フリーランス法とは?対象者・義務・違反リスクをわかりやすく解説

はじめに

フリーランス法は、企業などの発注者がフリーランスへ業務を委託する際のルールを定めた法律です。近年、ライター、デザイナー、エンジニア、動画編集者、コンサルタント、配送員、一人親方など、雇用契約ではなく業務委託契約で働く人が増えています。

一方で、フリーランスは企業に比べて交渉力が弱くなりやすく、「口頭だけで発注された」「報酬がいつ支払われるかわからない」「納品後に一方的に減額された」「急に契約を切られた」といったトラブルが起こりやすい立場にあります。

こうした問題に対応するために施行されたのが、いわゆる「フリーランス法」です。発注者にとっては、契約書や発注書、支払サイト、ハラスメント対策などを見直す必要があり、フリーランスにとっては、自分の権利を守るために知っておきたい重要な法律です。

この記事では、フリーランス法の概要、対象者、発注者の義務、禁止行為、違反リスク、実務対応までわかりやすく解説します。

1. フリーランス法とは?まず押さえるべき概要

フリーランス法とは、フリーランスと発注事業者との間の取引を適正化し、フリーランスが安心して働ける環境を整えるための法律です。正式には「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」といいます。

ポイントは、フリーランスを「労働者」として保護する法律ではなく、あくまで「事業者」として業務委託を受ける人を保護する法律であることです。そのため、雇用契約に基づく労働者には原則として労働基準法などが適用され、フリーランス法とは適用場面が異なります。

1-1. フリーランス法の正式名称と施行日

フリーランス法の正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」です。通称として「フリーランス法」や「フリーランス・事業者間取引適正化等法」と呼ばれています。

この法律は、2023年5月12日に公布され、2024年11月1日に施行されました。施行後は、フリーランスへ業務委託を行う発注者に対して、取引条件の明示、報酬支払期日の設定、ハラスメント対策などの義務が課されています。

1-2. フリーランス法ができた背景

フリーランス法が作られた背景には、働き方の多様化があります。副業・兼業、リモートワーク、クラウドソーシング、ギグワークなどが広がり、会社に雇用されずに個人で仕事を受ける人が増えました。

しかし、フリーランスは発注者との力関係で不利になりやすく、契約条件が曖昧なまま仕事を始めてしまうケースも少なくありません。特に、報酬未払い、支払い遅延、一方的な減額、過度な修正依頼、突然の契約終了などは、生活や事業継続に大きな影響を与えます。

従来の下請法は資本金規模などの要件があり、すべてのフリーランス取引をカバーできるわけではありませんでした。そのため、フリーランスと発注者の取引に特化した新たなルールとして、フリーランス法が整備されました。

1-3. フリーランス法の目的は「取引の適正化」と「就業環境の整備」

フリーランス法の目的は、大きく分けて2つあります。

1つ目は「取引の適正化」です。発注時に業務内容や報酬額、支払期日などを明示させ、報酬の減額、受領拒否、買いたたきなどを禁止することで、不公正な取引を防ぎます。

2つ目は「就業環境の整備」です。募集情報を正確に表示すること、育児・介護等と業務の両立に配慮すること、ハラスメント相談体制を整備すること、継続的な業務委託を解除する際に事前予告を行うことなどが定められています。

つまり、フリーランス法は「お金の支払いルール」だけでなく、「安心して働ける環境づくり」まで含めた法律です。

1-4. 下請法・労働基準法との違い

フリーランス法と混同されやすい法律に、下請法と労働基準法があります。

下請法は、発注者と受注者の資本金規模や取引内容などに応じて適用される法律です。なお、2026年1月1日から下請法は改正され、「中小受託取引適正化法」、通称「取適法」として施行されています。

これに対して、フリーランス法は、資本金規模ではなく「従業員を使用しない個人事業主や一人会社など」に着目して保護対象を定めています。そのため、従来の下請法では保護されにくかった小規模なフリーランス取引も対象になり得ます。

一方、労働基準法は「労働者」を保護する法律です。契約書の名称が業務委託契約であっても、実態として指揮命令を受け、勤務時間や場所を拘束され、労務提供の対価として賃金を受け取っている場合は、労働者に該当する可能性があります。その場合は、フリーランス法ではなく労働基準法などの労働関係法令が問題になります。

2. フリーランス法の対象者

フリーランス法を理解するうえで重要なのは、「誰が保護されるのか」と「誰が規制されるのか」です。法律上は、一般的な意味でのフリーランスという言葉ではなく、「特定受託事業者」「業務委託事業者」「特定業務委託事業者」という用語が使われます。

2-1. 保護される側:特定受託事業者とは

フリーランス法で保護される側は「特定受託事業者」です。これは、業務委託の相手方である事業者のうち、次のいずれかに該当するものを指します。

個人であって従業員を使用しないもの、または法人であって一人の代表者以外に他の役員がなく、かつ従業員を使用しないものです。

具体的には、個人事業主のWebデザイナー、ライター、エンジニア、カメラマン、動画編集者、コンサルタント、配送員、一人親方などが該当し得ます。また、法人化していても、代表者1人だけで運営しており、従業員を使用していない一人会社であれば対象になる可能性があります。

2-2. 規制される側:業務委託事業者・特定業務委託事業者とは

規制される側には、「業務委託事業者」と「特定業務委託事業者」があります。

業務委託事業者とは、特定受託事業者に業務委託をする事業者です。従業員を使用しているかどうかにかかわらず、フリーランスに業務を委託する事業者は該当し得ます。

特定業務委託事業者とは、フリーランスに業務委託をする事業者のうち、個人であって従業員を使用するもの、または法人であって2人以上の役員がいるか、従業員を使用するものをいいます。

簡単にいえば、フリーランスに仕事を発注する企業、多くの法人、従業員を雇っている個人事業主などは、特定業務委託事業者としてより広い義務を負う可能性があります。

2-3. 個人事業主・一人会社・副業フリーランスは対象になる?

個人事業主で従業員を使用していない場合は、フリーランス法の保護対象になり得ます。開業届を出しているかどうか、屋号があるかどうかだけで判断されるわけではありません。実態として、事業者として業務委託を受けているかが重要です。

一人会社も対象になる可能性があります。たとえば、代表取締役1人だけの法人で、他の役員や従業員がいない場合は、特定受託事業者に該当し得ます。

また、会社員が副業として別の事業者から業務委託を受けている場合も、その副業取引については特定受託事業者に該当する可能性があります。公正取引委員会のQ&Aでも、雇用されている労働者であっても、副業で業務委託を受ける範囲では特定受託事業者に該当し得るとされています。

2-4. 従業員を雇っているフリーランスは対象外?

フリーランス法では、「従業員を使用しないもの」が保護対象です。そのため、一定の従業員を雇っている個人事業主や法人は、原則として特定受託事業者には該当しません。

ここでいう「従業員を使用」とは、1週間の所定労働時間が20時間以上であり、かつ継続して31日以上雇用されることが見込まれる労働者を雇用することをいいます。短時間・短期間の一時的な雇用は、ここでいう「従業員を使用」に含まれない場合があります。

ただし、従業員の有無は取引時点で判断されます。発注者としては、取引開始時にフリーランス側の従業員使用状況を確認し、記録に残しておくことが望ましいでしょう。

2-5. フリーランス同士の取引にも適用されるケース

フリーランス同士の取引でも、フリーランス法が適用されるケースがあります。

たとえば、従業員を使用していない個人事業主Aが、同じく従業員を使用していない個人事業主Bへ業務を委託する場合、Aは「業務委託事業者」として取引条件の明示義務を負う可能性があります。ただし、Aが従業員を使用していない場合、特定業務委託事業者には該当しないため、報酬支払期日の設定義務や一部の禁止行為など、すべての義務が課されるわけではありません。

一方、フリーランスであっても従業員を使用している発注者が、従業員を使用しないフリーランスへ業務委託する場合は、特定業務委託事業者として広い義務を負う可能性があります。

2-6. フリーランス法の対象外となる取引

フリーランス法の対象となるのは、事業者がその事業のために、他の事業者へ物品の製造、情報成果物の作成、役務の提供を委託する取引です。

そのため、単なる商品の購入、既製品の購入、物やスペースの貸借、消費者としての個人的な依頼などは、対象外となることがあります。たとえば、企業が市販のソフトウェアを購入するだけなら原則として業務委託ではありませんが、自社向けに仕様変更を依頼する場合は業務委託に該当する可能性があります。

また、契約上は業務委託でも、実態として労働者に該当する場合は、フリーランス法ではなく労働基準法などの労働関係法令が問題になります。

3. フリーランス法で発注者に課される主な義務

フリーランス法では、発注者にさまざまな義務が課されています。特に重要なのは、取引条件の明示、報酬支払い、募集情報、育児・介護配慮、ハラスメント対策、契約解除時の予告です。

義務の内容は、発注者が「業務委託事業者」か「特定業務委託事業者」か、また業務委託期間がどれくらいかによって変わります。

3-1. 取引条件の明示義務

発注者がフリーランスに業務委託をする場合、直ちに取引条件を明示しなければなりません。明示は、書面またはメール、チャット、クラウド契約サービスなどの電磁的方法で行います。

明示すべき内容には、業務内容、報酬額、支払期日、納品日、納品場所、検査完了日などが含まれます。口頭だけの発注では、条件の認識違いや証拠不足が生じやすく、フリーランス法上も問題になります。

発注者にとっては、発注書や契約書のフォーマットを整備し、案件ごとに必要事項を漏れなく記載することが重要です。

3-2. 報酬支払期日の設定・期日内支払い義務

特定業務委託事業者は、フリーランスから給付を受領した日、または役務の提供を受けた日から起算して60日以内のできる限り短い期間内に報酬支払期日を定め、その期日までに報酬を支払う必要があります。

「月末締め翌々月末払い」などの支払サイトを採用している場合、実際の受領日から60日を超えるケースがないか確認が必要です。支払期日を定めていない場合や、支払期日を過ぎて支払う場合は、違反リスクが高まります。

なお、銀行振込手数料をフリーランスに負担させ、報酬額から差し引くことは、報酬の減額として問題となる可能性があります。

3-3. 募集情報の的確表示義務

発注者が広告、求人媒体、SNS、クラウドソーシングサイトなどでフリーランスを募集する場合、募集情報を正確かつ最新の内容に保つ必要があります。

たとえば、実際より高い報酬を表示する、業務内容を曖昧にする、稼働時間や納期を実態より軽く見せる、契約形態を誤認させるといった表示は避けなければなりません。

募集情報は、フリーランスが案件を受けるかどうかを判断する重要な材料です。発注者は、報酬、業務内容、契約期間、稼働条件、必要スキル、選考方法などをできるだけ具体的に記載することが望まれます。

3-4. 育児・介護等への配慮義務

6か月以上の継続的な業務委託については、フリーランスから申出があった場合、発注者は育児・介護等と業務を両立できるよう必要な配慮をしなければなりません。

たとえば、子どもの急病により納期を短期間延ばしたい、介護のため特定曜日はオンライン対応にしたい、妊娠中の体調不良に備えて連絡方法や納期調整を事前に決めたい、といった申出が考えられます。厚生労働省の資料でも、申出内容の把握、選択肢の検討、配慮内容または不実施理由の伝達が重要とされています。

ただし、どのような申出にも必ず応じなければならないという意味ではありません。業務内容や納期、代替手段、発注者側の事情を踏まえ、合理的な範囲で検討することが求められます。

3-5. ハラスメント対策に係る体制整備義務

発注者は、フリーランスに対するハラスメント行為に関して、相談対応など必要な体制を整備しなければなりません。

対象となるのは、セクシュアルハラスメント、パワーハラスメント、妊娠・出産・育児・介護等に関するハラスメントなどです。フリーランスは雇用労働者ではありませんが、業務上の関係において発注者や担当者から不適切な言動を受ける可能性があります。

実務上は、相談窓口を設ける、担当者に周知する、相談者に不利益な取扱いをしない、事実確認と再発防止を行うといった対応が必要です。

3-6. 中途解除・契約不更新時の事前予告義務

6か月以上の継続的な業務委託について、発注者が中途解除したり、契約を更新しないこととしたりする場合は、原則として30日前までに予告しなければなりません。

また、フリーランスから解除や不更新の理由を求められた場合は、原則として理由を開示する必要があります。

突然の契約終了は、フリーランスの収入や事業計画に大きな影響を与えます。発注者は、契約解除や更新停止の判断をする際、事前予告の要否、例外事由の有無、理由開示の方法を確認する必要があります。

4. フリーランス法で禁止される行為

フリーランス法では、一定期間以上の業務委託について、発注者による不公正な行為が禁止されています。代表的な禁止行為は、受領拒否、報酬の減額、返品、買いたたき、購入・利用強制、不当な経済上の利益提供要請、不当な給付内容の変更・やり直しです。

これらは、フリーランスに責任がないにもかかわらず、発注者の都合で不利益を押し付ける行為を防ぐためのルールです。

4-1. 報酬の支払い遅延

報酬の支払い遅延とは、定められた支払期日までに報酬を支払わないことです。フリーランス法では、支払期日を適切に設定し、期日内に支払うことが求められます。

たとえば、「社内処理が遅れている」「担当者が確認していない」「クライアントから入金がない」といった発注者側の事情だけで支払いを遅らせることは、違反リスクがあります。

フリーランスにとって報酬は生活費や事業資金に直結します。発注者は、検収や請求処理のフローを整え、支払漏れや支払遅延を防ぐ必要があります。

4-2. 報酬の減額

報酬の減額とは、フリーランスに責任がないにもかかわらず、発注時に定めた報酬額を後から減らすことです。

たとえば、「予算が足りなくなった」「クライアントから値下げされた」「思ったより成果が出なかった」といった理由で、合意した報酬を一方的に下げることは問題になります。

修正や品質に関する問題がある場合でも、契約内容、検査基準、フリーランス側の責任の有無を慎重に確認しなければなりません。

4-3. 成果物の受領拒否

受領拒否とは、フリーランスが契約どおりに納品したにもかかわらず、発注者が成果物の受け取りを拒むことです。

たとえば、発注者の企画変更、予算削減、社内方針の変更など、フリーランスに責任のない理由で納品物を受け取らない場合は問題になります。

成果物の品質に問題があると主張する場合でも、事前に明示した仕様や検査基準に照らして判断する必要があります。「イメージと違う」という曖昧な理由だけで受領を拒否するのは危険です。

4-4. 返品

返品とは、発注者がいったん受領した物品や成果物を、フリーランスに責任がないにもかかわらず引き取らせることです。

たとえば、発注者側の販売不振や在庫過多を理由に、納品済みの制作物や物品を返す行為は問題になり得ます。

デジタル成果物の場合でも、納品後に「不要になった」「使わなくなった」として報酬を支払わない、または返金を求めるような運用は避けるべきです。

4-5. 買いたたき

買いたたきとは、通常支払われる対価に比べて著しく低い報酬を不当に定めることです。

たとえば、相場や作業量、専門性、納期の厳しさを無視して、発注者の優越的な立場を利用し、極端に低い報酬を押し付ける場合が該当し得ます。

報酬を決める際は、業務内容、成果物の範囲、修正回数、稼働時間、専門性、著作権の扱いなどを踏まえ、フリーランスと十分に協議することが重要です。

4-6. 購入・利用の強制

購入・利用の強制とは、正当な理由がないのに、発注者が指定する商品やサービスをフリーランスに購入・利用させることです。

たとえば、業務に不要な教材、ツール、会員サービス、セミナーなどを購入しなければ発注しないと伝える行為は問題になり得ます。

業務遂行上どうしても必要なツールを指定する場合でも、必要性、費用負担、代替手段を明確にしておく必要があります。

4-7. 不当な経済上の利益提供要請

不当な経済上の利益提供要請とは、発注者が自己のために、フリーランスへ金銭、役務、その他の経済上の利益を提供させ、フリーランスの利益を不当に害することです。

たとえば、契約外の作業を無償で求める、発注者のイベントを無償で手伝わせる、宣伝協力を強制する、追加費用を払わずに大幅な作業を求めるといったケースが考えられます。

「今後も発注するから」「業界では普通だから」という理由で無償対応を求めることは、トラブルの原因になります。

4-8. 不当な給付内容の変更・やり直し

不当な給付内容の変更・やり直しとは、フリーランスに責任がないにもかかわらず、費用を負担せずに業務内容を変更させたり、納品後にやり直しをさせたりすることです。

たとえば、発注後に仕様を大きく変更したのに追加報酬を支払わない、当初の範囲を超える修正を何度も求める、検収後に発注者の都合で作り直しを求めるといった場合です。

契約書や発注書では、修正回数、追加作業の単価、仕様変更時の手続き、検収基準を明確にしておくことが重要です。

5. 契約書・発注書に記載すべき取引条件

フリーランス法への対応で最も重要な実務の一つが、契約書・発注書・注文書の整備です。取引条件が曖昧なままだと、発注者は法令違反のリスクを負い、フリーランスは報酬や業務範囲を証明しにくくなります。

5-1. 業務内容

業務内容は、できるだけ具体的に記載します。

たとえば「記事作成」だけではなく、「SEO記事1本、本文5,000字程度、構成案作成、見出し作成、画像選定なし、WordPress入稿なし」のように、成果物の内容と範囲を明確にすることが望まれます。

業務内容が曖昧だと、後から「これも含まれるはず」と追加作業を求めるトラブルにつながります。

5-2. 報酬額・算定方法

報酬額は、総額、単価、税抜・税込の別、源泉徴収の有無、消費税の扱いなどを明確にします。

時間単価制、成果物単価制、月額固定制、成功報酬制など、算定方法が複数ある場合は、どの条件で金額が確定するのかを記載します。

追加作業や仕様変更が発生した場合の単価も、あらかじめ定めておくと安心です。

5-3. 支払期日

支払期日は、「納品月の翌月末日」「検収完了日から30日以内」など、具体的に定めます。

ただし、特定業務委託事業者の場合、給付を受領した日または役務提供を受けた日から60日以内のできる限り短い期間内で設定する必要があります。

「支払時期は別途協議」「入金があり次第」など、支払期日が不明確な記載は避けるべきです。

5-4. 納品日・作業日

納品日や作業日は、成果物の引渡し日、役務提供日、作業期間などを明確にします。

継続案件の場合は、「毎月末日までに納品」「毎週月曜日に作業」「契約期間は2026年4月1日から2026年9月30日まで」など、期間や頻度も記載します。

納品日が明確でないと、支払期日の起算点や契約不履行の判断が曖昧になります。

5-5. 納品場所・役務提供場所

納品場所や役務提供場所も明示が必要です。

デジタル納品であれば、メール、クラウドストレージ、チャットツール、CMSなど、どの方法で納品するのかを記載します。役務提供の場合は、オンライン、発注者の事務所、イベント会場、指定店舗など、提供場所を明確にします。

5-6. 検査がある場合の検査完了日

成果物の検査や検収を行う場合は、検査完了日を定めます。

たとえば、「納品日から7営業日以内に検査を完了する」「検査結果はメールで通知する」といった形です。

検収期間が不明確だと、発注者が検収を先延ばしにし、支払いが遅れる原因になります。検査基準や修正依頼の方法もあわせて定めておくとよいでしょう。

5-7. 現金以外で支払う場合の支払方法

報酬はできる限り金銭で支払う必要があります。金銭以外の方法で支払う場合は、フリーランスが容易に現金化できるなど、利益を害さない方法でなければなりません。

手形、電子記録債権、資金移動業者の口座への送金などを利用する場合は、支払方法や期日、金額などを明示する必要があります。

実務上は、銀行振込が最も一般的でトラブルが少ない方法です。

5-8. メール・チャット・クラウド契約で明示する際の注意点

取引条件の明示は、紙の契約書だけでなく、メール、チャット、クラウド契約サービスなどの電磁的方法でも可能です。

ただし、後から確認できる形で保存できることが重要です。一定期間で消えるチャット、口頭だけの打ち合わせ、個人アカウントのみでのやり取りは、証拠として不十分になるおそれがあります。

発注者は、発注内容をテンプレート化し、案件ごとに必要事項を記載して送信・保存する運用を整えましょう。フリーランス側も、発注条件が書かれたメール、チャット、契約書、請求書、納品記録を保存しておくことが大切です。

6. フリーランス法に違反した場合のリスク

フリーランス法に違反すると、行政対応、罰則、民事トラブル、企業イメージの悪化など、さまざまなリスクが発生します。単なる契約トラブルでは済まない可能性があるため、発注者は早めに対応体制を整える必要があります。

6-1. 行政による指導・助言

違反が疑われる場合、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省などの行政機関から指導・助言を受ける可能性があります。

指導・助言は、違反状態の是正や再発防止を求めるものです。この段階で適切に対応すれば、重大な処分に進むリスクを抑えられる場合があります。

しかし、指導を受けること自体が、社内管理や取引実務に問題があるサインです。契約書、発注フロー、支払フロー、担当者教育を見直す必要があります。

6-2. 勧告・命令・公表のリスク

違反の内容によっては、勧告、命令、公表の対象となる可能性があります。

公表されると、企業名や違反内容が社会に知られることになり、取引先、フリーランス、求職者、顧客からの信頼低下につながります。

実際に、公正取引委員会は2025年6月17日、出版社に対し、フリーランスへの取引条件の明示不備や支払期日までの報酬未払いに関して勧告を行っています。

6-3. 罰則や過料の可能性

フリーランス法では、行政機関による命令に違反した場合や検査を拒否した場合などに、50万円以下の罰金が科される可能性があります。法人についても両罰規定の対象となり得ます。

すべての違反が直ちに罰金につながるわけではありませんが、行政対応を軽視すると、より重大なリスクに発展するおそれがあります。

6-4. 損害賠償・契約トラブルに発展するリスク

フリーランス法違反がある場合、行政上の問題だけでなく、民事上の損害賠償請求や報酬請求に発展する可能性があります。

たとえば、一方的な報酬減額、支払い遅延、契約外の無償作業、突然の契約解除などがあれば、フリーランスから未払い報酬や損害の支払いを求められることがあります。

契約条件が曖昧な場合、双方の主張が食い違い、解決までに時間とコストがかかります。

6-5. 企業イメージ・採用活動への影響

フリーランスとのトラブルは、SNSや口コミで広がる可能性があります。特に、クリエイター、エンジニア、ライター、講師など専門人材との取引では、業界内で評判が共有されやすい傾向があります。

「報酬を払わない会社」「契約条件が曖昧な会社」「ハラスメント相談に対応しない会社」という印象が広がると、優秀な外部人材に依頼しにくくなるだけでなく、採用活動や顧客獲得にも悪影響を及ぼします。

フリーランス法対応は、法令遵守だけでなく、企業の信頼性を高めるための取り組みでもあります。

7. 発注者が今すぐ行うべき対応

フリーランス法に対応するには、契約書を作るだけでは不十分です。取引の棚卸し、支払サイトの見直し、社内ルールの整備、相談体制の構築など、実務全体を点検する必要があります。

7-1. フリーランスとの取引を棚卸しする

まず、自社がどのようなフリーランスに業務を委託しているかを把握しましょう。

ライター、デザイナー、エンジニア、動画制作者、カメラマン、講師、コンサルタント、配送員、個人営業代行、外部編集者など、部署ごとにバラバラに発注しているケースもあります。

取引先が個人か法人か、従業員を使用しているか、契約期間はどれくらいか、発注頻度はどの程度かを確認し、フリーランス法の対象になる取引を洗い出します。

7-2. 契約書・発注書・利用規約を見直す

次に、契約書、発注書、注文書、業務委託基本契約書、クラウドサービスの利用規約などを見直します。

業務内容、報酬額、支払期日、納品日、納品場所、検査完了日、支払方法など、明示すべき事項が入っているか確認しましょう。

特に、ひな形契約書を長年使っている場合、フリーランス法に対応できていない可能性があります。個別発注時に条件を明示できる運用も必要です。

7-3. 支払サイトを60日以内に整備する

支払サイトが長い企業は、フリーランス法に合わせて支払条件を見直す必要があります。

「月末締め翌々月末払い」などは、納品日や役務提供日によっては60日を超える可能性があります。経理部門と連携し、フリーランス取引については受領日から60日以内に確実に支払えるよう、請求・検収・支払フローを整備しましょう。

7-4. ハラスメント相談体制を整備する

フリーランスも相談できるハラスメント窓口を設け、社内外に周知します。

既存の従業員向け相談窓口がある場合でも、フリーランスが対象に含まれているか、相談方法が明確か、担当者が対応できるかを確認しましょう。

相談があった場合の事実確認、関係者へのヒアリング、再発防止、不利益取扱いの禁止についても、社内ルールを整備しておく必要があります。

7-5. 募集要項・求人情報の表記を確認する

フリーランス募集ページ、求人媒体、SNS投稿、クラウドソーシングの案件情報などを確認し、虚偽表示や誤解を招く表現がないか点検します。

報酬例、想定稼働時間、契約期間、業務内容、必要スキル、リモート可否などが実態と合っているかを確認しましょう。

「高単価」「短時間で稼げる」「簡単作業」などの表現を使う場合は、実態に即しているか慎重に判断する必要があります。

7-6. 契約解除・更新停止時の運用ルールを作る

6か月以上の継続的な業務委託を解除・不更新にする場合は、原則として30日前予告が必要です。

現場担当者が独断で「来月から依頼しません」と伝えてしまうと、法令違反につながる可能性があります。解除・不更新を行う場合は、事前に法務、総務、人事、管理部門などへ確認するルールを作りましょう。

予告の方法、理由開示の対応、例外事由の確認、記録の保存も重要です。

7-7. 社内担当者向けのチェックリストを用意する

フリーランス法対応は、法務部門だけでなく、実際に発注する現場担当者の理解が欠かせません。

チェックリストには、次のような項目を入れると実務で使いやすくなります。

発注前に取引条件を明示したか、報酬額と支払期日は明確か、支払期日は60日以内か、追加作業の扱いを決めているか、募集情報に誤りはないか、6か月以上の継続案件か、解除・不更新時に30日前予告が必要か、ハラスメント相談窓口を案内できるか、といった内容です。

8. フリーランス側が知っておくべき権利と対処法

フリーランス法は、発注者だけでなく、フリーランス自身にとっても重要な法律です。自分がどのような保護を受けられるのかを知っておくことで、トラブルを防ぎ、問題が起きたときに適切に対応できます。

8-1. 契約条件を事前に書面・データで確認する

仕事を受ける前に、業務内容、報酬額、支払期日、納期、納品方法、修正回数、著作権の扱いなどを確認しましょう。

口頭だけで仕事を始めると、後から条件を証明しにくくなります。契約書がない場合でも、メールやチャットで条件を確認し、相手から返信をもらっておくことが大切です。

「念のため、今回の条件を確認させてください」と送るだけでも、トラブル防止につながります。

8-2. 報酬未払い・減額があった場合の対応

報酬が支払われない、または一方的に減額された場合は、まず契約書、発注書、メール、請求書、納品記録を確認します。

そのうえで、支払期日、未払い金額、納品日、やり取りの履歴を整理し、発注者に書面やメールで支払いを求めましょう。

感情的なやり取りを避け、事実関係を明確に残すことが重要です。改善されない場合は、公的な相談窓口や専門家への相談を検討します。

8-3. 一方的な契約解除を受けた場合の確認ポイント

継続的な案件で突然契約を解除された場合は、契約期間、継続期間、解除理由、予告日、解除日を確認しましょう。

6か月以上の継続的な業務委託であれば、原則として30日前予告が必要になる可能性があります。理由を求めることができるケースもあります。

発注者から電話で伝えられた場合でも、後でメールなどで「本日お電話でご連絡いただいた契約終了の件について、解除日と理由を確認させてください」と記録を残すことが大切です。

8-4. ハラスメントを受けた場合の相談先

発注者や担当者からハラスメントを受けた場合は、まず日時、場所、相手、発言内容、行為の内容、証拠の有無を記録します。

発注者に相談窓口がある場合は、そこへ相談する方法があります。相談しにくい場合や改善されない場合は、外部の相談窓口を利用しましょう。

フリーランス・トラブル110番では、フリーランスが発注事業者から受けた仕事上のトラブルについて相談でき、フリーランス法違反が考えられる場合の申出に関するアドバイスも受け付けています。

8-5. トラブル防止のために保存しておくべき証拠

フリーランスがトラブルに備えるには、証拠の保存が重要です。

保存しておきたいものは、契約書、発注書、見積書、請求書、納品データ、検収連絡、メール、チャット履歴、オンライン会議の議事メモ、修正依頼、支払明細、募集要項、業務範囲に関するやり取りなどです。

特にチャットツールは、退会や削除で履歴が見られなくなることがあります。重要なやり取りはPDF化、スクリーンショット、エクスポートなどで保存しておきましょう。

8-6. 公的な相談窓口・申出先

フリーランス法違反が疑われる場合、オンライン申出フォームを通じて、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省に申出を行うことができます。申出内容は、フリーランス法を所管する行政機関に届きます。

ただし、行政機関の申出制度は、違反事実の調査や是正措置を目的とするものであり、当事者間の和解や個別の報酬回収を直接代行するものではありません。未払い報酬の回収や損害賠償を求める場合は、弁護士など専門家への相談も検討しましょう。

9. フリーランス法に関するよくある質問

フリーランス法は比較的新しい法律であり、実務では「このケースは対象になるのか」「契約書がないと違反なのか」といった疑問が多くあります。ここでは、よくある質問を整理します。

9-1. フリーランス法はいつから適用される?

フリーランス法は、2024年11月1日から施行されています。施行日以降に行われる業務委託については、法律に基づく義務や禁止行為を確認する必要があります。

既存の取引であっても、施行後に新たな発注、契約更新、個別委託が行われる場合は、フリーランス法への対応が必要になる可能性があります。

9-2. 口頭発注でもフリーランス法の対象になる?

対象になります。口頭で発注したからといって、フリーランス法の適用を免れるわけではありません。

むしろ、フリーランス法では取引条件を直ちに書面または電磁的方法で明示することが求められます。口頭だけで発注した場合は、明示義務違反となるリスクがあります。

発注者は、電話や打ち合わせで合意した内容であっても、必ずメールや発注書などで条件を明示しましょう。

9-3. 業務委託契約書がない場合は違反になる?

契約書という名称の書面が必ず必要というわけではありません。重要なのは、法律で求められる取引条件が、書面または電磁的方法で明示されているかです。

そのため、契約書がなくても、発注書、注文書、メール、チャット、クラウド契約サービスなどで必要事項が明示されていれば、対応できる場合があります。

ただし、トラブル防止の観点では、継続取引や高額案件では業務委託契約書を作成することが望ましいです。

9-4. 個人から個人への依頼も対象になる?

個人から個人への依頼でも、発注者が事業者としてその事業のために業務を委託する場合は、対象になる可能性があります。

たとえば、個人事業主が自分の事業サイト制作を別のフリーランスに依頼する場合は、事業のための業務委託といえる可能性があります。

一方、個人が消費者として自宅用のイラストや私的な写真撮影を依頼する場合などは、対象外となることがあります。判断のポイントは、発注者が事業者として契約しているかどうかです。

9-5. クラウドソーシング経由の仕事も対象になる?

クラウドソーシング経由の仕事も、実態として事業者がフリーランスに業務委託をしている場合は、フリーランス法の対象になり得ます。

この場合、誰が発注者に該当するのかが重要です。マッチングサービス提供事業者が単に発注者と受注者を仲介しているだけであれば、基本的には実際の発注者が業務委託事業者になります。一方、サービス提供事業者が実質的に業務委託をしているといえる場合は、その事業者が業務委託事業者となる可能性があります。

9-6. 既存契約にもフリーランス法は適用される?

施行日前に締結した契約であっても、施行後に新たな個別発注や契約更新が行われる場合は、フリーランス法への対応が必要になる可能性があります。

継続的な基本契約を結んでいる場合でも、個別発注ごとに業務内容、報酬額、支払期日などを明示する必要があるか確認しましょう。

発注者は、既存契約をそのままにせず、施行後の取引条件明示や支払期日、解除予告などのルールに対応できているか見直すことが重要です。

9-7. フリーランス法とインボイス制度は関係ある?

フリーランス法とインボイス制度は別の制度です。

フリーランス法は、取引条件の明示、報酬支払い、禁止行為、就業環境整備などを定める法律です。一方、インボイス制度は、消費税の仕入税額控除に関する制度です。

ただし、実務上は関係する場面があります。たとえば、フリーランスがインボイス登録事業者ではないことを理由に、発注者が一方的に報酬を減額する場合、フリーランス法上の報酬減額や買いたたきの問題になる可能性があります。

インボイス対応を理由に取引条件を変更する場合は、一方的に押し付けるのではなく、十分に協議し、合意内容を書面やメールで残すことが重要です。

まとめ

フリーランス法は、フリーランスと発注者の間で起こりやすい取引トラブルを防ぎ、安心して働ける環境を整えるための法律です。

発注者には、取引条件の明示、報酬支払期日の設定と期日内支払い、募集情報の的確表示、育児・介護等への配慮、ハラスメント対策、契約解除時の事前予告などが求められます。また、報酬の減額、受領拒否、返品、買いたたき、購入・利用強制、不当な経済上の利益提供要請、不当なやり直しなどは禁止されています。

発注者が今すぐ行うべきことは、フリーランス取引の棚卸し、契約書・発注書の見直し、支払サイトの整備、ハラスメント相談体制の構築、募集情報の確認、解除・不更新ルールの整備です。

一方、フリーランス側も、契約条件を事前に書面やデータで確認し、やり取りや納品記録を保存しておくことが重要です。報酬未払い、減額、一方的な契約解除、ハラスメントなどがあった場合は、証拠を整理し、公的な相談窓口や専門家に相談しましょう。

フリーランス法への対応は、単なる法令遵守ではありません。発注者とフリーランスが対等で健全な関係を築き、継続的に良い仕事を生み出すための基本ルールです。