フリーランスの支払期日はいつ?法律上の期限・遅延時の対処法を解説

はじめに

フリーランスとして仕事を受けるとき、報酬額と同じくらい重要なのが「支払期日」です。納品後すぐに入金されると思っていたのに、契約書には「翌々月末払い」と書かれていたり、検収が終わらないことを理由に支払いを先延ばしされたりすると、資金繰りに大きな影響が出ます。

結論からいうと、フリーランス新法の対象となる取引では、発注者は原則として「給付を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内」に支払期日を定め、その期日までに報酬を支払う必要があります。支払期日を定めていない場合や、60日を超える支払期日を設定している場合にも、法律上は一定の扱いが定められています。

この記事では、「フリーランスの支払期日はいつなのか」「納品日・検収日・請求書発行日のどれが起算日になるのか」「支払期日を過ぎても入金されない場合にどう対応すべきか」を、フリーランス側・発注者側の双方に向けて解説します。

1. フリーランスの支払期日はいつ?法律上の結論

1-1. 原則は「給付を受領した日から60日以内」

フリーランス新法では、発注者はフリーランスから給付を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で支払期日を定め、その日までに報酬を支払わなければなりません。ここでいう「60日以内」は、単なる目安ではなく、法律上の上限です。

たとえば、4月1日に成果物を納品し、発注者が受領した場合、原則としてその受領日から60日以内に支払期日を設定する必要があります。「社内処理に時間がかかる」「検収担当者が忙しい」「請求書の処理が翌月になる」といった発注者側の事情だけで、60日を超える支払サイトを当然に設定できるわけではありません。

1-2. 支払期日を定めていない場合は「給付を受領した日」が支払期日になる

契約書や発注書に支払期日が書かれていない場合、フリーランス新法上は、給付を実際に受領した日が支払期日として扱われます。つまり、支払期日を空欄にしておけば支払いを後ろ倒しにできる、という考え方は通用しません。

フリーランス側としては、契約書に支払期日が明記されていない場合でも、「支払期日の定めがないから請求できない」と考える必要はありません。むしろ、納品日・受領日・業務完了日を証明できる資料を残しておくことが重要です。

1-3. 60日を超える支払期日は法律上どう扱われるか

契約書に「納品後90日払い」「月末締め翌々月末払い」など、給付受領日から60日を超える支払期日が定められている場合、法律上は、受領日から起算して60日を経過する日が支払期日として扱われます。

つまり、契約書に長い支払サイトが書かれていても、フリーランス新法の対象取引であれば、発注者は60日を超えて支払いを先延ばしできません。フリーランス側は、契約書に不利な支払条件が書かれている場合でも、法律上の上限を確認したうえで対応を検討できます。

1-4. 「月末締め翌月末払い」は問題ない?よくある支払いサイトの考え方

「月末締め翌月末払い」は、実務上よく使われる支払いサイトです。たとえば、4月中に納品した分を4月末で締め、5月末に支払う運用です。この場合、通常は給付受領日からおおむね2か月以内に支払われるため、フリーランス新法上も問題になりにくい支払いサイトと考えられます。

公正取引委員会のQ&Aでも、月単位の締切制度では月によって31日があるため、結果として61日目または62日目の支払いになる場合があり得るものの、「給付を受領した日から2か月以内」として運用し、問題としない考え方が示されています。

一方で、「月末締め翌々月末払い」は注意が必要です。たとえば4月1日に受領された成果物の支払いが6月30日になると、受領日から60日を超える可能性があります。支払いサイトを決める際は、「締め日」ではなく「実際の受領日から何日後に支払われるか」を確認することが大切です。

2. フリーランスの支払期日に関係する主な法律

2-1. フリーランス新法で定められた支払期日のルール

フリーランス新法は、正式には「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」といいます。対象となるのは、事業者からフリーランスへの業務委託、つまり原則としてBtoB取引です。消費者として個人的に依頼する取引は対象外とされています。

同法では、発注者に対して、取引条件の明示義務や期日における報酬支払義務などが定められています。発注時には、報酬額だけでなく、支払期日も書面またはメール・チャットなどの電磁的方法で明示する必要があります。

2-2. 下請法が適用されるケースと支払期日の考え方

フリーランスとの取引では、フリーランス新法だけでなく、下請法が問題になる場合もあります。なお、下請法は改正により、2026年1月1日から通称「取適法」として施行されています。

取適法でも、委託事業者には、検査の有無にかかわらず、発注した物品等を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で支払期日を定める義務があります。また、支払遅延などがあった場合には、年14.6%の遅延利息を支払う義務が定められています。

ただし、取適法はすべてのフリーランス取引に適用されるわけではありません。取引内容、資本金、従業員数などの基準によって適用の有無が判断されます。フリーランス新法よりも対象が限定される場面があるため、実務では「フリーランス新法の対象か」「取適法の対象にもなるか」を分けて確認する必要があります。

2-3. 民法上の契約・債務不履行として問題になるケース

フリーランス新法や取適法の対象にならない取引でも、契約で定めた報酬を支払わない場合は、民法上の債務不履行として問題になります。

たとえば、個人事業主同士の小規模な業務委託や、フリーランス新法の要件に当てはまらない取引であっても、契約書、発注メール、見積書、請求書、納品記録などから報酬支払義務が確認できれば、未払い報酬を請求できる可能性があります。

また、支払期日を過ぎた場合には、契約で定めた遅延損害金や、契約に定めがない場合の法定利率に基づく遅延損害金が問題になります。令和8年4月1日から令和11年3月31日までの法定利率は年3%です。

2-4. フリーランス新法・下請法・民法の違いを比較

項目フリーランス新法下請法・取適法民法
主な目的フリーランスとの取引適正化・就業環境整備中小受託事業者との取引適正化契約上の権利義務の実現
支払期日の基本給付受領日から60日以内給付受領日から60日以内契約で定めた期日
対象事業者からフリーランスへの業務委託取引内容・資本金・従業員基準等を満たす取引原則として契約全般
支払遅延時の対応行政への申出、指導・助言、勧告等勧告、指導、遅延利息等請求、訴訟、強制執行等
実務上のポイントフリーランス取引ではまず確認すべき法律大企業・中堅企業との委託取引で特に重要最終的な債権回収の基礎

3. 支払期日の起算日はいつ?納品・検収・請求書発行日の違い

3-1. 起算日は原則「発注者が給付を受領した日」

支払期日の起算日は、原則として「発注者が給付を受領した日」です。公正取引委員会のQ&Aでは、起算日は受領した日を算入して考えるとされています。

委託内容ごとの考え方は、次のとおりです。

委託内容起算日の考え方
物品の製造・加工委託発注者が物品を受け取り、自己の占有下に置いた日
情報成果物の作成委託USB等の記録媒体を受け取った日、または電子メール等で発注者のPC等に記録された時点
役務提供委託個々の役務提供を受けた日。一連の役務に日数を要する場合は、その役務提供が終了した日

Web制作、デザイン、ライティング、動画編集、システム開発などの案件では、メール、クラウドストレージ、チャットツールなどで成果物を提出することが多いため、「いつ相手が受領したといえるか」を記録で残すことが重要です。

3-2. 検収完了日を理由に支払いを遅らせることはできる?

発注者が検収を行う場合でも、原則として、検収完了日ではなく給付を受領した日が起算日になります。フリーランス新法の資料でも、物品の製造・加工委託については、検査の有無に関係なく、発注者が物品を受け取り自己の占有下に置いた日が起算日とされています。

そのため、「検収が終わっていないから支払期日はまだ来ていない」と一律に考えるのは危険です。発注者側は、検収期間を支払サイトに組み込む場合でも、受領日から60日以内に支払えるよう設計する必要があります。

ただし、フリーランス側の責任で委託内容と適合しない給付があり、報酬支払前にやり直しをさせる場合には、やり直し後の給付を受領した日が起算日になる場合があります。

3-3. 請求書の発行日や送付日が支払期日に与える影響

実務では「請求書を受領した月の翌月末払い」といった運用がよく見られます。しかし、フリーランス新法上の起算日は、原則として請求書発行日ではなく、給付を受領した日です。

公正取引委員会のQ&Aでは、フリーランスが請求書を提出していない場合でも、発注者は給付受領日から60日以内に定めた支払期日までに報酬を支払う必要があるとされています。請求書の未提出だけを理由に、「フリーランスの責任で支払えなかった」とは扱われません。

もっとも、フリーランス側も請求書の出し忘れには注意が必要です。法律上の支払期日とは別に、経理処理の遅れや確認作業の長期化を防ぐため、納品後すぐに請求書を送付し、送付記録を残しておくのが安全です。

3-4. 継続案件・月額契約・業務委託契約の場合の考え方

継続案件や月額契約では、「毎月の業務がいつ完了したか」「どの単位で給付を受領したといえるか」が問題になります。

たとえば、毎月の記事制作を5本ずつ納品する契約であれば、各記事の納品日を基準に考える場合もありますし、月末に一括で成果物を確定する契約であれば、月末締めを前提に考える場合もあります。月額コンサルティングやSNS運用のような役務提供型の契約では、1か月分の役務提供が終了した日を基準にする設計が考えられます。

大切なのは、契約書や発注書で「対象業務」「納品日」「検収期間」「請求書提出期限」「支払期日」をセットで明確にすることです。月額契約でも、支払期日が実質的に60日を超えないように確認しておきましょう。

4. 支払期日を過ぎても入金されないときの対処法

4-1. まずは契約書・発注書・請求書・メールを確認する

支払期日を過ぎても入金されない場合、まず確認すべきなのは証拠です。感情的に連絡する前に、次の資料を整理しましょう。

確認する資料確認ポイント
契約書・業務委託契約書支払期日、支払方法、検収条件、遅延損害金
発注書・注文書報酬額、納期、納品場所、支払期日
見積書合意した金額、作業範囲、追加費用
請求書請求日、支払期限、振込先
メール・チャット発注内容、納品日、受領確認、修正依頼
納品記録ファイル送付履歴、クラウド共有履歴、納品完了メッセージ

未払いトラブルでは、「いつ、何を、いくらで、いつまでに支払う約束だったか」を説明できることが重要です。特にフリーランスは口頭やチャットだけで仕事が始まることも多いため、日頃から証拠を残す習慣をつけておきましょう。

4-2. 発注者に入金状況を確認する連絡文例

最初の連絡では、強い表現よりも、事務的な確認として送るのが効果的です。経理処理の漏れや振込予約のミスである可能性もあるため、まずは冷静に確認しましょう。

件名:〇月分報酬のお支払い状況について

〇〇株式会社
〇〇様

いつもお世話になっております。
〇月〇日に納品いたしました〇〇業務につきまして、請求書記載の支払期日が〇月〇日となっておりましたが、本日時点で入金が確認できておりません。

お手数ですが、現在のお支払い状況とご入金予定日をご確認いただけますでしょうか。

念のため、対象の請求書を再送いたします。
何卒よろしくお願いいたします。

この段階では、「未払いです」「法的措置を取ります」といきなり断定するよりも、入金予定日を明確にしてもらうことを優先します。

4-3. 支払催促・督促を行う際のポイント

最初の確認連絡に返信がない場合や、約束された入金予定日を過ぎても支払いがない場合は、催促・督促に進みます。

督促のポイントは、支払うべき金額、対象業務、当初の支払期日、再設定する支払期限を明確に書くことです。また、電話で話した場合でも、後から「本日の電話で、〇月〇日までにお支払いいただく旨を確認しました」とメールで記録化しておきましょう。

感情的な表現やSNSでの公開は避けるべきです。名誉毀損や信用毀損など別のトラブルに発展するおそれがあるため、あくまで証拠に基づいて、書面やメールで淡々と対応するのが基本です。

4-4. 内容証明郵便を送るべきケース

内容証明郵便は、「いつ、どのような内容の文書を送ったか」を郵便局が証明する制度です。相手に心理的なプレッシャーを与えるだけでなく、後に訴訟や交渉になった際の証拠としても役立ちます。

内容証明郵便を検討すべきなのは、次のようなケースです。

ケース内容証明を検討すべき理由
何度連絡しても返信がない支払意思の有無を明確にするため
入金予定日を何度も破られている最終期限を明確にするため
未払い額が大きい訴訟前の証拠を整えるため
取引を終了する予定がある関係悪化のリスクより回収を優先すべきため
消滅時効が気になる早めに専門家へ相談すべきため

内容証明は文面によって法的効果や交渉への影響が変わるため、金額が大きい場合や相手が争っている場合は、弁護士に相談してから送るのが安全です。

4-5. 公的相談窓口・弁護士・少額訴訟を検討するタイミング

フリーランスの報酬未払いは、一人で抱え込まないことが大切です。フリーランス・トラブル110番では、発注事業者から業務委託を受けた際のトラブルについて相談でき、報酬の未払い、減額、契約書がないといった相談も対象として案内されています。相談は無料で、匿名でも可能とされています。

また、フリーランス新法違反が疑われる場合は、公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省への申出も検討できます。行政機関は、申出内容に応じて調査、指導・助言、勧告などを行う仕組みを持っています。

未払い額が60万円以下の金銭請求であれば、少額訴訟も選択肢になります。少額訴訟は、60万円以下の金銭の支払いを求める訴えについて、原則として1回の審理で解決を図る手続です。

5. 支払遅延が起きたときに請求できるもの

5-1. 未払い報酬の請求

最も基本となるのは、未払い報酬そのものの請求です。契約どおりに業務を行い、成果物を納品または役務を提供しているのであれば、発注者に対して報酬の支払いを求めることができます。

請求時には、単に「支払ってください」と伝えるのではなく、対象業務、納品日、請求金額、支払期日、振込先を明確に示しましょう。複数案件がある場合は、案件ごとに一覧表を作ると、相手も確認しやすくなります。

5-2. 遅延損害金・遅延利息は請求できる?

支払期日を過ぎても報酬が支払われない場合、未払い報酬に加えて遅延損害金を請求できる可能性があります。契約書に遅延損害金の利率が定められていない場合は、民法上の法定利率が問題になります。令和8年4月1日から令和11年3月31日までの法定利率は年3%です。

一方、取適法の対象となる取引では、支払遅延や減額等について、年14.6%の遅延利息が定められています。

ただし、どの法律が適用されるか、いつから遅延損害金を計算するか、契約上の定めが有効かは個別事情によって変わります。金額が大きい場合は、弁護士などの専門家に確認するのが安心です。

5-3. 契約書に遅延損害金の定めがある場合

契約書に「支払期日の翌日から年〇%の遅延損害金を支払う」といった条項がある場合は、原則としてその定めに基づいて請求を検討します。

フリーランス側としては、契約時に遅延損害金条項を入れておくことで、支払遅延への抑止力になります。発注者側としても、遅延損害金の有無や利率を明確にしておくことで、トラブル時の処理がしやすくなります。

5-4. 取引停止・追加作業の停止を検討する際の注意点

支払遅延が続く場合、フリーランス側は追加作業の停止や新規納品の見合わせを検討することがあります。ただし、契約上まだ履行義務が残っている場合、一方的に作業を止めると、逆に契約違反を主張されるリスクがあります。

安全に対応するには、まず未払いの事実を通知し、「〇月〇日までに入金が確認できない場合、以後の追加作業を停止します」と事前に伝えることが重要です。継続案件では、未払い分と今後の作業分を切り分け、必要に応じて契約解除や前払いへの変更を提案しましょう。

6. 支払トラブルを防ぐためにフリーランスが契約前に確認すべきこと

6-1. 支払期日・支払いサイトを契約書に明記する

支払トラブルを防ぐ第一歩は、支払期日を明確にすることです。「納品後速やかに支払う」「検収後に支払う」といった曖昧な表現ではなく、「毎月末締め翌月末日払い」「納品月の翌月25日払い」など、具体的な日付を特定できる形で定めましょう。

フリーランス新法の資料でも、支払期日は具体的な日を特定できるように定める必要があり、「〇日以内」「〇日まで」といった記載では支払期日を定めていると認められない場合があるとされています。

6-2. 納品日・検収日・請求書提出期限を明確にする

支払期日だけでなく、納品日、検収期間、請求書提出期限も明確にしておくと、トラブルを防ぎやすくなります。

たとえば、次のような形です。

項目記載例
納品日2026年4月30日までに納品
検収期間納品日から5営業日以内
修正対応軽微な修正2回まで報酬に含む
請求書提出納品月の末日まで
支払期日納品月の翌月末日

検収期間を設ける場合でも、支払期日が受領日から60日を超えないように設計する必要があります。

6-3. 分割払い・前払い・着手金を設定する

長期案件や高額案件では、納品後一括払いにすると、フリーランス側のリスクが大きくなります。制作期間が長い案件、外注費が発生する案件、初めて取引する相手との案件では、分割払い、前払い、着手金を検討しましょう。

たとえば、次のような支払い条件が考えられます。

案件タイプ支払い条件の例
Web制作着手時50%、納品時50%
動画制作企画確定時30%、初稿提出時40%、納品時30%
コンサル契約月額前払い
大型ライティング案件10本ごとに分割請求
システム開発要件定義、開発、検収ごとに分割払い

前払いを依頼しにくい場合でも、「初回取引のみ着手金をお願いします」「外注費が発生するため一部前払いでお願いします」と理由を添えると交渉しやすくなります。

6-4. 追加作業・修正対応の支払い条件を決めておく

未払いトラブルは、当初報酬だけでなく、追加作業や修正対応でも起こります。「少しだけ直してほしい」「ついでにこれもお願い」といった依頼が積み重なると、作業量に見合わない報酬になりがちです。

契約前に、無料修正の範囲、追加費用が発生する条件、追加作業の見積もり方法を決めておきましょう。

たとえば、「無料修正は2回まで」「当初仕様に含まれないページ追加は別途見積もり」「納品後〇日以降の修正は追加費用」といった条項を入れておくと、後から交渉しやすくなります。

6-5. 取引先の信用リスクを事前に確認する

支払トラブルを完全に防ぐことはできませんが、事前確認でリスクを下げることはできます。

初めての取引先であれば、会社情報、所在地、代表者名、過去の実績、口コミ、支払い条件、契約書の有無を確認しましょう。極端に高額な案件を急ぎで依頼してくる、契約書を出したがらない、支払条件が曖昧、担当者の返信が遅いといった場合は注意が必要です。

不安がある場合は、少額のテスト案件から始める、前払いにする、納品物に段階を設けるなど、リスクを限定する工夫をしましょう。

7. 発注者側が守るべきフリーランスへの支払期日の注意点

7-1. 60日以内のできる限り短い期間で支払期日を定める

発注者側は、フリーランスへの支払期日を「給付受領日から60日以内」に設定するだけでは不十分です。法律上は「60日以内のできる限り短い期間内」とされているため、単に上限いっぱいの60日後にすればよいという考え方は適切ではありません。

特に、従来は納品後すぐ支払っていたにもかかわらず、法律上60日まで認められることを理由に支払期日を遅くする運用は、問題となる可能性があります。公正取引委員会のQ&Aでも、継続的な業務委託で、60日以内という規定だけを理由に従前より遅い支払期日を新たに設定することは問題になるとされています。

7-2. 受領後に検収や修正を理由として支払いを先延ばししない

発注者は、検収期間を理由に支払期日を無制限に後ろ倒しできません。起算日は原則として給付を受領した日であり、検収完了日ではありません。

検収が必要な業務では、契約時に検収期間を明確に定め、検収を含めても60日以内に支払える運用にする必要があります。社内承認や経理処理に時間がかかる場合は、フリーランスに負担を押し付けるのではなく、社内フローを見直すべきです。

7-3. 再委託の場合の支払期日の例外を確認する

再委託の場合には、一定の要件を満たすことで、例外的に元委託支払期日から30日以内のできる限り短い期間内でフリーランスへの支払期日を定めることができます。

ただし、この例外を使うには、通常の明示事項に加えて、再委託である旨、元委託者の名称等、元委託業務の対価の支払期日を明示する必要があります。これらを明示しない場合は、通常どおり給付受領日から60日以内で支払期日を定める必要があります。

7-4. 契約書・発注書に支払条件を明示する

フリーランス新法では、発注者は業務委託時に、業務内容、報酬額、支払期日などの取引条件を明示する必要があります。発注書、契約書、メール、チャット、PDF添付など、形式は実務に合わせて選べますが、口頭だけで済ませるのは避けるべきです。

発注者側の実務では、テンプレートを整備し、少なくとも次の項目を明示しましょう。

明示すべき主な項目内容
発注者・フリーランスの名称会社名、屋号、氏名など
業務委託日発注日
給付の内容成果物、業務範囲、数量、仕様
納品日・提供日いつまでに納品・提供するか
検収期間検査を行う場合の完了日
報酬額税込・税別、経費の扱い
支払期日具体的な日付または特定できる支払日
支払方法銀行振込、手数料負担など

7-5. 違反した場合の行政指導・勧告・公表リスク

フリーランス新法に違反する行為があった場合、フリーランスは行政機関に申出を行うことができます。行政機関は、報告徴収・立入検査、指導・助言、勧告を行い、勧告に従わない場合には命令・公表を行うことができます。命令違反には50万円以下の罰金があるとされています。

発注者にとって、支払遅延は単なる経理上の遅れではありません。行政対応、社名公表、取引先からの信用低下、採用・広報への悪影響につながる可能性があります。フリーランスとの取引が多い企業ほど、支払期日の管理体制を整える必要があります。

8. フリーランスの支払期日に関するよくある質問

8-1. 支払期日が「納品後90日」と書かれている契約は有効?

フリーランス新法の対象取引であれば、給付受領日から60日を超える支払期日を定めた場合、法律上は受領日から60日を経過する日が支払期日として扱われます。

そのため、「納品後90日」と書かれているからといって、当然に90日後まで待たなければならないわけではありません。契約書の記載だけで判断せず、フリーランス新法や取適法の適用有無を確認しましょう。

8-2. 請求書を出し忘れた場合、支払期日はどうなる?

フリーランス新法上、請求書の提出がないことだけを理由に、発注者が支払期日までの支払いを免れるわけではありません。公正取引委員会のQ&Aでは、請求書の提出の有無にかかわらず、給付受領日から60日以内に定めた支払期日までに報酬を支払う必要があるとされています。

ただし、実務上は請求書がないと経理処理が進まない会社も多いため、フリーランス側は納品後すぐに請求書を発行し、送付履歴を残すべきです。

8-3. 検収が終わらない場合でも支払いを求められる?

原則として、支払期日の起算日は検収完了日ではなく、発注者が給付を受領した日です。したがって、発注者側の都合で検収が長引いている場合には、支払期日を過ぎれば支払いを求められる可能性があります。

一方で、納品物が契約内容に適合していないなど、フリーランス側に責任があり、報酬支払前にやり直しを行う場合には、やり直し後の給付受領日が起算日となる場合があります。

8-4. 個人の発注者にもフリーランス新法は適用される?

個人の発注者であっても、その人が事業者として事業のためにフリーランスへ業務委託する場合は、フリーランス新法の対象になる可能性があります。公的資料では、対象となる取引は事業者からフリーランスへの委託、つまりBtoBであり、消費者との取引は対象外とされています。

たとえば、個人事業主が自社サイト制作をフリーランスに依頼する場合は対象になり得ます。一方、個人が自宅用のイラストや私的な動画編集を依頼するような消費者取引は、原則として対象外です。

8-5. 報酬未払いを相談できる窓口はどこ?

まず検討しやすいのは、フリーランス・トラブル110番です。発注事業者から仕事の委託を受けた際のトラブルについて相談でき、報酬の未払い、減額、契約書がないといった相談も案内されています。相談は無料で、匿名でも可能とされています。

また、フリーランス新法違反が疑われる場合は、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省への申出も選択肢になります。未払い額が大きい、相手が支払いを明確に拒否している、内容証明や訴訟を検討したいという場合は、弁護士への相談も早めに行いましょう。

まとめ

フリーランスの支払期日は、契約書に書かれた内容だけでなく、フリーランス新法や取適法、民法のルールを踏まえて判断する必要があります。

フリーランス新法の対象取引では、原則として、発注者は給付を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内に支払期日を定め、その期日までに報酬を支払わなければなりません。支払期日を定めていない場合は給付受領日が支払期日となり、60日を超える支払期日を定めた場合は受領日から60日を経過する日が支払期日として扱われます。

フリーランス側は、契約前に支払期日、納品日、検収期間、請求書提出期限、追加作業の扱いを確認し、証拠を残すことが大切です。支払期日を過ぎても入金がない場合は、まず契約書やメールを確認し、入金状況を問い合わせ、それでも解決しなければ督促、内容証明、相談窓口、弁護士、少額訴訟などを段階的に検討しましょう。

発注者側は、支払期日を60日以内に設定するだけでなく、できる限り短い期間で支払う体制を整える必要があります。検収や請求書処理を理由に支払いを先延ばしする運用は、法令違反や信用低下につながるおそれがあります。

支払期日は、フリーランスにとって生活と事業を守る重要な条件です。曖昧なまま仕事を始めるのではなく、契約前に明確にし、トラブルが起きたときには早めに証拠を整理して対応しましょう。