または代表者以外に役員がおらず従業員を使用しない法人などです。
発注者側は、フリーランスに業務委託をする事業者を「業務委託事業者」といい、そのうち従業員を使用する個人や、複数役員がいる法人、従業員を使用する法人などを「特定業務委託事業者」といいます。
4-4. 対象取引の違い:下請法より広く適用されるケース
下請法・取適法は、取引内容と発注者・受注者の規模によって対象が決まります。そのため、小規模な発注者との取引や、対象類型に当たりにくい取引では適用されないことがあります。
一方、フリーランス新法は、フリーランスに対する業務委託取引であれば対象になり得ます。たとえば、小規模な会社や個人事業主からの発注で、取適法の資本金・従業員基準を満たさない場合でも、フリーランス新法の取引条件明示義務などは問題になります。
4-5. 発注者の義務:取引条件の明示・期日内支払い・募集情報の正確表示
フリーランス新法では、発注事業者に対して、取引条件の明示が義務づけられています。明示すべき内容には、給付の内容、報酬額、支払期日、発注者とフリーランスの名称、業務委託をした日、納品日や役務提供日、納品場所、検査完了日、現金以外で支払う場合の支払方法などがあります。
また、一定の発注者には、報酬支払期日の設定と期日内支払い、募集情報の的確表示、ハラスメント対策なども求められます。
4-6. 禁止行為:減額・返品・買いたたき・不当なやり直し要求
フリーランス新法でも、一定期間以上の業務委託について、受領拒否、報酬の減額、返品、買いたたき、購入・利用強制、不当な経済上の利益の提供要請、不当な給付内容の変更・やり直しが禁止されています。
つまり、フリーランスがよく直面する「納品後のキャンセル」「一方的な値下げ」「無償修正の繰り返し」「追加作業の押し付け」は、下請法・取適法だけでなく、フリーランス新法でも問題になり得ます。
4-7. 就業環境整備:ハラスメント対策・育児介護への配慮
フリーランス新法の特徴は、取引条件だけでなく、就業環境の整備も対象にしている点です。
たとえば、ハラスメント対策に関する体制整備、育児介護等と業務の両立に対する配慮、中途解除等の事前予告・理由開示などが定められています。これらは、従来の下請法・取適法だけでは十分にカバーしにくかった領域です。
4-8. 下請法・フリーランス新法・取適法の違いを比較表で整理
| 項目 | 下請法 | 取適法 | フリーランス新法 |
|---|---|---|---|
| 位置づけ | 2025年までの旧制度 | 2026年からの改正後制度 | フリーランス保護のための法律 |
| 主な対象 | 親事業者と下請事業者 | 委託事業者と中小受託事業者 | 発注事業者とフリーランス |
| 判断基準 | 取引内容と資本金基準 | 取引内容、資本金基準、従業員基準 | フリーランスへの業務委託かどうか |
| 対象者 | 中小企業・個人事業主など | 中小受託事業者、個人を含む | 従業員を使用しない個人・一人法人など |
| 主な義務 | 書面交付、支払期日設定、期日内支払いなど | 発注内容明示、記録保存、支払期日設定、遅延利息など | 取引条件明示、期日内支払い、募集情報表示、ハラスメント対策など |
| 主な禁止行為 | 支払遅延、減額、受領拒否、返品、買いたたきなど | 旧下請法の禁止行為に加え、一方的な代金決定、手形払等の禁止など | 減額、返品、買いたたき、不当なやり直し、ハラスメント関連の不備など |
| フリーランスとの関係 | 条件を満たせば対象 | 条件を満たせば対象 | フリーランスを直接保護 |
なお、同じ行為が取適法とフリーランス新法の両方に違反する場合、原則としてフリーランス新法が優先して適用されるとされています。
5. 報酬未払い・支払遅延が起きたときの対処法
5-1. まず契約書・発注書・請求書・納品記録を確認する
報酬未払いが起きたら、まず証拠を整理しましょう。感情的に催促する前に、次の資料を確認します。
契約書、発注書、見積書、請求書、納品メール、納品データの送信履歴、チャット履歴、検収完了の連絡、修正依頼の履歴、作業範囲を示すメッセージ、支払期日がわかる資料を集めます。
契約書がなくても、メールやチャットで発注内容、報酬額、納期、支払期日が確認できれば、請求の根拠になる可能性があります。
5-2. メールやチャットで支払期日と未払い額を明確に伝える
最初の催促では、相手を強く責めるよりも、事実を整理して伝えることが重要です。
たとえば、次のように送ります。
「〇月〇日に納品した〇〇制作業務について、請求書記載の支払期日である〇月〇日時点で、報酬〇円のお支払いが確認できておりません。お手数ですが、入金予定日をご確認のうえ、〇月〇日までにご返信いただけますでしょうか。」
ポイントは、案件名、納品日、請求金額、支払期日、確認してほしい内容、返信期限を明確にすることです。
5-3. 催促文の書き方と送るタイミング
支払期日を1〜3営業日過ぎた段階では、単なる確認として連絡します。1週間程度過ぎても返信がない場合は、やや明確に支払いを求めます。2週間以上放置されている場合や、支払う意思が見えない場合は、内容証明郵便や相談窓口の利用を検討します。
催促文では、次の流れが使いやすいです。
まず、取引の事実を示します。次に、未払い額と支払期日を示します。そのうえで、いつまでに支払ってほしいかを明記します。最後に、支払いが難しい事情がある場合は、具体的な入金予定日を回答するよう求めます。
5-4. 内容証明郵便を送るべきケース
相手が返信しない、支払いを先延ばしし続ける、未払い額が大きい、時効や証拠化が不安、法的手続きも視野に入れている場合は、内容証明郵便を検討します。
内容証明郵便は、どのような内容の文書をいつ差し出したかを証明する制度です。日本郵便のe内容証明では、インターネットを通じて24時間受付が可能です。
ただし、内容証明そのものに相手の支払いを強制する効力があるわけではありません。相手に正式な請求意思を示し、後の交渉や裁判で証拠として使いやすくするための手段です。
5-5. フリーランス・トラブル110番に相談する
フリーランスの未払いトラブルでは、「フリーランス・トラブル110番」に相談する方法があります。報酬の未払い、あいまいな契約、ハラスメントなどについて、フリーランスに関する法律問題に詳しい弁護士が無料で相談に対応しています。相談は匿名でも可能で、秘密厳守とされています。
相談前には、契約書、発注書、請求書、メール、チャット履歴、納品記録、時系列メモを用意しておくとスムーズです。
5-6. 公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省の窓口に申告する
フリーランス新法に違反する疑いがある場合、特定受託事業者は、公正取引委員会または中小企業庁長官に申し出て、適当な措置を求めることができます。また、申出をしたことを理由に、発注者が取引停止や取引数量の削減などの不利益な取扱いをすることは禁止されています。
取適法でも、報復措置は禁止されています。中小受託事業者が公正取引委員会、中小企業庁、事業所管省庁に違反行為を知らせたことを理由に、不利益な取扱いをすることは問題になります。
5-7. 少額訴訟・支払督促・弁護士相談を検討する
任意の催促で支払われない場合は、法的手続きも選択肢になります。
少額訴訟は、60万円以下の金銭の支払いを求める場合に利用できる手続きで、原則として1回の審理で解決を図るものです。支払督促は、申立人の申立てに基づき、裁判所書記官が金銭の支払いを求める制度で、相手方から異議がなければ判決と同様の効力が生じます。
未払い額が大きい場合、相手が争う姿勢を見せている場合、契約内容が複雑な場合、継続取引への影響が大きい場合は、早めに弁護士へ相談したほうがよいでしょう。
5-8. 取引停止や報復が不安なときの注意点
フリーランスにとって、発注者との関係悪化は大きな不安です。特に、売上の大部分を1社に依存している場合、「請求したら今後の仕事がなくなるのでは」と悩むこともあります。
その場合は、いきなり強い表現の内容証明を送るのではなく、まずは証拠を整理し、相談窓口や弁護士に相談してから対応方針を決めましょう。報復措置は禁止されていますが、実務上は関係性の変化が起こることもあります。請求の文面、タイミング、交渉方法を慎重に選ぶことが大切です。
6. 未払いトラブルを防ぐためにフリーランスができる対策
6-1. 契約書・発注書で必ず確認すべき項目
未払いトラブルを防ぐには、作業開始前の確認が最も重要です。
最低限、契約書や発注書で次の項目を確認しましょう。
業務内容、納品物、納期、報酬額、消費税の扱い、源泉徴収の有無、支払期日、支払方法、検収期間、修正回数、追加作業の料金、著作権や利用範囲、キャンセル時の報酬、秘密保持、契約解除条件です。
6-2. 業務範囲・納品物・修正回数を明確にする
「Webサイト制作一式」「記事作成」「デザイン対応」などの表現だけでは、業務範囲があいまいです。
たとえば、Web制作なら、ページ数、デザイン範囲、コーディング有無、フォーム設定、サーバー対応、スマホ対応、納品形式を明確にします。記事制作なら、文字数、構成作成の有無、画像選定、入稿作業、修正回数を決めます。
修正については、「軽微な修正は2回まで」「構成変更や追加ページは別途見積もり」といった形で決めておくと、無償対応の押し付けを防ぎやすくなります。
6-3. 報酬額・支払期日・支払方法を明記する
報酬額は、税込か税別かを必ず明記します。源泉徴収の対象になる業務では、源泉徴収前の金額と振込予定額も確認しておきましょう。
支払期日は、「納品月の翌月末払い」「検収完了月の翌月末払い」など、具体的に書きます。「支払いは後日」「入金があり次第」などの表現は避けるべきです。
取適法やフリーランス新法では、支払期日を発注した物品等を受け取った日から60日以内のできる限り短い期間で定めることが重要なルールになっています。
6-4. 追加作業が発生したときの料金ルールを決める
トラブルの多くは、追加作業の扱いから生じます。
「ちょっとだけ直して」「ついでにこれもお願い」「簡単でいいので追加して」と言われた場合でも、作業時間が発生するなら報酬の対象です。
契約時に、追加作業は事前見積もり、時間単価〇円、ページ追加〇円、修正回数超過後は1回〇円など、ルールを決めておきましょう。
6-5. 口約束を避け、メールやチャットで証拠を残す
電話やオンライン会議で決まった内容は、必ずメールやチャットで確認します。
「本日のお打ち合わせで、以下の内容にて進行する認識です」と送っておくだけでも、後日の証拠になります。相手から明確な返信がなくても、やり取りの流れとして残るため、何も記録がないよりはるかに有利です。
6-6. 継続案件では月ごとの締め日・支払日を確認する
月額契約や継続案件では、締め日と支払日を明確にしましょう。
たとえば、「毎月末締め、翌月末払い」「毎月25日締め、翌月10日払い」などです。作業量が月によって変動する場合は、月額固定なのか、時間精算なのか、成果物単位なのかも決めておく必要があります。
継続案件では、最初は信頼関係があっても、途中で担当者変更や予算変更が起こることがあります。毎月の請求・支払いの証拠を残しておきましょう。
6-7. 危険な発注者を見分けるポイント
次のような発注者には注意が必要です。
契約書や発注書を出したがらない、報酬や支払日をあいまいにする、やたらと急がせる、相場より極端に安い金額を提示する、過去の実績を過度に求めるのに条件を明示しない、修正無制限を当然と考えている、担当者の返信が遅い、会社情報や所在地が不明確、他のフリーランスへの不満を頻繁に口にする、支払いサイトが長すぎる、といったケースです。
受注前に少しでも違和感がある場合は、前払い、一部着手金、マイルストーン払い、契約書締結後の着手などを提案しましょう。
7. 発注者側が守るべき下請法・フリーランス新法のポイント
7-1. 発注時に取引条件を明示する
発注者は、フリーランスに業務を依頼する際、発注内容、報酬額、支払期日、支払方法などを明示する必要があります。フリーランス新法では、メールやSNSメッセージなどの電磁的方法による明示も認められていますが、口頭だけの明示は避けるべきです。
発注時点で条件を明確にしておくことは、フリーランスを守るだけでなく、発注者自身をトラブルから守ることにもつながります。
7-2. 支払期日を守り、遅延や一方的な減額をしない
発注者は、社内の検収や資金繰りを理由に、フリーランスへの支払いを遅らせないよう注意が必要です。
また、発注後に「予算が足りない」「クライアントから値引きされた」「期待した品質ではなかった」といった理由で一方的に減額することは、下請法・取適法やフリーランス新法上の問題になり得ます。
7-3. 無償の修正・追加作業を求めない
当初の発注範囲を超える修正や追加作業は、原則として追加報酬の対象です。
発注者側は、修正が契約範囲内なのか、仕様変更なのか、追加依頼なのかを整理し、追加依頼であれば事前に見積もりを取り、フリーランスの同意を得るべきです。
7-4. 契約書・発注書・検収記録を保存する
取適法では、発注内容や代金額など、取引に関する記録を作成し、保存する義務があります。発注書、契約書、請求書、納品記録、検収記録、支払記録を整理して保存しておくことが重要です。
記録が残っていないと、行政調査やトラブル時に、適正な取引をしていたことを説明しにくくなります。
7-5. ハラスメント相談体制や募集情報の管理を整備する
フリーランス新法では、募集情報の的確表示、育児介護等と業務の両立への配慮、ハラスメント対策に係る体制整備なども求められます。
発注者は、募集時の報酬額や業務内容を実態と異なる形で表示しないこと、担当者による威圧的な言動や性的言動を防ぐこと、相談があった場合に適切に対応できる体制を整えることが必要です。
7-6. 違反時の行政指導・勧告・公表・罰則リスクを理解する
フリーランス新法では、違反行為に対して、報告徴収・立入検査、指導・助言、勧告、命令・公表、罰金・過料などの対応が定められています。
取適法でも、違反があれば行政指導や勧告、公表の対象になる可能性があります。発注者にとって、フリーランスとの取引管理は単なるマナーではなく、法令遵守の問題です。
8. フリーランスと下請法に関するよくある質問
8-1. フリーランスは全員、下請法で守られますか?
いいえ。フリーランス全員が下請法・取適法で守られるわけではありません。
対象になるには、取引内容が法律の対象類型に当たり、発注者と受注者の規模が基準を満たす必要があります。ただし、取適法の対象外でも、フリーランス新法で守られる可能性があります。
8-2. 下請法とフリーランス新法はどちらが優先されますか?
同じ行為が取適法とフリーランス新法の両方に違反する場合、原則としてフリーランス新法が優先して適用されるとされています。
ただし、どちらの法律が問題になるかは、取引内容、発注者の規模、フリーランス側の状況によって変わります。迷う場合は、相談窓口や専門家に確認しましょう。
8-3. 契約書がなくても未払いを請求できますか?
契約書がなくても、報酬の請求ができる可能性はあります。
メール、チャット、見積書、請求書、納品記録、相手からの修正依頼、検収完了の連絡などから、業務内容や報酬額、納品の事実を示せる場合があるためです。
ただし、契約書がないと条件の証明が難しくなります。今後は、少なくともメールやチャットで、業務範囲、報酬額、支払期日を残すようにしましょう。
8-4. クライアントが個人事業主でも下請法は適用されますか?
クライアントが個人事業主の場合でも、事業として発注しており、従業員数などの基準や取引内容を満たせば、取適法の対象になる可能性はあります。
また、取適法の対象にならない場合でも、フリーランス新法の「業務委託事業者」または「特定業務委託事業者」として義務を負う可能性があります。特に、従業員を使用している個人事業主がフリーランスに業務委託する場合は注意が必要です。
8-5. 報酬から振込手数料を引かれるのは違法ですか?
必ず違法とは限りませんが、問題になる場合があります。
契約時に振込手数料の負担について明確に合意していれば、直ちに違法とはいえないケースもあります。一方、発注後に一方的に差し引く、説明なく毎回控除する、実質的に報酬の減額になっている場合は、下請法・取適法やフリーランス新法上の問題になり得ます。
8-6. 納品後に一方的にキャンセルされた場合はどうすればいいですか?
まず、発注内容、納品日、納品物、相手の受領状況、キャンセル理由を確認しましょう。
フリーランス側に責任がなく、契約どおりに納品しているにもかかわらず、発注者都合でキャンセルされた場合は、報酬を請求できる可能性があります。受領拒否、返品、不当な給付内容の変更、やり直し要求などに当たる可能性もあるため、証拠を整理して相談することをおすすめします。
8-7. 相談したことが発注者に知られるリスクはありますか?
フリーランス・トラブル110番では、相談は秘密厳守で、相談を受けたこと自体を秘密に扱い、相手方への連絡も行わないとされています。匿名相談も可能です。
また、フリーランス新法では、申出をしたことを理由に、発注者が取引停止や取引数量の削減などの不利益な取扱いをすることは禁止されています。
8-8. 弁護士に相談すべき金額の目安はありますか?
明確な金額の基準はありません。
未払い額が少額でも、継続的に同じ発注者と取引している場合、今後も同じ被害が続く可能性がある場合、相手が支払いを拒否している場合、契約書や著作権の問題が絡む場合は、早めに相談する価値があります。
60万円以下の金銭請求であれば少額訴訟という選択肢もありますが、相手が争う場合や証拠関係が複雑な場合は、弁護士に方針を確認したほうが安心です。
まとめ
フリーランスは、条件を満たせば下請法、現在の取適法で守られる可能性があります。特に、Web制作、システム開発、デザイン、ライティング、動画制作などの情報成果物作成委託では、発注者の規模や取引内容によって、支払遅延、減額、買いたたき、無償修正要求などが問題になります。
また、取適法の対象外でも、フリーランス新法で保護される可能性があります。フリーランス新法は、取引条件の明示、期日内支払い、減額・返品・買いたたき・不当なやり直し要求の禁止、ハラスメント対策など、フリーランスに直接関係するルールを定めています。
未払いが起きたら、まず契約書、発注書、請求書、納品記録、メール、チャット履歴を整理しましょう。そのうえで、支払期日と未払い額を明確に伝え、必要に応じて内容証明郵便、フリーランス・トラブル110番、公正取引委員会や中小企業庁への申出、少額訴訟や支払督促、弁護士相談を検討します。
一番大切なのは、トラブルが起きてから慌てるのではなく、発注前に業務範囲、報酬額、支払期日、修正回数、追加作業の料金を明確にしておくことです。フリーランス側も発注者側も、下請法・取適法とフリーランス新法の基本を理解し、書面やメールで条件を残すことで、公正で安心できる取引につなげられます。

