フリーランスの退職金はどう準備する?小規模企業共済・iDeCo・退職所得控除まで徹底解説
はじめに
フリーランスとして働く場合、「会社員のような退職金がない」「老後資金をどの制度で準備すればよいかわからない」と悩む人は少なくありません。会社員であれば勤務先の退職金制度や企業年金、厚生年金などが老後資金の柱になりますが、個人事業主・フリーランスは基本的に自分で制度を選び、積み立て、税金まで考えて準備する必要があります。
そこで重要になるのが、小規模企業共済、iDeCo、国民年金基金、NISAなどの活用です。特に小規模企業共済とiDeCoは、掛金が所得控除の対象になり、受取時にも税制優遇があるため、フリーランスの「退職金代わり」として検討しやすい制度です。
この記事では、フリーランスの退職金準備の基本から、小規模企業共済・iDeCoの違い、退職所得控除の仕組み、受取時の出口戦略まで詳しく解説します。
1. フリーランスに退職金はある?会社員との違いと老後資金の考え方
1-1. フリーランスには会社員のような退職金制度が基本的にない
フリーランスは会社と雇用契約を結んで働くわけではないため、勤務先から退職金を受け取る仕組みは基本的にありません。会社員の場合、勤務先に退職金制度があれば、退職時に一時金や年金形式で給付を受けられることがあります。しかし、フリーランスは事業主本人であり、退職金を支払ってくれる雇用主が存在しないため、自分で老後資金を準備する必要があります。
そのため、フリーランスにとっての退職金準備は「将来の自分に対して、現役時代の自分が積み立てる仕組み」を作ることです。小規模企業共済やiDeCoは、まさにその代表的な選択肢といえます。
1-2. 国民年金だけでは老後資金が不足しやすい理由
フリーランスの多くは国民年金の第1号被保険者です。会社員のように厚生年金へ加入していない場合、老後の公的年金は主に老齢基礎年金になります。日本年金機構によると、老齢基礎年金は原則65歳から受給でき、20歳から60歳までの40年間の保険料納付状況などに応じて年金額が計算されます。令和8年4月分からの満額は、昭和31年4月2日以後生まれの人で年額816,000円とされています。
つまり、国民年金だけでは毎月の生活費を十分にまかなえない可能性があります。住居費、医療費、介護費、税金・社会保険料、物価上昇などを考えると、公的年金に加えて自助努力による資産形成が欠かせません。
1-3. 「退職金代わり」を自分で準備する必要がある
フリーランスにとっての退職金代わりとは、単に貯金をすることだけではありません。事業をやめたとき、働く時間を減らしたとき、病気や体力低下で収入が落ちたときに備える「まとまった資金」を作ることです。
退職金代わりとして使いやすい制度には、小規模企業共済、iDeCo、国民年金基金、NISA、個人年金保険などがあります。それぞれに税制優遇、流動性、運用リスク、受取時の税金が異なるため、ひとつの制度に偏らず、目的ごとに使い分けることが大切です。
1-4. フリーランスが退職金準備で重視すべき3つのポイント
フリーランスが退職金を準備する際は、まず「節税効果」を確認しましょう。小規模企業共済やiDeCoは掛金が所得控除の対象になるため、課税所得がある人ほど税負担を軽減しながら積み立てられます。
次に「資金の自由度」です。フリーランスは収入が不安定になりやすいため、掛金変更のしやすさ、途中解約や貸付の有無、引き出し制限を確認する必要があります。
最後に「出口戦略」です。積み立てている間の節税だけでなく、将来受け取るときに退職所得控除や公的年金等控除をどう使うかによって、手取り額が変わります。特に小規模企業共済とiDeCoを併用する人は、受取時期の設計が重要です。
2. フリーランスが退職金を準備する主な方法
2-1. 小規模企業共済
小規模企業共済は、個人事業主や小規模企業の経営者・役員などのための積立型の退職金制度です。中小機構は、小規模企業共済を「小規模企業の経営者や役員、個人事業主などのための、積み立てによる退職金制度」と説明しています。掛金は月1,000円から70,000円まで設定でき、全額が所得控除の対象です。
フリーランスにとっては、廃業や引退時にまとまった資金を受け取れる点が大きな魅力です。また、一定の範囲内で貸付制度を利用できるため、事業資金の一時的な不足に備えられる点も特徴です。
2-2. iDeCo
iDeCoは、個人型確定拠出年金のことです。加入者が自分で掛金を拠出し、自分で運用商品を選び、その運用結果に応じて老後に給付を受ける私的年金制度です。厚生労働省は、iDeCoを「公的年金とは別に給付を受けられる私的年金制度」と説明しており、掛金の拠出、運用、給付の受け取りを本人が行う仕組みです。
フリーランスなど国民年金第1号被保険者の拠出限度額は、現行では月額68,000円です。ただし、国民年金基金や付加保険料を納付している場合は、それらの額を控除した範囲で拠出します。なお、令和8年12月からは、拠出限度額が月額75,000円に引き上げられる予定です。
2-3. 国民年金基金
国民年金基金は、自営業者やフリーランスなど国民年金第1号被保険者が、老齢基礎年金に上乗せして加入できる公的な年金制度です。厚生労働省によると、20歳以上60歳未満の自営業者・フリーランスなどの第1号被保険者などが加入対象で、掛金は全額社会保険料控除の対象、受け取る年金は公的年金等控除の対象です。
国民年金基金は、将来受け取る年金額が比較的見通しやすい点が特徴です。一方で、原則として任意の中途解約はできないため、柔軟性よりも「終身年金の上乗せ」を重視する人に向いています。
2-4. NISA
NISAは、投資で得た売却益や配当・分配金が非課税になる制度です。金融庁によると、2024年からのNISAは非課税保有期間が無期限化され、つみたて投資枠と成長投資枠を併用でき、年間投資枠は最大360万円、非課税保有限度額は最大1,800万円です。
NISAは掛金が所得控除になる制度ではありませんが、いつでも売却できる自由度があります。老後資金だけでなく、住宅購入、教育費、事業資金、生活防衛資金の上乗せなどにも使いやすい点がメリットです。
2-5. 民間の個人年金保険・貯蓄型保険
民間の個人年金保険や貯蓄型保険は、保険会社と契約し、将来の一定期間または終身で年金を受け取る仕組みです。商品によっては生命保険料控除の対象になるため、一定の節税効果があります。
ただし、iDeCoや小規模企業共済と比べると所得控除額に上限があり、途中解約時に元本割れする可能性もあります。保障と貯蓄を一体で持ちたい人には選択肢になりますが、老後資金準備としては手数料、返戻率、インフレへの弱さを確認することが重要です。
2-6. 事業売却・法人化・自社退職金という選択肢
フリーランスでも、事業が成長すれば事業売却や法人化によって退職金に近い資金を作れる可能性があります。たとえば、法人化して自分が役員になれば、一定の要件のもとで役員退職金を支給する設計も考えられます。
ただし、法人化には社会保険料、法人税、税務処理、役員報酬設計などの論点があります。事業規模が大きくなってきた人は、個人事業主のまま小規模企業共済などを活用するのか、法人化して役員退職金を設計するのかを、税理士に相談しながら検討するとよいでしょう。
3. 小規模企業共済とは?フリーランスの退職金準備に向いている理由
3-1. 小規模企業共済の仕組み
小規模企業共済は、毎月掛金を積み立て、廃業・退任・引退などの事由が発生したときに共済金を受け取る制度です。会社員の退職金に近い役割を持つため、フリーランスの退職金準備として非常に相性がよい制度です。
受取方法は、一括、分割、一括と分割の併用から選べます。中小機構によると、一括受取の場合は退職所得扱い、分割受取の場合は公的年金等の雑所得扱いになります。
3-2. 加入できるフリーランス・個人事業主の条件
小規模企業共済は、一定規模以下の個人事業主や会社役員などが加入できる制度です。フリーランスであっても、事業所得を得て継続的に事業を行っている個人事業主で、加入資格を満たせば対象になります。
ただし、事業内容、常時使用する従業員数、共同経営者かどうかなどによって判断が分かれることがあります。副業フリーランスや開業直後の人は、加入前に中小機構や窓口で確認しておくと安心です。
3-3. 掛金は月1,000円から7万円まで選べる
小規模企業共済の掛金は、月額1,000円から70,000円まで、500円単位で設定できます。月払いのほか、年払い・半年払いも選べます。
フリーランスは月ごとの収入が変動しやすいため、最初から上限額を目指すより、無理のない掛金で始めることが大切です。売上が安定してきたら増額し、厳しい時期には減額するなど、事業資金とのバランスを見ながら調整しましょう。
3-4. 掛金が全額所得控除になる節税メリット
小規模企業共済の大きな魅力は、掛金が全額「小規模企業共済等掛金控除」として所得控除の対象になることです。中小機構は、掛金が税法上全額控除できる一方で、事業上の損金または必要経費には算入できないと説明しています。
たとえば、月7万円を積み立てると年間84万円が所得控除になります。所得税・住民税の負担がある人ほど、節税しながら老後資金を積み立てられる効果が大きくなります。
3-5. 廃業・引退時に退職金のように受け取れる
小規模企業共済は、個人事業を廃業したときなどに共済金を受け取れます。一括で受け取る場合は退職所得扱いになるため、退職所得控除を活用できる可能性があります。
退職所得は、長年働いて得た退職金に対する税制優遇がある所得区分です。通常の事業所得や雑所得に比べて税負担が軽くなるケースが多いため、フリーランスの「引退資金」として有利に使いやすい制度です。
3-6. 契約者貸付制度を利用できる
小規模企業共済には、契約者貸付制度があります。中小機構によると、貸付制度では掛金の範囲内、掛金納付月数に応じて掛金の7〜9割を目安に、一定額まで借入れができます。制度によって借入条件や利率、返済方法は異なります。
フリーランスは、売掛金の入金遅れ、急な設備投資、病気や災害などで資金繰りが悪化することがあります。掛金を積み立てながら、いざというときの資金調達手段を持てる点は、小規模企業共済ならではのメリットです。
3-7. 小規模企業共済のデメリット・注意点
小規模企業共済はメリットの大きい制度ですが、短期解約には注意が必要です。任意解約などで受け取る解約手当金は、掛金の納付月数に応じて納付掛金の80%から120%相当額とされています。
また、掛金は必要経費ではなく所得控除です。節税になるからといって無理に掛金を増やすと、生活費や納税資金、事業資金が不足する可能性があります。まずは生活防衛資金を確保し、そのうえで継続できる金額を設定しましょう。
4. iDeCoとは?フリーランスが活用できる私的年金制度
4-1. iDeCoの仕組み
iDeCoは、自分で掛金を出し、自分で運用商品を選び、原則60歳以降に老齢給付金として受け取る制度です。運用商品には投資信託、保険商品、預貯金などがあり、金融機関ごとにラインナップや手数料が異なります。
老後資金づくりを目的とした制度なので、途中で自由に引き出すことはできません。その代わり、拠出時・運用時・受取時に税制優遇が用意されています。
4-2. フリーランスの掛金上限
フリーランスなどの国民年金第1号被保険者は、現行制度では月額68,000円までiDeCoに拠出できます。ただし、国民年金基金の掛金や国民年金の付加保険料を納付している場合は、それらの額を控除した金額が上限になります。
また、令和8年12月からは、第1号被保険者・任意加入被保険者の拠出限度額が月額75,000円に引き上げられる予定です。今後、制度改正に合わせて掛金設定を見直すことも検討しましょう。
4-3. 掛金が全額所得控除になるメリット
iDeCoの掛金は、全額が小規模企業共済等掛金控除の対象です。厚生労働省も、加入者が拠出した掛金は全額所得控除になると説明しています。
たとえば、課税所得があるフリーランスが毎月一定額を拠出すれば、所得税と住民税の負担を軽減しながら老後資金を積み立てられます。ただし、赤字や所得が非常に少ない年は、所得控除の効果が小さくなる点に注意が必要です。
4-4. 運用益が非課税になるメリット
通常、投資信託などで利益が出ると、売却益や分配金に税金がかかります。しかし、iDeCoでは運用益が非課税で再投資されます。厚生労働省は、iDeCoの運用益について「運用中は非課税」と説明しています。
長期間運用するほど、非課税で再投資できる効果は大きくなります。特に20代、30代、40代のフリーランスは、時間を味方につけた資産形成がしやすいでしょう。
4-5. 受取時にも税制優遇がある
iDeCoは受取時にも税制優遇があります。一時金として受け取る場合は退職所得控除、年金として受け取る場合は公的年金等控除の対象になります。
ただし、税制優遇があるからといって必ず非課税になるわけではありません。受取額、加入期間、他の退職金や小規模企業共済の受取時期、公的年金の額によって税負担が変わります。
4-6. 原則60歳まで引き出せない点に注意
iDeCoの最大の注意点は、原則60歳まで引き出せないことです。さらに、60歳時点で通算加入者等期間が10年に満たない場合、受給開始年齢が段階的に後ろ倒しになります。
そのため、事業資金や生活費として使う可能性があるお金をiDeCoに入れすぎるのは危険です。まずは普通預金などで生活防衛資金を確保し、余裕資金で積み立てるのが基本です。
4-7. 元本割れリスクと運用商品の選び方
iDeCoでは、投資信託を選べば価格変動リスクがあります。老後時点で運用成績が悪ければ、元本割れする可能性もあります。一方、元本確保型商品は価格変動リスクが小さい反面、インフレに負ける可能性があります。
商品選びでは、年齢、リスク許容度、他の資産状況を考えましょう。若い人は長期分散投資を中心に、50代以降はリスク資産の割合を少しずつ調整するなど、受取時期に近づくほど大きな値下がりを避ける設計が重要です。
5. 小規模企業共済とiDeCoはどちらを優先すべき?
5-1. 小規模企業共済とiDeCoの違いを比較
小規模企業共済とiDeCoは、どちらもフリーランスの退職金準備に有効ですが、性格が異なります。
| 比較項目 | 小規模企業共済 | iDeCo |
|---|---|---|
| 主な目的 | 個人事業主・経営者の退職金準備 | 老後年金づくり |
| 掛金上限 | 月70,000円 | 現行は第1号被保険者で月68,000円 |
| 所得控除 | 全額所得控除 | 全額所得控除 |
| 引き出し | 廃業・退任などで受取 | 原則60歳以降 |
| 運用 | 共済制度として積立 | 自分で運用商品を選択 |
| 貸付制度 | あり | なし |
| 主な注意点 | 短期解約時の元本割れ等 | 引き出し制限・運用リスク |
資金繰りへの備えも重視するなら小規模企業共済、長期の運用益非課税を重視するならiDeCoが向いています。
5-2. 資金の自由度を重視するなら小規模企業共済
フリーランスは収入の波が大きいため、資金の自由度は重要です。小規模企業共済はiDeCoのように60歳まで一切引き出せない制度ではなく、廃業や退任などの事由で共済金を受け取れます。また、契約者貸付制度があるため、積立額を背景に資金調達できる可能性があります。
「将来の退職金を作りたいが、事業資金の不安もある」という人は、小規模企業共済を優先しやすいでしょう。
5-3. 長期運用で資産形成したいならiDeCo
iDeCoは、投資信託などで長期運用しながら老後資金を作りたい人に向いています。運用益非課税の効果は長期になるほど大きくなるため、20代から40代のフリーランスには特に活用余地があります。
ただし、iDeCoは原則60歳まで引き出せません。老後専用資金として割り切れる金額だけを拠出することが大切です。
5-4. 所得が高いフリーランスは併用による節税効果が大きい
課税所得が高いフリーランスは、小規模企業共済とiDeCoの併用によって大きな所得控除を受けられる可能性があります。小規模企業共済は最大月70,000円、iDeCoは現行で第1号被保険者なら最大月68,000円まで拠出可能です。
ただし、控除を増やすほど手元資金は減ります。所得が高い年に増額し、売上が不安定な年は減額するなど、節税と資金繰りを同時に考える必要があります。
5-5. 収入が不安定な人は掛金変更のしやすさも確認する
フリーランスは、案件の終了、取引先の都合、病気、育児、景気変動などで収入が急に下がることがあります。掛金を高く設定しすぎると、納税資金や生活費が不足しかねません。
小規模企業共済は掛金の増減が可能で、iDeCoも年単位で掛金額の変更ができます。ただし、手続きのタイミングや反映時期に差があるため、制度ごとの変更ルールを事前に確認しておきましょう。
5-6. 小規模企業共済・iDeCo・NISAの使い分け方
基本的な使い分けは、短期・中期資金は預金やNISA、老後専用資金はiDeCo、退職金代わりと事業リスク対策は小規模企業共済と考えると整理しやすくなります。
NISAは所得控除こそありませんが、売却益や配当・分配金が非課税で、必要なときに売却できます。政府広報オンラインも、NISAでは投資した一定の購入分について配当・分配金・譲渡益が非課税になると説明しています。
6. 退職所得控除とは?フリーランスの退職金にかかる税金を理解する
6-1. 退職所得控除の基本
退職所得控除とは、退職金などを受け取る際に、勤続年数に応じて一定額を控除できる制度です。退職金は長年の勤務や事業活動の成果として受け取る性格があるため、税負担が軽くなるよう配慮されています。
国税庁によると、退職所得控除額は勤続年数20年以下なら「40万円×勤続年数」、20年超なら「800万円+70万円×(勤続年数−20年)」で計算します。20年以下の場合でも80万円に満たないときは80万円が控除額になります。
6-2. 退職所得の計算方法
退職所得の基本的な計算式は、次のとおりです。
退職所得=(退職金等の収入金額−退職所得控除額)×1/2
たとえば、退職金が1,000万円、退職所得控除額が800万円であれば、課税対象となる退職所得は100万円です。
(1,000万円−800万円)×1/2=100万円
このように、退職所得控除と2分の1課税によって、通常の所得より税負担が抑えられやすい仕組みになっています。
6-3. 小規模企業共済を一括で受け取る場合の税金
小規模企業共済を一括で受け取る場合、原則として退職所得扱いになります。中小機構は、共済金または準共済金を一括で受け取る場合は退職所得扱い、分割で受け取る場合は公的年金等の雑所得扱いと説明しています。
そのため、長く加入して退職所得控除を十分に使える人は、一括受取によって税負担を抑えられる可能性があります。ただし、任意解約の年齢や解約事由によって税務上の扱いが異なるため、受取前に確認が必要です。
6-4. iDeCoを一時金で受け取る場合の税金
iDeCoを一時金で受け取る場合も、退職所得控除の対象になります。厚生労働省は、iDeCoの給付時について、年金として受給する場合は公的年金等控除、一時金として受給する場合は退職所得控除の対象になると説明しています。
ただし、iDeCoの加入期間と他の退職金の勤続期間が重なる場合、退職所得控除の計算で調整が入ることがあります。小規模企業共済や会社員時代の退職金と受取時期が近い人は注意が必要です。
6-5. 年金形式で受け取る場合の税金
小規模企業共済やiDeCoを年金形式で受け取る場合、退職所得ではなく、公的年金等の雑所得として扱われます。公的年金等控除を使える一方で、老齢基礎年金、厚生年金、国民年金基金など他の年金収入と合算される点に注意しましょう。
年金形式は、老後の定期収入を増やせるメリットがあります。一方で、毎年の所得が増えるため、所得税・住民税、国民健康保険料、介護保険料などに影響する可能性があります。
6-6. 一時金と年金の併用受取の考え方
一時金と年金の併用受取は、退職所得控除と公的年金等控除を分散して使う方法です。たとえば、退職所得控除の範囲内に収まる金額を一時金で受け取り、残りを年金形式で受け取るといった設計が考えられます。
ただし、最適な配分は人によって異なります。受取額、加入期間、他の年金収入、医療費、家族構成、住民税非課税世帯への影響なども含めて検討しましょう。
6-7. 退職所得控除を最大限活用する受取タイミング
退職所得控除を最大限活用するには、受取時期が重要です。同じ年に複数の退職一時金を受け取ると、退職所得控除をそれぞれ満額使えない場合があります。国税庁も、前年以前に退職金を受け取ったことがある場合や、同一年中に2か所以上から退職金を受け取る場合は、控除額の計算が異なることがあるとしています。
特にiDeCoと小規模企業共済を併用する場合は、どちらを何歳で受け取るかを早めに考えておくことが大切です。
7. 小規模企業共済とiDeCoを併用する場合の出口戦略
7-1. 同じ年に受け取ると税負担が増える可能性がある
小規模企業共済とiDeCoを同じ年に一時金で受け取ると、退職所得控除の枠を共有する形になり、課税対象額が増える可能性があります。受取額が少なければ問題にならないこともありますが、長期間積み立てて大きな金額になっている人ほど注意が必要です。
「積み立てるときに節税できたから安心」ではなく、「受け取るときにどの所得区分になるか」「退職所得控除をどれだけ使えるか」まで考える必要があります。
7-2. 受取時期をずらすメリット
受取時期をずらすことで、退職所得控除や公的年金等控除を分散して使いやすくなります。たとえば、60歳でiDeCoを一部受け取り、廃業時に小規模企業共済を受け取る、または小規模企業共済を先に受け取り、iDeCoを年金形式で受け取るといった設計があります。
ただし、単純に年数を空ければ必ず有利になるわけではありません。税制上の重複期間調整や、公的年金・保険料への影響も確認しましょう。
7-3. 退職所得控除の重複期間に注意する
退職所得控除では、複数の退職一時金を受け取る場合に、勤続期間や加入期間の重複を調整するルールがあります。財務省の令和7年度税制改正大綱では、老齢一時金、つまり確定拠出年金法の老齢給付金として支給される一時金を受けた年の前年以前9年内に退職手当等を受ける場合、退職所得控除額の計算で勤続期間等の重複排除の特例対象とする見直しが示されています。この改正は令和8年1月1日以後に老齢一時金を受けている場合で、同日以後に支払を受ける退職手当等に適用されます。
以前の感覚で「5年空ければ大丈夫」と考えていると、税負担を見誤る可能性があります。iDeCoを先に受け取る人は、特に新しいルールを確認しましょう。
7-4. 先に受け取るべき制度は人によって異なる
小規模企業共済とiDeCoのどちらを先に受け取るべきかは、年齢、廃業予定、加入期間、受取額、他の退職金の有無によって変わります。
たとえば、60歳以降も事業を続ける人は、iDeCoをすぐに受け取らず運用を続ける選択肢があります。一方、廃業して生活費や住宅ローン返済にまとまった資金が必要な人は、小規模企業共済を一括で受け取る選択もあります。
7-5. 廃業時・60歳到達時・65歳以降で考える受取パターン
60歳時点でまだ事業を続ける場合は、iDeCoをすぐに受け取るのではなく、運用継続や年金受取を検討できます。65歳前後で廃業する予定があるなら、小規模企業共済の受取とiDeCoの受取が近くなりすぎないように注意しましょう。
また、65歳以降は公的年金の受給が始まるため、年金形式で受け取ると雑所得が増えます。所得税だけでなく、住民税、国民健康保険料、介護保険料への影響も考える必要があります。
7-6. 税理士やFPに相談したほうがよいケース
次のような人は、税理士やファイナンシャルプランナーに相談する価値があります。
小規模企業共済とiDeCoの残高が大きい人、会社員時代の退職金や企業型DCがある人、法人化や役員退職金を検討している人、65歳以降の年金収入が多い人、相続対策も同時に考えたい人です。
退職金の出口戦略は、一度決めて受け取るとやり直しが難しいため、受取直前ではなく50代のうちから試算しておくと安心です。
8. フリーランスの退職金はいくら準備すべき?
8-1. 老後に必要な生活費を見積もる
まずは、老後の毎月の生活費を見積もりましょう。住居費、食費、光熱費、通信費、医療費、交通費、趣味費、税金・社会保険料を具体的に書き出します。
持ち家か賃貸か、配偶者がいるか、地方に住むか都市部に住むかによって必要額は大きく変わります。平均値だけを見るのではなく、自分の生活水準に合わせた試算が必要です。
8-2. 公的年金の見込み額を確認する
老後資金を考えるときは、まず「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」で公的年金の見込み額を確認しましょう。国民年金だけのフリーランスと、会社員経験が長く厚生年金の加入期間がある人では、将来の年金額が大きく異なります。
年金見込み額を確認すれば、毎月いくら不足するかが見えます。その不足分を、小規模企業共済、iDeCo、国民年金基金、NISA、預貯金などで補う設計にしましょう。
8-3. 退職金代わりに必要な目標額を決める
退職金代わりの目標額は、次の式で考えるとわかりやすくなります。
老後の年間不足額×不足期間+予備費=退職金代わりに必要な金額
たとえば、公的年金だけでは毎月10万円不足し、それが20年続くと考えるなら、不足額は2,400万円です。さらに医療・介護・住まいの修繕・インフレに備える予備費も必要です。
8-4. 年齢別に考える積立額の目安
30代なら、時間を味方につけて少額から長期積立を始めることが重要です。iDeCoやNISAで投資信託を活用しつつ、小規模企業共済も無理のない金額で始めるとよいでしょう。
40代は、収入が増えやすい一方で教育費や住宅費も重なる時期です。節税効果を見ながら、小規模企業共済とiDeCoの掛金を段階的に増やすことが選択肢になります。
50代は、受取時期が近づくため、運用リスクを取りすぎないことが大切です。退職所得控除の使い方、廃業時期、公的年金の繰上げ・繰下げも含めて出口戦略を考えましょう。
8-5. 収入が不安定なフリーランスの積立戦略
収入が不安定な人は、最初から満額拠出を目指す必要はありません。まずは生活費6か月から1年分程度の生活防衛資金を確保し、その後に小規模企業共済やiDeCoを始めましょう。
売上が多い年は掛金を増やし、売上が低い年は減らす。賞与がないフリーランスだからこそ、繁忙期の利益を将来資金へ回す仕組みが重要です。
8-6. 節税と手元資金のバランスを取る
所得控除のある制度は魅力的ですが、節税額以上に手元資金が減ることを忘れてはいけません。たとえば年間84万円を小規模企業共済に積み立てても、84万円分の税金が戻るわけではありません。実際の節税額は所得税率・住民税率によって変わります。
フリーランスは、所得税、住民税、消費税、国民健康保険料、国民年金保険料などを自分で管理します。退職金準備は大切ですが、納税資金を残したうえで行いましょう。
9. フリーランスが退職金準備で失敗しないための注意点
9-1. 節税目的だけで掛金を増やしすぎない
小規模企業共済やiDeCoは節税効果がありますが、節税を目的に掛金を増やしすぎると資金繰りが苦しくなります。特にiDeCoは原則60歳まで引き出せないため、無理な拠出は避けましょう。
退職金準備は、継続できることが何より大切です。売上が一時的に増えた年だけ高額拠出するのではなく、長期的に続けられる金額を基準にしましょう。
9-2. 生活防衛資金を確保してから始める
フリーランスは、病気、取引先の都合、景気悪化などで収入が急減するリスクがあります。退職金準備の前に、まずは生活防衛資金を確保しましょう。
目安としては、最低でも生活費6か月分、できれば1年分程度を流動性の高い預金で持つと安心です。そのうえで、余裕資金を小規模企業共済やiDeCo、NISAに振り分けるのが現実的です。
9-3. 途中解約・元本割れ・引き出し制限を理解する
小規模企業共済は、任意解約時の解約手当金が掛金納付月数に応じて変わり、納付掛金を下回る場合があります。iDeCoは原則60歳まで引き出せず、投資信託で運用すれば元本割れリスクがあります。
制度のメリットだけでなく、解約時や受取時の制限を理解してから加入しましょう。
9-4. 確定申告で所得控除を忘れない
小規模企業共済やiDeCoの掛金は所得控除の対象ですが、確定申告で正しく申告しなければ節税効果を受けられません。控除証明書を保管し、確定申告書の該当欄に忘れずに記入しましょう。
フリーランスは、会計ソフトを使っていても控除証明書の入力漏れが起こりがちです。年末に届く証明書類は、医療費、保険料、国民年金、国民年金基金などと一緒に管理しておくと安心です。
9-5. 法人成り・廃業・再就職時の扱いを確認する
フリーランスが法人化した場合、個人事業主としての立場から法人の役員へ変わります。小規模企業共済の加入資格や共済金の扱い、iDeCoの被保険者区分、社会保険加入などが変わる可能性があります。
また、会社員に再就職した場合は、iDeCoの拠出限度額が変わることがあります。働き方が変わるタイミングでは、必ず制度の扱いを確認しましょう。
9-6. 制度改正や税制変更を定期的に確認する
退職金や年金に関する制度は、税制改正や年金制度改正の影響を受けます。実際に、iDeCoは令和8年12月から拠出限度額や加入可能年齢の見直しが予定されています。
加入時点で最適だった選択が、10年後も最適とは限りません。毎年の確定申告時や年末の資産確認時に、制度改正をチェックする習慣を持ちましょう。
10. フリーランスの退職金準備に関するよくある質問
10-1. フリーランスでも退職金は経費にできる?
個人事業主本人に対する退職金を、事業の必要経費として計上することはできません。小規模企業共済の掛金も、事業上の必要経費ではなく、所得控除として扱われます。中小機構も、掛金は共済契約者本人の収入から納付するものであり、事業上の損金または必要経費には算入できないと説明しています。
10-2. 小規模企業共済とiDeCoは併用できる?
小規模企業共済とiDeCoは併用できます。どちらも掛金が所得控除の対象になるため、課税所得があるフリーランスにとっては節税効果が大きくなる可能性があります。
ただし、受取時に退職所得控除の調整が必要になる場合があります。併用する場合は、積立時だけでなく受取時の出口戦略も考えましょう。
10-3. 小規模企業共済は途中解約できる?
小規模企業共済は任意解約も可能ですが、解約手当金は掛金の納付月数に応じて計算され、納付掛金を下回ることがあります。中小機構は、解約手当金の額について、納付した掛金の80%から120%に相当する額と説明しています。
短期間で解約する可能性がある人は、最初から高額な掛金を設定しないほうが安全です。
10-4. iDeCoとNISAはどちらを優先すべき?
老後資金専用で、所得控除を重視するならiDeCoが有力です。一方、いつでも売却できる自由度を重視するならNISAが向いています。
フリーランスの場合、まず生活防衛資金を確保し、次にNISAで流動性のある資産を作り、そのうえでiDeCoを老後専用資金として積み立てる順番が現実的なケースも多いでしょう。
10-5. 退職所得控除は小規模企業共済にも使える?
小規模企業共済を一括で受け取る場合、原則として退職所得扱いとなり、退職所得控除を使える可能性があります。中小機構も、共済金を一括で受け取る場合は退職所得扱いと説明しています。
ただし、任意解約の年齢や事由によって一時所得扱いになる場合もあります。受取前に税務上の扱いを確認しましょう。
10-6. 退職金準備は何歳から始めるべき?
退職金準備は、早く始めるほど有利です。20代・30代であれば少額でも長期運用の効果を得やすく、40代・50代であれば節税効果を活かしながら集中的に積み立てることができます。
ただし、開業直後で収入が不安定な時期は、無理に始める必要はありません。生活防衛資金、納税資金、事業資金を確保したうえで、月1,000円からでも継続できる制度を選ぶことが大切です。
10-7. 収入が少ないフリーランスでも加入するメリットはある?
収入が少ない場合でも、将来の退職金準備として小規模企業共済やiDeCoに加入するメリットはあります。ただし、所得が低く税負担が小さい年は、所得控除による節税効果も限定的です。
その場合は、まず預金で生活防衛資金を作り、少額のNISAや小規模企業共済から始めるなど、無理のない方法を選びましょう。所得が増えてから掛金を増やしても遅くはありません。
まとめ
フリーランスには、会社員のように勤務先から支給される退職金が基本的にありません。そのため、老後資金や廃業時の生活資金は、自分で制度を選んで準備する必要があります。
退職金代わりとして特に有力なのは、小規模企業共済とiDeCoです。小規模企業共済は、個人事業主の退職金制度として使いやすく、掛金が全額所得控除になり、廃業時には退職所得扱いで受け取れる可能性があります。iDeCoは、老後専用の私的年金として、掛金の全額所得控除、運用益非課税、受取時の税制優遇を活用できます。
一方で、どちらの制度も「積み立てて終わり」ではありません。小規模企業共済とiDeCoを併用する場合は、同じ年に受け取ると退職所得控除を十分に使えない可能性があり、受取時期をずらす出口戦略が重要です。令和8年以降はiDeCoの受取に関する退職所得控除の調整ルールにも注意が必要です。
フリーランスの退職金準備では、節税、運用、手元資金、受取時の税金をバランスよく考えることが大切です。まずは生活防衛資金を確保し、次に小規模企業共済・iDeCo・NISA・国民年金基金を目的別に組み合わせ、自分に合った退職金づくりを始めましょう。

