フリーランスに最低賃金は適用される?報酬が安すぎるときの対処法と契約前の注意点
はじめに
「フリーランスとして働いているけれど、報酬を時給換算すると最低賃金を下回っている」「業務委託だから安くても我慢するしかないのか」と不安に感じる人は少なくありません。
結論からいうと、フリーランスには原則として最低賃金法は適用されません。最低賃金は、雇用されて働く「労働者」と「使用者」に適用される制度だからです。一方で、契約書に「業務委託」「フリーランス」と書かれていても、実態として会社の指揮命令を受けて働いている場合は、労働者と判断され、最低賃金などの労働法上の保護を受けられる可能性があります。
また、最低賃金が直接適用されない場合でも、フリーランス新法、取適法、独占禁止法などにより、不当な報酬減額、買いたたき、支払遅延、受領拒否などに対抗できるケースがあります。この記事では、「フリーランスと最低賃金」の関係、報酬が安すぎるときの対処法、契約前に確認すべきポイントをわかりやすく解説します。
1. フリーランスに最低賃金は適用される?まず結論
1-1. 原則としてフリーランスには最低賃金法は適用されない
フリーランスに最低賃金が適用されるかどうかは、まず「労働者」に当たるかで決まります。最低賃金制度は、使用者が労働者に支払わなければならない賃金の最低額を定める制度であり、地域別最低賃金は、都道府県内の事業場で働くすべての労働者と使用者に適用されます。パート、アルバイト、臨時、嘱託など呼称にかかわらず適用されますが、事業者として業務を受けるフリーランスは、原則としてこの「労働者」には含まれません。
つまり、フリーランスの報酬が時給換算で最低賃金を下回っていたとしても、それだけで直ちに最低賃金法違反になるとは限りません。
1-2. 最低賃金が適用されるのは「労働者」と判断される場合
最低賃金が適用されるのは、労働基準法上の「労働者」と判断される場合です。労働基準法では、労働者を「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」と定めています。実務上は、主に「他人の指揮監督下で労働しているか」「報酬が指揮監督下での労働の対価として支払われているか」という使用従属性をもとに判断されます。
そのため、契約書の名前だけで決まるわけではありません。「業務委託契約」と書かれていても、実際には会社員やアルバイトと同じように働いていれば、労働者性が認められる可能性があります。
1-3. 業務委託契約でも実態によっては労働者と認められることがある
厚生労働省も、フリーランスが請負などの契約で仕事をする場合であっても、個々の発注者との関係で労働基準法上の「労働者」と認められる場合は、労働時間や賃金に関するルールが適用され、最低賃金法などの個別労働関係法令も適用されると説明しています。
たとえば、毎日決められた時間に出社し、会社の担当者から細かく作業指示を受け、仕事を断る自由がなく、報酬も時給や日給に近い形で支払われている場合は、「名ばかりフリーランス」として扱われる可能性があります。
1-4. 「フリーランスだから必ず保護されない」は誤解
「フリーランスだから最低賃金は一切関係ない」「業務委託だから何をされても仕方ない」という考え方は誤解です。
確かに、一般的なフリーランスには最低賃金法は直接適用されません。しかし、実態として労働者と判断される場合は、最低賃金、労働時間、残業代、休憩、休日などのルールが問題になります。また、労働者とまではいえない場合でも、フリーランス新法などにより、取引条件の明示、報酬の支払期日、不当な減額や買いたたきへの規制といった保護があります。
重要なのは、「フリーランスかどうか」ではなく、「どのような実態で働いているか」「どの法律で守られる可能性があるか」を切り分けて考えることです。
2. なぜフリーランスには最低賃金がないのか
2-1. フリーランスは雇用契約ではなく業務委託契約で働くため
会社員やアルバイトは、会社と雇用契約を結び、労働力を提供する代わりに賃金を受け取ります。一方、フリーランスは、多くの場合、請負契約、委任契約、準委任契約などの業務委託契約で仕事を受けます。
雇用契約では、使用者が労働者に対して指揮命令を行い、労働者はその指示に従って働きます。そのため、労働時間、休憩、休日、最低賃金などのルールで保護されます。
一方、業務委託契約では、フリーランスは独立した事業者として仕事を引き受けます。発注者は「何を依頼するか」は指定できますが、原則として、働く時間や場所、作業の細かな進め方まで支配する立場ではありません。
2-2. 報酬は時間ではなく成果物・業務内容に対して決まるため
フリーランスの報酬は、必ずしも「1時間働いたらいくら」という考え方で決まるわけではありません。Webサイト制作なら1サイトいくら、記事執筆なら1本いくら、動画編集なら1本いくら、コンサルティングなら1案件いくらというように、成果物や業務内容に対して報酬が決まることが一般的です。
そのため、同じ10万円の案件でも、作業に10時間かかれば時給換算1万円、100時間かかれば時給換算1,000円になります。フリーランスは、作業効率、専門性、経験、交渉力、見積もり精度によって実質的な時給が大きく変わります。
2-3. 時給換算で最低賃金を下回っても直ちに違法とは限らない
フリーランスの案件を時給換算した結果、最低賃金を下回っていたとしても、それだけで違法とは限りません。最低賃金は、労働者に対する賃金の最低額を定める制度だからです。
ただし、時給換算で極端に低い状態が続く場合は注意が必要です。単に自分の見積もりが甘かっただけでなく、発注者から一方的に作業を増やされている、追加修正を無償で求められている、相場より著しく低い報酬を押し付けられている、実態として労働者のように拘束されているといった問題が隠れていることがあります。
2-4. 会社員・アルバイト・業務委託の違い
会社員やアルバイトは、雇用契約に基づいて働く労働者です。勤務時間や勤務場所、業務内容について会社の指示を受け、賃金として給与を受け取ります。最低賃金は、このような労働者に適用されます。
一方、業務委託で働くフリーランスは、原則として独立した事業者です。仕事を受けるか断るか、どのように進めるか、いくらで引き受けるかを自分で決める立場です。その代わり、最低賃金や残業代のような雇用労働者向けの保護は原則として受けられません。
ただし、実態が会社員やアルバイトに近い場合は、業務委託という形式だけでは判断できません。契約の名称よりも、働き方の実態が重要です。
3. フリーランスでも最低賃金が適用される可能性があるケース
3-1. 発注者から勤務時間や場所を細かく指定されている
フリーランスなのに、毎日9時から18時まで働くよう指定されている、発注者のオフィスに常駐することが義務になっている、休む場合は事前承認が必要とされている場合は、労働者性が問題になりやすくなります。
業務委託でも、納期や打ち合わせ日時を決めること自体は通常あります。しかし、勤務シフトのように時間と場所を細かく拘束されている場合は、独立した事業者というより、会社の指揮下で働く労働者に近いと見られる可能性があります。
3-2. 仕事の進め方に強い指揮命令を受けている
発注者が、成果物の仕様や納品条件を伝えることは問題ありません。しかし、作業手順、作業順序、使用するツール、日々の進捗、細かな判断まで一方的に指示され、自由な裁量がほとんどない場合は、指揮監督下で働いていると評価される可能性があります。
たとえば、「この成果物を納品してください」ではなく、「今日はこの作業を何時までに行い、次にこの作業をし、判断に迷ったら必ず上長の許可を取る」といった働き方であれば、業務委託というより雇用に近い実態といえます。
3-3. 仕事を断る自由がほとんどない
フリーランスであれば、本来は案件を受けるか断るかを自分で判断できます。しかし、発注者からの仕事を断ると契約を打ち切られる、事実上すべての指示に従わざるを得ない、他社案件を受ける自由がないといった場合は、独立性が弱いと見られる可能性があります。
もちろん、継続契約で一定の業務量を約束すること自体はあります。ただし、断る自由がなく、発注者の業務運営に組み込まれているような状態では、労働者性の判断材料になります。
3-4. 報酬が成果ではなく時間給・日給に近い形で支払われている
報酬が「成果物1件あたり」ではなく、「1時間いくら」「1日いくら」「月160時間で固定」といった形で支払われている場合も、労働者性を考えるうえで重要な要素です。
時間給や日給だから直ちに労働者になるわけではありません。しかし、勤務時間を拘束され、発注者の指揮命令を受け、その時間に対する対価として報酬が支払われているなら、最低賃金が問題になる可能性があります。
3-5. 会社の従業員と同じように働いている
社内メールアドレスや社員証を使い、会社のチームに組み込まれ、従業員と同じ会議や評価制度に入っている場合も注意が必要です。肩書きだけが「業務委託」で、実態としては従業員と同じように働いている場合、偽装フリーランスと判断される可能性があります。
特に、会社の就業規則に近いルールで管理されている、上司に当たる人がいる、勤怠管理をされている、残業や休日対応を求められるといった事情が重なると、労働者性が問題になりやすくなります。
3-6. 偽装フリーランス・偽装請負と判断される可能性
「偽装フリーランス」とは、形式上はフリーランスや業務委託として契約しているものの、実態は労働者として働いている状態を指します。発注者側からすると、社会保険料、残業代、最低賃金、有給休暇などの負担を避ける目的で業務委託の形を取っているケースもあります。
このような場合、契約書に「業務委託」と書かれていても、実態をもとに判断されます。自分の働き方が「会社員とほとんど同じではないか」と感じる場合は、勤務時間、指示内容、報酬の計算方法、出勤記録、チャット履歴などを整理しておきましょう。
4. 報酬が安すぎるときに確認すべきポイント
4-1. まずは報酬を時給換算して実態を把握する
フリーランスには最低賃金が原則適用されないとはいえ、自分の報酬を時給換算することは非常に重要です。時給換算をしないと、案件が本当に利益を生んでいるのか、安すぎるのか、継続すべきか判断できません。
計算式はシンプルです。
報酬 ÷ 実際にかかった総作業時間 = 実質時給
たとえば、報酬3万円の案件に30時間かかった場合、実質時給は1,000円です。ここから経費、税金、社会保険料を差し引くと、手取りはさらに少なくなります。
4-2. 作業時間・修正回数・打ち合わせ時間も含めて計算する
時給換算するときは、実作業だけでなく、案件に関係するすべての時間を含めることが大切です。
含めるべき時間には、事前打ち合わせ、資料確認、リサーチ、構成作成、制作作業、修正対応、チャット返信、請求書作成、納品後の確認などがあります。
特に注意したいのが、修正回数と打ち合わせ時間です。報酬自体は高く見えても、何度も修正が発生したり、毎週長時間の定例会議があったりすると、実質時給は大きく下がります。
4-3. 経費・税金・社会保険料を差し引いた手取りで考える
フリーランスの報酬は、会社員の給与とは違います。売上として受け取った金額から、仕事に必要な経費、所得税、住民税、国民年金、国民健康保険料などを自分で負担します。
そのため、時給換算で最低賃金と同じくらいの金額になっている場合、実際の手取りは最低賃金で働くアルバイトより低くなる可能性があります。
フリーランスの単価設定では、「売上ベースの時給」ではなく、「手取りベースで生活できるか」を基準に考える必要があります。
4-4. 相場より著しく低い報酬になっていないか確認する
報酬が安すぎると感じたら、同じ職種・同じ難易度・同じ納期の案件相場を調べましょう。クラウドソーシング、エージェント、同業者の料金表、制作会社の外注費、業界団体の資料などを参考にすると、自分の単価が相場より低すぎないか判断しやすくなります。
相場より著しく低い報酬を一方的に押し付けられている場合、フリーランス新法上の「買いたたき」が問題になる可能性もあります。フリーランス新法のパンフレットでは、通常支払われる対価に比べて著しく低い報酬を不当に定めることが買いたたきに当たると説明されています。
4-5. 追加作業や仕様変更が無償になっていないか確認する
最初に合意した業務範囲を超える追加作業が発生しているのに、追加報酬が支払われていない場合も注意が必要です。
たとえば、記事1本の執筆契約だったのに構成案、画像選定、WordPress入稿、SEO分析、SNS投稿文作成まで求められる場合、当初の報酬では割に合わなくなります。Web制作やデザインでも、仕様変更や追加ページ、修正回数の増加が無償になれば、実質的な買いたたきに近い状態になります。
「どこまでが契約内か」「どこからが追加料金か」を明確にしておくことが、安すぎる報酬を防ぐ基本です。
5. フリーランスの安すぎる報酬を守る法律・ルール
5-1. フリーランス新法で守られる主な内容
フリーランス新法の正式名称は、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」です。2024年11月1日に施行され、個人で働くフリーランスに業務委託を行う発注事業者に対して、取引条件の明示、給付を受領した日から原則60日以内での報酬支払、ハラスメント対策のための体制整備などが義務付けられています。
この法律は、最低賃金を定める法律ではありません。しかし、フリーランスと発注者の取引を適正化し、報酬未払い、支払遅延、一方的な減額、買いたたきなどを防ぐための重要なルールです。
5-2. 取引条件の明示義務
フリーランス新法では、発注事業者がフリーランスに業務委託をする際、業務内容、報酬額、支払期日などの取引条件を明示する義務があります。厚生労働省の案内でも、発注時の取引条件の明示が義務付けられるとされています。
取引条件があいまいなまま仕事を始めると、「そんな作業も含まれていると思っていた」「検収が終わっていないから支払えない」「修正は何度でも無料」といったトラブルにつながります。契約前に、少なくとも業務内容、納品物、報酬額、支払日、修正範囲、追加作業の扱いは明確にしましょう。
5-3. 報酬の支払期日に関するルール
フリーランス新法では、発注事業者に対し、給付を受領した日から原則60日以内での報酬支払が義務付けられています。
「月末締め翌々月末払い」「検収が終わるまで無期限」「クライアントから入金されたら支払う」といった条件は、フリーランス側に大きな資金繰りリスクを負わせます。契約前に、支払日は必ず確認し、契約書や発注書に残しておきましょう。
5-4. 一方的な報酬減額・買いたたき・受領拒否への規制
フリーランスに責任がないのに、業務委託時に定めた報酬額を後から減らして支払うことは、フリーランス新法上の「報酬の減額」に該当する禁止行為とされています。公正取引委員会は、名目や方法、金額にかかわらず、あらゆる減額行為が禁止されると説明しています。
また、通常支払われる対価に比べて著しく低い報酬を不当に定める買いたたき、フリーランスに責任がないのに成果物を受け取らない受領拒否なども問題になります。
5-5. 下請法や独占禁止法が関係するケース
事業者間の取引では、フリーランス新法だけでなく、取適法や独占禁止法が関係する場合もあります。なお、従来「下請法」と呼ばれていた制度は、2026年1月から改正により「取適法」として施行され、発注内容や代金額、支払期日、支払方法を明示する義務、受領日から60日以内のできる限り短い期間内で支払期日を定める義務、受領拒否、支払遅延、減額、買いたたきなどの禁止が整理されています。
また、取引上優越した地位にある委託者が、受託者に対して不当にやり直しをさせるような行為は、独占禁止法上問題となる場合があります。
5-6. 最低賃金とは違うが「不当な取引」には対抗できる
フリーランス新法や取適法、独占禁止法は、最低賃金のように「1時間あたりいくら以上」と最低報酬を決めるものではありません。しかし、契約後の一方的な減額、支払遅延、買いたたき、不当な追加作業、受領拒否などには対抗できる可能性があります。
「最低賃金以下だから違法」と単純にはいえなくても、「不当な取引条件ではないか」「合意していない作業を無償で求められていないか」「発注者の立場を利用した押し付けではないか」という視点で確認することが大切です。
6. 報酬が安すぎるときの具体的な対処法
6-1. 契約内容とやり取りの証拠を整理する
報酬が安すぎる、減額された、支払われないと感じたら、まず証拠を整理しましょう。契約書、発注書、見積書、請求書、メール、チャット、打ち合わせメモ、納品データ、修正依頼の履歴、作業時間の記録などをまとめます。
口頭でのやり取りしかない場合でも、後から「先ほどのお打ち合わせでは、追加作業は別途見積もりという認識でよろしいでしょうか」とメールやチャットで確認しておくと証拠になります。
6-2. 作業範囲と報酬の見直しを交渉する
報酬が作業量に見合っていない場合は、感情的に不満を伝えるのではなく、作業範囲と工数を整理して交渉しましょう。
たとえば、次のように伝えます。
「当初は記事執筆のみの想定でしたが、現在は構成作成、画像選定、CMS入稿、追加修正まで含まれており、想定工数を大きく超えています。現状の作業範囲で継続する場合は、次回より単価を〇円に見直したいです。」
ポイントは、「安いから上げてほしい」ではなく、「作業範囲が増えているため、報酬も見直したい」と具体的に伝えることです。
6-3. 追加作業は別料金で見積もる
追加作業を求められたら、その場で無償対応を約束しないことが大切です。
「対応可能です。追加作業になりますので、別途お見積もりします。」
「当初の契約範囲外のため、〇円で対応可能です。」
「無料修正は2回までとしており、3回目以降は追加料金となります。」
このように、追加作業を自然に見積もる習慣をつけると、実質時給の低下を防ぎやすくなります。
6-4. 継続案件は単価改定のタイミングを作る
継続案件では、最初に安い単価で受けてしまうと、後から上げにくくなります。そのため、契約時に「3か月後に単価を見直す」「月〇本を超える場合は単価を改定する」「業務範囲が増える場合は別途協議する」といった見直しのタイミングを作っておくと安心です。
すでに継続している案件でも、実績が出たタイミングや作業範囲が増えたタイミングで交渉しましょう。売上貢献、品質向上、納期短縮、対応範囲の拡大など、相手にとってのメリットを示すと交渉しやすくなります。
6-5. 交渉しても改善しない案件は受け続けない
報酬が安すぎる案件を受け続けると、時間だけが奪われ、より良い案件を探す余裕がなくなります。交渉しても改善しない、追加作業が止まらない、支払いが遅い、態度が高圧的といった案件は、継続しない判断も必要です。
フリーランスにとって大切なのは、単に案件を切らさないことではありません。自分の時間、専門性、健康を守りながら、継続できる単価で働くことです。
6-6. 悪質な取引は相談窓口や専門家に相談する
報酬未払い、減額、買いたたき、ハラスメント、契約トラブルなどがある場合は、相談窓口を利用しましょう。フリーランス・トラブル110番は、厚生労働省委託事業として設置されており、フリーランスに関する法律問題に詳しい弁護士が無料で相談を受け付け、匿名相談も可能とされています。
また、公正取引委員会にも、フリーランス・事業者間取引適正化等法や取適法、優越的地位の濫用に関する相談窓口があります。
実態として労働者ではないかと感じる場合は、労働基準監督署や労働局への相談も検討しましょう。
7. 契約前に確認すべき注意点
7-1. 業務内容・納品物・検収条件を明確にする
契約前には、「何をどこまでやるのか」を明確にしましょう。記事なら文字数、構成作成の有無、画像選定の有無、入稿作業の有無。デザインなら納品形式、サイズ、点数、修正範囲。Web制作ならページ数、機能、対応ブラウザ、保守の有無などを具体的に決めます。
検収条件も重要です。「どの状態になれば納品完了なのか」「検収期間は何日か」「検収後の修正は別料金か」を決めておかないと、いつまでも納品完了にならず、支払いが遅れる原因になります。
7-2. 報酬額・支払日・支払方法を契約書に残す
報酬額、消費税の扱い、源泉徴収の有無、支払日、支払方法、振込手数料の負担者は、必ず書面に残しましょう。
「月末締め翌月末払い」「納品後30日以内」「検収完了月の翌月末払い」など、支払条件は具体的に書く必要があります。「なるべく早く」「確認後に支払う」といったあいまいな表現は避けましょう。
7-3. 修正回数・追加対応・キャンセル時の扱いを決める
報酬が安くなる大きな原因の一つが、無制限の修正対応です。契約前に、無料修正は何回までか、どの範囲までが修正か、方針変更や仕様変更は追加料金になるかを決めておきましょう。
また、発注者都合でキャンセルになった場合のキャンセル料も重要です。着手後のキャンセルは報酬の何%、初稿提出後は何%、納品直前は何%といった形で定めておくと、作業したのに無報酬になるリスクを減らせます。
7-4. 著作権や成果物の利用範囲を確認する
デザイン、文章、写真、動画、イラスト、システム開発などでは、著作権や利用範囲の確認も必要です。
報酬に含まれるのは、成果物の利用許諾なのか、著作権譲渡まで含むのか。二次利用、改変、再販売、実績公開の可否はどうするのか。これらを決めずに進めると、後から「この金額で著作権も全部譲渡だと思っていた」と言われる可能性があります。
著作権譲渡や広範な利用を求められる場合は、その分を報酬に反映させることも検討しましょう。
7-5. 業務時間を拘束される契約になっていないか確認する
業務委託契約でありながら、勤務時間、勤務場所、休憩時間、欠勤連絡、上司の承認などが細かく定められている場合は注意が必要です。
「週5日、9時から18時まで常駐」「他社案件は禁止」「毎日朝礼に参加」「休む場合は承認が必要」といった条件があるなら、実態として雇用に近くなる可能性があります。
フリーランスとして契約するなら、成果物、業務範囲、納期を中心に定め、必要以上に時間や場所を拘束されないか確認しましょう。
7-6. 口約束ではなく書面・メール・チャットで証拠を残す
フリーランスのトラブルでは、「言った」「言わない」が大きな問題になります。契約書が理想ですが、難しい場合でも、メールやチャットで合意内容を残しましょう。
特に、報酬、納期、作業範囲、修正回数、追加料金、支払日については、口約束で済ませないことが重要です。打ち合わせで決まった内容は、必ず文章で確認し、相手から返信をもらうようにしましょう。
8. 安い案件を避けるための単価設定の考え方
8-1. 希望年収から逆算して最低受注単価を決める
フリーランスの単価は、なんとなく決めるのではなく、希望年収から逆算しましょう。
たとえば、年間売上600万円を目指す場合、毎月50万円の売上が必要です。ただし、すべての時間を請求可能な作業に使えるわけではありません。営業、経理、学習、事務作業、休暇、体調不良の時間もあります。
月に請求可能な作業時間が100時間なら、売上ベースで最低時給5,000円が必要です。ここから経費や税金を差し引くことを考えると、単価をさらに上げる必要があるかもしれません。
8-2. 時給ではなく成果・専門性・価値で価格を決める
フリーランスは時給だけで価格を決めると、作業が早くなるほど売上が下がるという矛盾が起きます。単価を考えるときは、作業時間だけでなく、成果、専門性、相手に与える価値を反映させましょう。
たとえば、SEO記事なら単なる文字数ではなく、検索流入、問い合わせ、売上への貢献が価値になります。デザインなら見た目だけでなく、ブランドイメージや成約率への貢献が価値になります。システム開発なら、業務効率化や人件費削減が価値になります。
8-3. 相場調査をして安売りを防ぐ
単価を決める前に、必ず相場調査を行いましょう。相場を知らないと、発注者から提示された金額が安いのか妥当なのか判断できません。
ただし、相場はあくまで参考です。経験、専門性、実績、対応範囲、納期、品質によって適正価格は変わります。「初心者だから安くしなければならない」と考えすぎると、いつまでも低単価から抜け出せません。
8-4. 見積書で作業範囲と料金の根拠を示す
安すぎる案件を避けるには、見積書を出す習慣が効果的です。見積書には、作業項目、数量、単価、合計額、含まれる範囲、含まれない範囲、追加料金の条件を記載します。
見積書を出すことで、発注者も「何にいくらかかっているのか」を理解しやすくなります。また、後から追加作業を求められたときに、「こちらは見積もり範囲外です」と説明しやすくなります。
8-5. 値下げ交渉されたときの対応ルールを決めておく
値下げ交渉に毎回その場で応じていると、単価はどんどん下がります。事前に、自分の中で対応ルールを決めておきましょう。
たとえば、「値下げする場合は作業範囲も減らす」「継続発注でも初回から大幅値引きはしない」「予算が合わない場合は別プランを提案する」「最低受注単価を下回る案件は受けない」といったルールです。
値下げに応じるなら、単に金額を下げるのではなく、納品物の点数、修正回数、対応スピード、サポート範囲などを調整しましょう。
9. フリーランスの最低賃金に関するよくある質問
9-1. 業務委託でも最低賃金以下なら違法になる?
業務委託として働くフリーランスには、原則として最低賃金法は適用されません。そのため、時給換算で最低賃金を下回っているだけで直ちに違法とは限りません。
ただし、実態として発注者の指揮命令を受け、勤務時間や場所を拘束され、報酬が労働時間の対価として支払われている場合は、労働者と判断される可能性があります。その場合は最低賃金が問題になります。
9-2. 時給制の業務委託なら最低賃金は適用される?
時給制の業務委託だからといって、自動的に最低賃金が適用されるわけではありません。ただし、時給制は労働者性を考えるうえで重要な要素の一つです。
時給で支払われ、勤務時間を管理され、仕事の進め方を細かく指示され、仕事を断る自由がない場合は、実態として労働者に近いと判断される可能性があります。
9-3. クラウドソーシングの低単価案件は違法?
クラウドソーシング上の低単価案件も、それだけで直ちに違法とは限りません。フリーランスが独立した事業者として条件を確認し、自分の判断で受注している場合、最低賃金法の問題にはなりにくいです。
ただし、募集内容と実際の作業内容が大きく違う、追加作業を無償で求められる、納品後に一方的に減額される、相場より著しく低い報酬を不当に押し付けられるといった場合は、フリーランス新法などの観点から問題になる可能性があります。
9-4. 報酬未払い・減額をされたらどこに相談すべき?
報酬未払い、減額、買いたたき、契約トラブルなどは、まず契約書、発注書、請求書、やり取りの履歴、納品記録を整理しましょう。そのうえで、フリーランス・トラブル110番、公正取引委員会、弁護士などに相談する方法があります。フリーランス・トラブル110番は無料・匿名で相談できる窓口として案内されています。
実態として労働者ではないか、最低賃金を下回っているのではないかという相談であれば、労働基準監督署や労働局も選択肢になります。
9-5. フリーランス新法で最低報酬は決まっている?
フリーランス新法は、最低報酬額を定める法律ではありません。最低賃金のように「1時間あたり〇円以上」と決めているわけではありません。
ただし、取引条件の明示、報酬の支払期日、一方的な減額、買いたたき、受領拒否などについてルールを設けています。つまり、最低報酬を直接保証する法律ではないものの、不当な取引条件からフリーランスを守るための法律といえます。
9-6. 会社員並みに拘束されている場合はどうすればいい?
会社員並みに拘束されている場合は、まず自分の働き方を客観的に整理しましょう。勤務時間や場所の指定、指示命令の内容、仕事を断る自由の有無、報酬の計算方法、勤怠管理の有無、従業員との違いなどを記録します。
そのうえで、労働者性が疑われる場合は、労働基準監督署、労働局、弁護士、フリーランス・トラブル110番などに相談しましょう。契約書の名称だけであきらめる必要はありません。実態として労働者と判断されれば、最低賃金などの労働法上の保護を受けられる可能性があります。
まとめ
フリーランスには、原則として最低賃金法は適用されません。最低賃金は、雇用されて働く労働者を保護する制度であり、独立した事業者として業務委託を受けるフリーランスの報酬には直接適用されないのが基本です。
ただし、契約書に「業務委託」「フリーランス」と書かれていても、実態として勤務時間や場所を拘束され、発注者の指揮命令を受け、会社員と同じように働いている場合は、労働者と判断される可能性があります。その場合は、最低賃金法を含む労働関係法令が問題になります。
また、労働者とまではいえない場合でも、フリーランス新法、取適法、独占禁止法などにより、取引条件の明示、報酬の支払期日、一方的な減額、買いたたき、受領拒否などに対抗できる可能性があります。
報酬が安すぎると感じたら、まず実質時給を計算し、作業範囲、追加対応、経費、税金、相場を確認しましょう。そのうえで、契約内容を見直し、必要に応じて単価交渉や追加見積もりを行います。改善しない案件を受け続けないことも、自分の働き方を守るために重要です。
フリーランスにとって大切なのは、「最低賃金がないから仕方ない」とあきらめることではありません。自分の働き方が労働者に近くないか、不当な取引条件になっていないか、契約前に守るべきポイントを押さえ、必要なときは相談窓口や専門家を活用しましょう。

