フリーランスに106万の壁はある?扶養・社会保険・130万の壁との違いを徹底解説

はじめに

「フリーランスの収入が106万円を超えると、配偶者の扶養から外れるのでは?」と不安に感じる人は少なくありません。

しかし、いわゆる「106万の壁」は、原則としてパートやアルバイトなど、勤務先と雇用契約を結んで働く人に関係する社会保険の加入基準です。業務委託で働くフリーランスには、106万円という金額だけで社会保険への加入義務が生じるわけではありません。

フリーランスが扶養内で働く場合は、106万円よりも、社会保険上の「130万の壁」と税金上の所得基準を確認することが重要です。ただし、パートとフリーランスを掛け持ちしている人は、勤務先で106万の壁の対象になる可能性があります。

なお、2025年度の税制改正や2025年の年金制度改正により、年収の壁をめぐる基準は大きく変わっています。本記事では、2026年6月時点の制度を前提に、フリーランスと106万の壁、扶養、社会保険、130万の壁の違いを解説します。

1. フリーランスに「106万の壁」はある?まず結論を解説

1-1. 106万の壁は原則として「会社で働く人」の社会保険加入ライン

106万の壁とは、パートやアルバイトなどの短時間労働者が、勤務先の健康保険と厚生年金保険に加入する目安を指す言葉です。

2026年6月時点では、従業員数51人以上の対象事業所で働き、週の所定労働時間が20時間以上、所定内賃金が月額8万8,000円以上などの要件を満たすと、勤務先の社会保険に加入します。月額8万8,000円を年額に換算すると約105万6,000円になるため、「106万の壁」と呼ばれています。年金機構+1

つまり、106万の壁は単なる年収基準ではなく、勤務時間、賃金、学生かどうか、勤務先の規模などを組み合わせて判定する制度です。

1-2. フリーランス単独なら106万円ではなく「扶養判定」と「税金」が重要

業務委託契約で仕事をするフリーランスは、原則として勤務先に雇用されている労働者ではありません。そのため、フリーランスの売上が106万円を超えても、それだけで健康保険や厚生年金保険に加入することはありません。

配偶者の社会保険上の扶養に入っているフリーランスの場合、主に確認すべきなのは、年間収入が原則130万円未満であるかどうかです。一方、税金上の扶養については、売上ではなく、必要経費などを差し引いた「所得」を基準に判定します。年金機構+1

ただし、フリーランスが法人を設立し、法人から役員報酬を受け取る場合などは、個人事業主とは社会保険の扱いが異なります。

1-3. ただしパート・アルバイトを兼業しているフリーランスは対象になる場合がある

パートやアルバイトとフリーランスを掛け持ちしている場合、勤務先での働き方が106万の壁の要件に該当する可能性があります。

例えば、次のような働き方です。

  • パート先の週所定労働時間が20時間以上

  • パート先の所定内賃金が月額8万8,000円以上

  • 2カ月を超えて雇用される見込みがある

  • 学生ではない

  • パート先が従業員数51人以上の対象事業所である

この場合、フリーランス収入の金額とは別に、パート先で健康保険と厚生年金保険へ加入することがあります。

月額8万8,000円の判定では、原則としてパート先から支払われる所定内賃金を確認します。業務委託による売上を加算して「106万円になったか」を判定するわけではありません。年金機構+1

1-4. 106万円を超えたらすぐ損するわけではない理由

106万円は、所得税や社会保険料が一斉に発生する境界線ではありません。そもそも短時間労働者の社会保険加入は、年末時点の年間収入だけでなく、月額賃金や勤務時間などで判定されます。

社会保険に加入すると給与から保険料が控除されますが、健康保険料と厚生年金保険料は原則として勤務先と本人が負担します。また、将来受け取れる厚生年金が増えるほか、要件を満たせば傷病手当金や出産手当金などの保障を受けられます。

そのため、「106万円を1円超えると必ず損をする」と考えるのは正確ではありません。短期的な手取りだけでなく、保険料の事業主負担や保障内容も含めて判断する必要があります。

2. 106万の壁とは?社会保険に加入する基準をわかりやすく解説

2-1. 106万の壁の意味は「年収約106万円で社会保険加入の対象になること」

106万の壁は、短時間労働者が勤務先の健康保険と厚生年金保険へ加入する基準を、年収に置き換えて表現したものです。

ただし、法律上「年間収入が106万円以上なら加入する」と定められているわけではありません。実際の基準は「所定内賃金が月額8万8,000円以上」であり、8万8,000円に12カ月を掛けた105万6,000円が約106万円になることから、この呼び方が定着しています。

2-2. 106万の壁の対象になる主な条件

2026年6月時点で、通常の労働者の所定労働時間や所定労働日数の4分の3未満で働く短時間労働者は、原則として次の要件をすべて満たすと社会保険の加入対象になります。

判定項目2026年6月時点の主な基準
勤務先の規模厚生年金保険の被保険者数が51人以上
労働時間週の所定労働時間が20時間以上
賃金所定内賃金が月額8万8,000円以上
雇用期間2カ月を超えて雇用される見込み
学生原則として学生ではない

なお、勤務先の通常の労働者と比べて、所定労働時間と所定労働日数がいずれも4分の3以上である場合は、企業規模や月額8万8,000円の要件にかかわらず、社会保険の加入対象になることがあります。年金機構+1

2-3. 月額8.8万円・週20時間以上などの判定ポイント

月額8万8,000円は、基本給や毎月支払われる諸手当などの所定内賃金で判定します。残業代、賞与、臨時に支払われる賃金などは、原則として月額8万8,000円の判定に含まれません。

また、実際にたまたま週20時間を超えたかではなく、雇用契約や就業規則などで定められた「所定労働時間」が基本です。ただし、契約上は週20時間未満でも、実際の労働時間が継続して週20時間以上となった場合は、加入対象になることがあります。

フリーランスとの兼業では、パートの所定労働時間や所定内賃金と、業務委託の稼働時間や売上を合算して106万の壁を判定するわけではありません。

2-4. 106万の壁は「扶養から外れる壁」と混同されやすい

106万の壁と130万の壁は、どちらも社会保険に関係しますが、仕組みが異なります。

106万の壁は、本人が勤務先の社会保険に加入する基準です。要件を満たして社会保険へ加入した結果、配偶者の社会保険上の扶養から外れます。

一方、130万の壁は、勤務先の社会保険に加入しない人について、家族の社会保険上の扶養に入れるかを判断する収入基準です。

年収が130万円未満でも、勤務先で106万の壁の加入要件に該当すれば、自分の勤務先の社会保険に加入するため、配偶者の扶養には入り続けられません。年金機構

2-5. 2026年以降の制度改正で106万の壁はどう変わる?

2025年に成立した年金制度改正法により、月額8万8,000円以上という賃金要件、いわゆる106万の壁は撤廃されることになりました。

厚生労働省の案内では、最低賃金の状況を踏まえ、賃金要件は2026年10月に撤廃される予定です。撤廃後は、対象事業所で週20時間以上働く短時間労働者について、月額8万8,000円未満でも社会保険への加入対象になり得ます。厚生労働省+1

企業規模要件も次のように段階的に縮小されます。

時期対象となる企業規模
2026年6月時点51人以上
2027年10月から36人以上
2029年10月から21人以上
2032年10月から11人以上
2035年10月から企業規模要件を撤廃

今後は「年収106万円を超えたか」よりも、「雇用契約で週20時間以上働いているか」が重要になります。厚生労働省+1

3. フリーランスが注意すべき扶養の種類

3-1. 扶養には「税金上の扶養」と「社会保険上の扶養」がある

フリーランスが扶養内で働く場合は、次の2種類を分けて考える必要があります。

種類主な影響主な判定基準
税金上の扶養配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除年間の合計所得金額
社会保険上の扶養健康保険料の負担、国民年金第3号被保険者今後1年間の収入見込みなど

税金上の扶養を外れても、直ちに社会保険上の扶養を外れるとは限りません。反対に、社会保険上の扶養を外れても、配偶者特別控除が適用されることがあります。

3-2. 配偶者の扶養に入る場合の考え方

税金上は、フリーランスの配偶者の合計所得金額が58万円以下であれば、納税者本人の所得要件などを満たすことで配偶者控除の対象になります。

合計所得金額が58万円を超えても133万円以下であれば、配偶者特別控除の対象になる可能性があります。控除額は、フリーランス本人と控除を受ける配偶者の所得に応じて段階的に減少します。国税庁+1

社会保険上は、原則として年間収入130万円未満であることに加え、被保険者によって主として生計を維持されていることが必要です。配偶者が20歳以上60歳未満で社会保険上の扶養に入る場合、健康保険の被扶養者になるとともに、国民年金の第3号被保険者となるのが一般的です。年金機構+1

3-3. 親や家族の扶養に入る場合の考え方

親やその他の家族の税金上の扶養に入る場合、原則として年間の合計所得金額が58万円以下であることなどが必要です。扶養控除の対象になるには、年齢や生計を一にしているかといった要件も確認します。16歳未満の親族には、所得税の扶養控除はありません。国税庁+1

社会保険上の扶養では、原則として年間収入130万円未満が基準です。ただし、60歳以上または一定の障害がある人は180万円未満となります。

また、被保険者の配偶者を除く19歳以上23歳未満の家族については、2025年10月以降、社会保険上の収入基準が150万円未満に引き上げられています。共済会健保+1

なお、親や子が健康保険上の被扶養者になっても、国民年金の第3号被保険者にはなりません。第3号被保険者になれるのは、厚生年金加入者に扶養されている一定の配偶者です。

3-4. フリーランスの扶養判定は「収入」ではなく「所得・必要経費」が関係する

税金上の扶養では、基本的に次の計算で求めた事業所得や雑所得を使用します。

事業所得・業務に係る雑所得=売上などの総収入金額-必要経費

青色申告特別控除を受ける場合は、要件に応じて事業所得から最大65万円、55万円または10万円を控除できます。国税庁+2国税庁+2

一方、社会保険上の扶養では、税務上の所得金額をそのまま使用するとは限りません。自営業者については、年間総収入から事業を行うために直接必要と認められる経費を差し引いて判定します。

税務上は必要経費になる支出でも、健康保険の扶養判定では控除を認められないことがあります。減価償却費、青色申告特別控除、家事按分した費用などの扱いは、加入している健康保険の運用を確認する必要があります。年金機構+1

3-5. 扶養内で働きたい人が最初に確認すべきこと

扶養内で働きたいフリーランスは、最初に配偶者や親が加入している健康保険へ問い合わせましょう。

確認したいのは、次の内容です。

  • 自営業者の年間収入をどのように計算するか

  • 控除できる経費の範囲

  • 青色申告特別控除を収入から差し引けるか

  • 確定申告書や収支内訳書など、必要な提出書類

  • 開業した場合の届出期限

  • 収入が基準を超えそうな場合の手続き

健康保険組合によって、必要書類や経費の取り扱いが異なる場合があります。税務上の所得が58万円以下だからといって、社会保険上も必ず扶養に入れるとは限りません。

4. フリーランスと130万の壁の違い

4-1. 130万の壁は社会保険の扶養から外れる目安

130万の壁とは、健康保険の被扶養者や国民年金第3号被保険者でいられるかを判断する収入基準です。

原則として、今後1年間の年間収入が130万円未満であることが求められます。同居している場合は、本人の収入が被保険者の収入の半分未満、別居している場合は被保険者から受ける仕送り額未満であることも基準になります。年金機構

「130万円以下」ではなく「130万円未満」である点にも注意が必要です。

4-2. フリーランスは106万の壁より130万の壁を意識すべき理由

フリーランスは勤務先に雇用されていないため、通常は勤務先の社会保険に加入する106万の壁の対象になりません。

その代わり、配偶者などの社会保険上の扶養に入っている場合は、事業収入が扶養基準を超えると、自分で国民健康保険や国民年金に加入する可能性があります。

したがって、フリーランス単独で働く人は、売上106万円よりも、健康保険が定める年間収入130万円未満の基準を優先して確認する必要があります。

4-3. 130万円の判定で見られる収入・経費・継続性

社会保険上の130万円は、原則として過去1年間の確定した収入だけで判定するものではありません。現在の収入状況から、今後1年間にどの程度の収入が見込まれるかを確認します。

フリーランスの場合は、一般的に次の資料が求められます。

  • 確定申告書

  • 青色申告決算書または収支内訳書

  • 売上台帳

  • 業務委託契約書

  • 請求書や入金履歴

  • 事業内容が分かる書類

自営業者の収入は、年間総収入から直接的な必要経費を差し引いて確認されますが、税務上の必要経費がすべて認められるとは限りません。年金機構+1

4-4. 130万円を超えると国民健康保険・国民年金に加入する可能性がある

フリーランスが社会保険上の扶養から外れ、勤務先の社会保険にも加入できない場合は、原則として住んでいる市区町村の国民健康保険に加入します。

配偶者の扶養に入っていた20歳以上60歳未満の人は、国民年金第3号被保険者から第1号被保険者へ変更し、自分で国民年金保険料を支払うことになります。

国民健康保険料は、前年の所得、自治体、世帯構成などによって異なります。収入が130万円を少し超えただけでも一定の負担が生じるため、扶養を外れて働く場合は、どの程度まで売上を増やすかを事前に検討することが大切です。

4-5. 一時的に130万円を超えた場合の扱い

パートやアルバイトでは、繁忙期の残業などで一時的に収入が130万円を超えた場合、勤務先の事業主が一時的な収入変動であることを証明することで、扶養を継続できる仕組みがあります。厚生労働省+1

ただし、業務委託で働くフリーランスの取引先は、通常、雇用主ではありません。そのため、フリーランスの事業収入が増えたケースでは、事業主の証明を利用できないのが一般的です。

また、2026年4月からは、給与で働く人について、労働契約から見込まれる年間収入が130万円未満で、他の収入が見込まれないなどの条件を満たす場合、原則として扶養に該当する取り扱いが導入されています。

ただし、フリーランスの事業収入など給与以外の収入がある場合は、従来どおり他の収入を含めて判定されます。パートとフリーランスを掛け持ちしている人は、給与の契約額だけで扶養が確定するわけではありません。厚生労働省+2厚生労働省+2

5. 103万・106万・130万・150万・201万の壁の違い

5-1. 103万の壁は所得税・扶養控除に関する壁

103万の壁は、かつて給与所得控除55万円と基礎控除48万円を合計した金額として広く使われていた表現です。また、給与収入103万円以下であれば、配偶者控除などの所得要件を満たす目安でもありました。

しかし、2025年度税制改正により、給与所得控除の最低額は65万円、税金上の扶養に関する所得要件は58万円に引き上げられました。そのため、給与収入だけの人が配偶者控除の所得要件を満たす目安は、現在は123万円です。国税庁+1

フリーランスには給与所得控除がないため、103万円や123万円をそのまま当てはめません。事業所得や雑所得を計算して判定します。

5-2. 106万の壁は勤務先の社会保険加入に関する壁

106万の壁は、短時間労働者が勤務先の健康保険と厚生年金保険に加入する目安です。

2026年6月時点では、月額8万8,000円以上、週20時間以上、従業員数51人以上などの条件があります。フリーランスの業務委託収入だけで106万円を超えても、この制度によって社会保険へ加入することはありません。

なお、月額8万8,000円以上という賃金要件は、2026年10月に撤廃される予定です。厚生労働省+1

5-3. 130万の壁は社会保険の扶養に関する壁

130万の壁は、健康保険の被扶養者でいられるかを判断する原則的な収入基準です。

フリーランスの場合、単純な売上ではなく、年間総収入から健康保険が認める直接的な経費を差し引いて判定します。ただし、経費の範囲や提出書類は加入先によって異なる場合があります。

5-4. 150万・201万の壁は配偶者控除・配偶者特別控除に関する壁

従来、給与収入150万円までは配偶者特別控除を満額受けられる目安として「150万の壁」と呼ばれていました。

2025年分以降は給与所得控除の最低額が65万円に引き上げられたため、配偶者特別控除を満額受けられる給与収入の目安は160万円です。給与収入が160万円を超えると控除額が段階的に減少し、約201万6,000円を超えると配偶者特別控除の対象外になります。国税庁+1

フリーランスの場合は給与収入ではなく、次の所得基準で確認します。

  • 合計所得金額58万円以下:配偶者控除の対象

  • 58万円超95万円以下:配偶者特別控除を満額受けられる可能性

  • 95万円超133万円以下:配偶者特別控除が段階的に減少

  • 133万円超:配偶者特別控除の対象外

控除を受ける配偶者本人の合計所得金額が900万円を超える場合は控除額が減少し、1,000万円を超える場合は配偶者控除・配偶者特別控除を受けられません。国税庁+1

5-5. フリーランスは「年収の壁」を会社員・パートと同じように考えない

給与所得者とフリーランスでは、収入から所得を計算する方法が異なります。

働き方税金上の所得の基本計算
会社員・パート給与収入-給与所得控除
フリーランス売上-必要経費-青色申告特別控除など
業務に係る雑所得収入-必要経費

そのため、同じ売上・年収でも、必要経費や所得控除によって税金の結果は変わります。また、社会保険上の収入計算では、税務上の所得計算とは異なる経費基準が使われることがあります。

フリーランスは「売上が103万円、106万円、130万円を超えたか」だけで判断せず、税金上の所得と社会保険上の収入を別々に計算しましょう。

6. フリーランスが扶養内で働く場合の収入計算方法

6-1. 売上・収入・所得の違い

フリーランスの扶養判定では、売上、収入、所得を区別することが重要です。

  • 売上・総収入金額:取引先から受け取った報酬などの合計

  • 必要経費:仕事をするために必要となった支出

  • 所得:売上や収入から必要経費を差し引いた金額

例えば、年間売上が150万円、必要経費が50万円なら、青色申告特別控除前の事業所得は100万円です。

税金上は、この所得をもとに配偶者控除や配偶者特別控除を判定します。一方、社会保険では、50万円の経費がすべて直接的経費として認められるとは限りません。

6-2. 必要経費として認められやすいもの

税務上、フリーランスの必要経費になり得るものには、次のような支出があります。

  • 仕事で使用するパソコンや周辺機器

  • 業務用ソフトやクラウドサービスの利用料

  • 事務用品費

  • 通信費

  • 取引先との打ち合わせに必要な交通費

  • 業務に関係する書籍や研修費

  • 外注費

  • 広告宣伝費

  • 事務所の賃料

  • 自宅兼事務所の家賃や光熱費の事業使用分

私生活と仕事の両方で使う支出は、合理的な基準で家事按分する必要があります。

ただし、健康保険の扶養判定では、税務上の必要経費よりも範囲が狭く、「その収入を得るために直接必要な経費」だけを控除対象とすることがあります。

6-3. 青色申告特別控除は扶養判定にどう影響する?

青色申告特別控除は、税金上の所得を減らす効果があります。

例えば、売上150万円、必要経費40万円、青色申告特別控除65万円の場合、税金上の事業所得は次のとおりです。

150万円-40万円-65万円=45万円

合計所得金額がほかになければ、58万円以下となるため、税金上は配偶者控除の所得要件を満たす可能性があります。国税庁+1

一方、社会保険上の扶養判定では、青色申告特別控除を直接的経費として差し引かない取り扱いが一般的です。この例で健康保険が40万円の経費をすべて認める場合、社会保険上の収入は110万円となります。

したがって、青色申告によって税金上の扶養に入りやすくなっても、社会保険上の収入が同じように減るとは限りません。

6-4. 業務委託・在宅ワーク・副業収入の扱い

業務委託や在宅ワークによる収入は、その実態に応じて事業所得または雑所得として扱われます。継続的に事業として行っている場合は事業所得、会社員が副業として小規模に行っている場合などは、業務に係る雑所得になることがあります。

どちらの場合も、税金上は基本的に総収入金額から必要経費を差し引いて所得を計算します。国税庁+1

パート給与と業務委託収入の両方がある場合、税金上は給与所得と事業所得または雑所得を合計して、配偶者控除などの所得要件を確認します。

社会保険上の扶養判定でも、給与収入だけでなく、事業収入、年金収入などを含めて判定するのが原則です。

6-5. 扶養内に収めたい場合のシミュレーション例

年間売上160万円、税務上の必要経費25万円、青色申告特別控除65万円のフリーランスを例に考えます。

税金上の事業所得は次のとおりです。

160万円-25万円-65万円=70万円

合計所得金額70万円は58万円を超えているため、配偶者控除の対象にはなりません。ただし、95万円以下であるため、控除を受ける配偶者の所得要件などを満たせば、配偶者特別控除を満額受けられる可能性があります。

一方、健康保険が25万円をすべて直接的経費として認め、青色申告特別控除を差し引かない場合、社会保険上の収入は次のとおりです。

160万円-25万円=135万円

この場合、原則130万円未満という基準を超えるため、社会保険上の扶養から外れる可能性があります。

同じ売上でも、税金上は配偶者特別控除を満額受けられる一方、社会保険上は扶養から外れるという結果があり得ます。

7. 106万円・130万円を超えた場合に起こること

7-1. 社会保険の扶養から外れる可能性がある

パート先で106万の壁の加入要件を満たした場合は、自分の勤務先の社会保険へ加入し、配偶者の扶養から外れます。

フリーランスの社会保険上の収入が130万円以上になる見込みの場合も、原則として被扶養者の要件を満たさなくなります。

ただし、106万円または130万円を超えたという事実だけで、税金上の扶養も同時に外れるわけではありません。

7-2. 国民健康保険料・国民年金保険料の負担が発生する

フリーランスが扶養から外れ、勤務先の社会保険にも加入しない場合は、国民健康保険料を自分で負担します。

配偶者の扶養から外れる20歳以上60歳未満の人は、原則として国民年金第1号被保険者になり、国民年金保険料の負担も発生します。

国民健康保険料は前年所得などをもとに計算されるため、扶養を外れた直後の収入だけでは正確な負担額を判断できません。自治体の試算ページや窓口で確認しましょう。

7-3. 所得税・住民税が発生する可能性がある

所得税や住民税は、106万円や130万円という社会保険の基準ではなく、年間所得から所得控除を差し引いて計算します。

2026年分の所得税では、合計所得金額132万円以下の人の基礎控除は95万円です。ただし、ほかの所得、青色申告特別控除、社会保険料控除、生命保険料控除などによって結果は変わります。住民税は所得税と基礎控除や非課税基準が異なります。国税庁+1

したがって、「売上が106万円を超えたから所得税がかかる」「130万円未満なら税金がかからない」とは限りません。

7-4. 配偶者や親の手取りに影響する場合がある

フリーランスの合計所得金額が58万円を超えると、配偶者控除ではなく配偶者特別控除の判定に移ります。所得が95万円を超えると、配偶者特別控除額は段階的に減少します。

親の税金上の扶養に入っている場合も、本人の合計所得金額が基準を超えることで、親が扶養控除を受けられなくなる場合があります。

また、配偶者や親の勤務先から家族手当、扶養手当が支給されている場合は、会社独自の収入基準にも注意が必要です。税金や社会保険の基準とは別に、123万円、130万円などを支給条件としていることがあります。

7-5. 手取りが減りやすいケースと増えやすいケース

手取りが減りやすいのは、社会保険上の扶養をわずかに超えたものの、収入の増加額が国民健康保険料や国民年金保険料の負担を十分に上回らないケースです。

一方、パート先で社会保険に加入する場合は、保険料の一部を勤務先が負担します。収入を継続的に増やせるなら、扶養内に抑えるよりも手取りが増える可能性があります。

損得の分岐点は、自治体の国民健康保険料、年齢、配偶者の所得、勤務先の社会保険料率、家族手当の有無などによって異なります。一律に「年収いくらまでなら得」とは判断できません。

8. フリーランスが損しないための対策

8-1. 扶養内で働くなら年間売上と所得をこまめに管理する

扶養内で働きたい場合は、年末になってから売上を確認するのではなく、毎月の売上と経費を記録しましょう。

次の3つを分けて管理することが大切です。

  • 年間売上の見込み

  • 税金上の所得の見込み

  • 社会保険上の収入の見込み

社会保険では今後1年間の収入見込みで判定されるため、年の途中でも契約単価や仕事量が増えれば、扶養資格を再確認する必要があります。

8-2. 経費を正しく計上して所得を把握する

仕事に必要な支出を正しく経費計上すれば、事業所得や雑所得を適切に計算できます。

ただし、扶養内に収める目的で、私的な支出を経費に含めることはできません。領収書、請求書、クレジットカード明細などを保存し、仕事との関係を説明できる状態にしておきましょう。

税務上の経費と、社会保険の扶養判定で認められる直接的経費は異なる可能性があるため、二つの計算表を作る方法も有効です。

8-3. 配偶者の勤務先や健康保険組合の基準を確認する

社会保険上の扶養を最終的に認定するのは、配偶者や親が加入する健康保険です。

「確定申告上の所得が130万円未満だから大丈夫」と自己判断せず、次の点を事前に確認しましょう。

  • 自営業者の収入計算方法

  • 控除できる経費

  • 収入確認に使う期間

  • 開業時や収入増加時の届出

  • 扶養資格の再確認に必要な書類

健康保険組合によっては、売上台帳や契約書など、確定申告書以外の資料を求められることがあります。

8-4. 扶養を外れて働くなら収入アップの目安を決める

扶養を外れる場合は、130万円を少し超えることだけを目標にするのではなく、追加負担を差し引いても手取りが増える売上を目指しましょう。

見積もるべき費用には、次のものがあります。

  • 国民健康保険料

  • 国民年金保険料

  • 所得税

  • 住民税

  • 個人事業税

  • 配偶者や親の税負担増加

  • 家族手当の減額・終了

国民健康保険料は自治体によって異なるため、住んでいる市区町村の条件で試算することが重要です。

8-5. 税理士・社労士・健康保険組合に相談すべきケース

次のような場合は、専門家や加入先への確認を検討しましょう。

  • パート給与とフリーランス収入の両方がある

  • 複数の取引先から継続的に報酬を受け取っている

  • 経費のうち、扶養判定で認められる範囲が分からない

  • 年の途中で売上が急増した

  • 法人化を検討している

  • 配偶者控除と社会保険の扶養を両方維持したい

  • 開業届を出したことで扶養に影響するか確認したい

税金については税理士や税務署、勤務先の社会保険加入については社会保険労務士や年金事務所、被扶養者認定については加入先の健康保険へ相談するのが基本です。

9. フリーランスの106万の壁に関するよくある質問

9-1. フリーランスでも106万円を超えたら扶養から外れる?

フリーランスの売上や所得が106万円を超えただけでは、原則として社会保険の扶養から外れません。

106万の壁は、勤務先と雇用契約を結ぶ短時間労働者の社会保険加入基準です。フリーランスが確認すべき社会保険上の基準は、原則130万円未満の収入要件です。

ただし、パートやアルバイトを兼業している場合は、勤務先で106万の壁の加入条件に該当する可能性があります。

9-2. 業務委託収入が106万円を超えたら社会保険に入れる?

業務委託収入が106万円を超えても、取引先の健康保険や厚生年金保険には原則として加入できません。

社会保険への加入には、雇用契約に基づく労働者としての実態が必要です。実態は労働者であるにもかかわらず、形式上だけ業務委託契約になっている場合は、契約名ではなく実際の指揮命令関係や働き方によって判断されます。

フリーランスが法人化し、法人から役員報酬を受け取る場合は、社会保険への加入が必要になることがあります。

9-3. パートとフリーランスを掛け持ちしている場合はどうなる?

パート先の社会保険加入要件は、原則としてパート先の所定労働時間や所定内賃金で判定します。フリーランスの売上を月額8万8,000円の判定に合算するわけではありません。

一方、配偶者の社会保険上の扶養に入れるかを判定する際は、パート給与だけでなくフリーランス収入も考慮されます。

2026年4月から始まった労働契約に基づく扶養判定も、給与以外の収入が見込まれる場合は、それだけで扶養が確定する制度ではありません。厚生労働省+1

9-4. 売上130万円以下なら必ず扶養に入れる?

売上が130万円以下でも、必ず社会保険上の扶養に入れるとは限りません。

社会保険では「130万円未満」が原則であり、130万円ちょうどは基準未満ではありません。また、今後の収入見込み、被保険者との収入関係、同居・別居、仕送り、勤務先の社会保険加入要件なども確認されます。

反対に、売上が130万円を超えていても、健康保険が認める直接的経費を差し引いた収入が130万円未満であれば、扶養に入れる可能性があります。ただし、最終的な判定は加入先の健康保険が行います。

9-5. 開業届を出すと扶養から外れる?

税務署へ開業届を出しただけで、全国一律に社会保険上の扶養から外れるわけではありません。扶養認定では、開業届の有無だけでなく、収入額、事業の継続性、今後の収入見込みなどが確認されます。

ただし、健康保険組合によっては、自営業者に対して独自の確認書類や厳格な認定手続きを設けていることがあります。

開業前または開業後すぐに、配偶者や親の勤務先を通じて加入先へ連絡し、必要な手続きを確認しましょう。

9-6. 青色申告をすれば扶養内に入りやすくなる?

税金上の扶養については、青色申告特別控除によって事業所得が減るため、配偶者控除や配偶者特別控除の所得要件を満たしやすくなる場合があります。

一方、社会保険上の扶養では、青色申告特別控除を収入から差し引けないのが一般的です。社会保険では、売上から健康保険が認める直接的経費を差し引いて判定します。

したがって、「青色申告特別控除65万円があるから、売上195万円まで130万円未満として扱われる」とは限りません。税金上の所得と社会保険上の収入は、必ず分けて確認しましょう。

まとめ

フリーランス単独で働いている人には、原則として106万の壁はありません。106万の壁は、パートやアルバイトなど、勤務先に雇用される短時間労働者が社会保険に加入する基準です。

フリーランスが扶養内で働く場合は、主に次の点を確認しましょう。

  • 税金上の扶養は売上ではなく合計所得金額で判定する

  • 社会保険上の扶養は原則として年間収入130万円未満が基準

  • 社会保険で控除できる経費は、税務上の必要経費と異なる場合がある

  • 青色申告特別控除は税金上の所得を減らすが、社会保険では通常そのまま控除できない

  • パートと兼業している場合は、勤務先で106万の壁の対象になる可能性がある

  • 2026年10月には、月額8万8,000円という賃金要件が撤廃される予定

扶養の判定を「売上が106万円を超えたか」「130万円以下か」だけで判断するのは危険です。年間売上、税金上の所得、社会保険上の収入をそれぞれ計算し、配偶者や親が加入する健康保険の基準を早めに確認することが、手取りの減少や扶養資格の取り消しを防ぐポイントです。