フリーランス新法の60日ルールとは?報酬支払い期限・起算日・違反リスクをわかりやすく解説

はじめに

フリーランス新法、正式名称「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」は、2024年11月1日に施行されました。発注時の取引条件の明示、報酬支払期日の設定、ハラスメント対策などを発注事業者に義務付け、フリーランスが安定して働ける取引環境を整えることを目的としています。厚生労働省

なかでも実務上の注意が必要なのが、報酬を原則として給付の受領日から60日以内に支払う「60日ルール」です。

重要なのは、請求書の受領日や検収完了日ではなく、原則として成果物などを受領した日が起算日になることです。契約書に「翌々月末払い」と記載していても、受領日との関係で60日を超えれば、フリーランス新法違反になる可能性があります。

本記事では、フリーランス新法の60日ルールについて、支払期限、起算日、計算例、再委託の例外、違反リスクまでわかりやすく解説します。

1. フリーランス新法の60日ルールとは

1-1. 60日ルールの結論:報酬は受領日から60日以内のできる限り短い期間で支払う

フリーランス新法の60日ルールとは、発注事業者がフリーランスから給付を受領した日を起算日として、60日以内のできる限り短い期間内に支払期日を定め、その期日までに報酬を支払わなければならないというルールです。

受領した日も1日目として数えます。例えば4月1日に成果物を受領した場合、原則的な上限となる60日目は5月30日です。公正取引委員会+1

「60日以内」とは、単に入金処理を開始すればよいという意味ではありません。支払期日までに、フリーランスが報酬を受け取れる状態にする必要があります。

1-2. フリーランス新法で60日ルールが設けられた背景

フリーランスは、取引条件や支払いについて発注事業者より交渉力が弱い立場になりやすく、長期間の支払いサイトを一方的に設定されることがあります。

そこで、発注事業者が報酬の支払期日を不当に遅く設定することを防ぎ、フリーランスの資金繰りと利益を保護するために60日ルールが設けられました。公正取引委員会

1-3. 「60日以内ならいつでもよい」わけではない理由

フリーランス新法は、支払期日を「60日以内」だけでなく、「できる限り短い期間内」に定めるよう求めています。

そのため、これまで納品直後に支払っていた発注者が、「法律では60日以内だから」という理由だけで支払日を60日後に変更することは認められません。継続取引において、法施行を理由に従来より遅い支払期日を設定すると、第4条違反として問題になる可能性があります。公正取引委員会

60日は標準的な支払いサイトではなく、あくまで原則的な上限です。

1-4. 60日ルールの対象になる取引・ならない取引

60日ルールの保護対象となるフリーランスは、法律上の「特定受託事業者」です。具体的には、次のいずれかに該当する事業者を指します。

  • 従業員を使用していない個人事業者

  • 代表者以外に役員がおらず、従業員も使用していない法人

いわゆる一人社長の法人も対象になる可能性があります。

60日ルールの義務を負う「特定業務委託事業者」は、従業員を使用する個人事業者、または複数の役員がいるか従業員を使用する法人です。公正取引委員会

対象となる業務委託には、物品の製造・加工、デザインや原稿、プログラムなどの情報成果物の作成、撮影、出演、コンサルティング、運送などの役務提供が含まれます。

一方、消費者個人からの依頼、雇用契約、受注者が法律上の従業員を使用している取引などは、原則としてフリーランス新法の60日ルールの対象外です。また、発注者が従業員を使用しない一人事業者である場合、取引条件の明示義務は生じる可能性がありますが、第4条の60日ルールは原則として適用されません。

2. フリーランス新法における報酬支払い期限の考え方

2-1. 報酬支払期日はいつまでに設定すべきか

報酬の支払期日は、給付を受領した日から60日以内のできる限り短い期間内に設定します。また、支払日を具体的に特定できる内容にしなければなりません。

例えば、次のような定め方が考えられます。

  • 2026年5月31日支払い

  • 毎月末日締め、翌月末日支払い

  • 毎月15日締め、翌月15日支払い

一方、「納品後60日以内」「翌月末まで」のように、具体的な支払日を一義的に特定できない記載は、適切な支払期日の設定と認められない可能性があります。公正取引委員会+1

2-2. 支払期日を定めなかった場合の扱い

支払期日を定めなかった場合は、給付を実際に受領した日が支払期日とみなされます。

例えば、4月1日に成果物を受領したにもかかわらず、契約書や発注書で支払期日を定めていなかった場合、法律上は4月1日が支払期日になります。その日を過ぎて支払えば、支払遅延として問題になる可能性があります。公正取引委員会

「期日を決めていなければ60日後まで支払わなくてもよい」という意味ではないため注意が必要です。

2-3. 60日を超える支払期日を定めた場合の扱い

受領日から60日を超える支払期日を契約書に記載しても、その期日がそのまま有効な支払期限になるわけではありません。

60日を超える期日を定めた場合は、受領日を1日目として数えた60日目が、法律上の支払期日とみなされます。例えば4月1日受領で6月30日払いと定めても、原則として5月30日までに支払う必要があります。公正取引委員会+1

契約書に合意済みの支払いサイトが書かれていても、法律の上限を超える部分によって発注者の義務が免除されるわけではありません。

2-4. 月末締め・翌月末払いは問題ないか

「月末締め・翌月末払い」は、原則として認められる支払いサイトです。

月単位の締切制度では、31日まである月の影響で、形式上は受領日から61日目や62日目の支払いになる場合があります。この点について、公正取引委員会は「60日以内」を「2か月以内」として運用し、月末締め・翌月末払いを問題としない扱いを示しています。公正取引委員会+1

ただし、この扱いは月単位の締切制度を前提としたものです。個別の支払期日を自由に61日後や62日後に設定してよいという意味ではありません。

2-5. 月末締め・翌々月末払いが違反になりやすい理由

「月末締め・翌々月末払い」は、月初に受領した案件の支払いが約3か月後になるため、60日または2か月の範囲を超えやすくなります。

例えば4月1日に成果物を受領し、4月末締め・6月末払いとすると、支払日は6月30日です。月単位で考えても受領からほぼ3か月後となるため、60日ルールに違反します。

月末近くに受領した案件だけを見れば2か月以内に収まる場合がありますが、月初に受領した案件について違反が生じるため、支払い制度全体を見直す必要があります。

3. 60日ルールの起算日はいつか

3-1. 原則は「給付を受領した日」が起算日

60日ルールの起算日は、原則として発注事業者がフリーランスの給付を受領した日です。受領日を1日目として数えます。

請求書の発行日や受領日、社内の経理処理日、検収完了日を自由に起算日とすることはできません。公正取引委員会+1

3-2. 成果物納品型の起算日

物品の製造・加工委託では、発注事業者が物品を受け取り、自己の占有下に置いた日が起算日です。検査を行うかどうかは原則として関係ありません。

原稿、デザイン、写真、動画、プログラムなどの情報成果物では、次の時点が受領日になります。

  • USBメモリや記録媒体を受け取った日

  • 電子メールやファイル共有サービスなどを通じて、発注者のパソコンやサーバーに記録された時点

発注担当者がファイルを開いた日ではなく、発注者側の管理下に置かれた時点が基準になります。公正取引委員会+1

3-3. 役務提供型の起算日

撮影、出演、講演、コンサルティング、運送などの役務提供では、個々の役務の提供を受けた日が起算日です。

一連の役務提供に複数日を要する場合は、その一連の役務が終了した日が起算日になります。例えば、4月20日から5月10日までを一体の業務として委託した場合は、原則として5月10日が起算日です。公正取引委員会+1

同種の役務が継続して提供され、月単位の精算、報酬の算定方法などをあらかじめ明確に合意している場合は、締切対象期間の末日を役務提供日として扱える例外があります。

3-4. 複数回納品・分割納品がある場合の起算日

複数回に分けて独立した成果物を納品する場合は、原則として各成果物の受領日がそれぞれの起算日になります。

例えば、4月1日、4月15日、5月1日にそれぞれ独立した記事を納品した場合、すべてを最後の納品日からまとめて計算するのではなく、各納品日から60日以内に対応する報酬を支払う必要があります。

公演や出演などの役務を複数回まとめて委託した場合も、各公演日から60日を超える支払期日を設定すると問題になります。公正取引委員会

ただし、途中提出物が単なる進捗確認用で、契約上の給付として受領するものではない場合は、正式な納品とは扱われないことがあります。契約書や発注書で、何を納品物とするかを明確にしておくことが重要です。

3-5. 検収・検査がある場合でも起算日は変わるのか

原則として、検収や検査を行っても起算日は変わりません。発注者が成果物を受領した日が起算日であり、「検収合格日の翌月末払い」といった運用によって支払いを遅らせることはできません。

公正取引委員会も、受入検査に合格した日を基準に支払期日を設定していた事例を、是正指導の対象として公表しています。公正取引委員会

ただし、情報成果物の作成過程で、確認や作業指示のために未完成のデータを一時的に発注者の管理下に置く場合があります。この場合、一定水準を満たした時点を受領日とすることを事前に合意していれば、直ちに受領したものと扱われないことがあります。

もっとも、発注時に明示された納期までに成果物が発注者の管理下にある場合は、確認が終わっていなくても、その納期が起算日になります。公正取引委員会

3-6. やり直し・修正依頼がある場合の起算日の考え方

成果物が発注内容と異なるなど、フリーランス側に責任のある不備があり、報酬の支払い前に適法なやり直しを求める場合は、修正後の成果物を受領した日が新たな起算日になります。公正取引委員会

一方、発注者の都合による仕様変更や、当初の依頼内容を超える追加修正についてまで起算日をリセットすることはできません。フリーランス側に責任がないのに無償でやり直しをさせる行為は、契約期間などの要件によっては「不当なやり直し」として別の禁止規定にも抵触する可能性があります。

4. 60日ルールの計算例

4-1. 4月1日に納品した場合の支払期限

4月1日に成果物を受領した場合、受領日である4月1日を1日目として計算します。

  • 4月1日:1日目

  • 4月30日:30日目

  • 5月30日:60日目

したがって、個別に支払期日を設定する場合の原則的な上限は5月30日です。

ただし、月末締め・翌月末払いという月単位の制度を採用している場合は、5月31日払いでも、2か月以内として運用上問題とされません。公正取引委員会

4-2. 月末締め翌月末払いの計算例

4月中に受領した成果物を4月末で締め、5月31日に支払うケースです。

4月1日に受領したものは、日数で厳密に数えると5月31日が61日目になりますが、月単位の締切制度では受領後2か月以内として扱われるため、原則として問題ありません。

ただし、契約書や発注書には「毎月末日締め、翌月末日支払い」のように、支払期日を特定できる形で記載する必要があります。

4-3. 月末締め翌々月末払いの計算例

4月1日に受領した成果物を4月末で締め、6月30日に支払うケースです。

この場合、受領から支払いまでが2か月を超えるため、60日ルールに違反します。契約上は6月30日払いとなっていても、原則として5月30日までに支払わなければなりません。

「翌々月末払い」は、月内の受領日によって適法・違法が変わる不安定な制度です。月初の受領分について確実に期限を超えるため、原則として「翌月末払い」以内に変更することが安全です。

4-4. 役務提供が月をまたぐ場合の計算例

4月20日から5月10日まで、一体となった撮影業務を委託したとします。

一連の役務提供が終了した5月10日が起算日です。5月10日を1日目とすると、60日目は7月8日になります。

したがって、個別に設定する支払期日の原則的な上限は7月8日です。

一方、4月20日の撮影と5月10日の撮影がそれぞれ独立した業務であれば、4月20日分は4月20日、5月10日分は5月10日がそれぞれ起算日になります。

4-5. 60日ルール違反になりやすい支払いサイトの例

次のような支払い条件や社内運用は、60日ルール違反につながりやすいため注意が必要です。

  • 月末締め・翌々月末払い

  • 納品後90日払い

  • 請求書を受領した月の翌月末払い

  • 検収に合格した月の翌月末払い

  • 社内承認が完了した月の翌月末払い

  • 元請から入金された後に支払う

  • 請求書が未提出であることを理由に支払わない

公正取引委員会は、請求書の提出日や受入検査の合格日を基準にした支払期日の設定、社内事務処理の遅れを理由とする支払遅延を、実際に是正指導の対象としています。公正取引委員会

5. 再委託の場合に注意すべき例外ルール

5-1. 再委託では元委託支払期日から30日以内が基準になる

発注事業者が他社から受託した業務の全部または一部をフリーランスに再委託する場合、一定の要件を満たせば、通常の60日ルールに代えて、元委託支払期日から30日以内のできる限り短い期間に支払期日を設定できます。公正取引委員会

例えば、元請会社から発注事業者への支払期日が6月30日であれば、再委託先のフリーランスに対する支払期日は、原則として6月30日を起算日とする30日以内に設定します。

この例外は自動的に適用されるものではありません。必要事項を明示せずに再委託した場合は、通常どおりフリーランスから給付を受領した日を基準とする60日ルールが適用されます。

5-2. 元委託支払期日をフリーランスに明示する必要がある

再委託の例外を利用する場合、通常の取引条件に加えて、次の3点をフリーランスに明示しなければなりません。

  • 再委託であること

  • 元委託者の名称など

  • 元委託業務の対価の支払期日

これらは、契約書、発注書、電子メールなど、書面または電磁的方法で明示します。公正取引委員会+1

5-3. 再委託でも無制限に支払いを遅らせられない理由

再委託の例外は、発注事業者の資金繰りに配慮する制度ですが、支払いを無制限に先延ばしできる制度ではありません。

支払期日は元委託支払期日から30日以内のできる限り短い期間に設定する必要があります。期日を定めなければ元委託支払期日が支払期日となり、30日を超える期日を定めた場合は、法律上の上限日に修正されます。公正取引委員会

また、元委託者から前払金を受け取っている場合は、フリーランスが業務に着手するために必要な費用について、前払金を適切に分配するなどの配慮も求められます。

5-4. 元請から入金されない場合でも発注者が注意すべき点

再委託の例外で基準となるのは、元請から実際に入金された日ではなく、あらかじめ定められた「元委託支払期日」です。

元請が支払いを遅延しているからといって、フリーランスへの支払いも無期限に延期できるわけではありません。元委託支払期日から30日以内に設定した期日までに、発注事業者自身の責任で支払う必要があります。公正取引委員会

契約書に「元請からの入金後に支払う」とだけ記載しても、法定の支払い義務を免れることはできません。

6. 発注者が60日ルールに違反した場合のリスク

6-1. フリーランス新法違反として問題になる行為

60日ルールに関して、次のような行為はフリーランス新法違反として問題になる可能性があります。

  • 支払期日を定めない

  • 受領日から60日を超える支払期日を設定する

  • 適法に定めた支払期日までに支払わない

  • 請求書の受領日を起算日とする

  • 検収合格日を起算日とする

  • 社内処理の遅れを理由に支払いを延期する

  • 元請から未入金であることを理由に支払わない

実際の行政指導でも、請求書提出日基準、検収合格日基準、事務処理遅れによる支払遅延が問題とされています。公正取引委員会

6-2. 行政指導・勧告・公表・命令のリスク

違反が疑われる場合、公正取引委員会や中小企業庁などは、発注事業者に対して報告を求めたり、立入検査を行ったりできます。

違反が認められれば、助言、指導、勧告などの対象になります。勧告に従わない場合は、命令や事業者名の公表に至る可能性があります。公正取引委員会

単なる取引先との支払いトラブルではなく、行政上の法令違反として扱われる可能性がある点に注意が必要です。

6-3. 命令違反時の罰則リスク

60日ルールに違反しただけで直ちに刑事罰が科されるわけではありません。

ただし、行政機関の命令に違反した場合や、報告・検査を拒否した場合などは、50万円以下の罰金が科される可能性があります。法人については、行為者だけでなく法人にも罰金を科す両罰規定があります。公正取引委員会+1

6-4. 未払い・遅延による取引先トラブル

支払いが遅れると、フリーランスから報酬請求や遅延損害金の請求を受ける可能性があります。契約解除、今後の受注拒否、弁護士を通じた請求などに発展することも考えられます。

支払遅延が繰り返されれば、発注担当者と経理担当者の認識違いでは済まず、組織的な契約管理の不備として扱われます。

6-5. 企業イメージや採用・外注戦略への影響

フリーランスへの支払いが遅い企業という評判が広がれば、専門性の高い人材から受注を断られたり、好条件を提示しなければ外注先を確保できなくなったりする可能性があります。

行政によって事業者名が公表された場合は、顧客、取引先、求職者、株主などからコンプライアンス体制を疑われるリスクもあります。60日ルールへの対応は、法律上の義務だけでなく、優秀な外部人材との関係を維持するうえでも重要です。

7. フリーランス側が支払い遅延を防ぐために確認すべきこと

7-1. 契約書・発注書で支払期日を確認する

業務を開始する前に、契約書や発注書で次の事項を確認しましょう。

  • 業務内容

  • 納期

  • 報酬額

  • 支払期日

  • 検査を行う場合の検査完了予定日

  • 振込手数料の負担

  • 再委託案件であるか

発注事業者には、業務委託時に報酬額や支払期日などの取引条件を書面または電磁的方法で明示する義務があります。口頭で説明された場合も、電子メールなどで内容を確認し、記録に残しておくことが大切です。公正取引委員会

7-2. 納品日・受領日を証拠として残す

60日ルールでは受領日が重要になるため、次のような記録を保存しておきましょう。

  • 納品メールの送信履歴

  • ファイル共有サービスのアップロード履歴

  • チャットの納品報告

  • 発注者からの受領確認

  • 宅配便の配達完了記録

  • 業務実施日が分かる日報や報告書

「いつ送ったか」だけでなく、「いつ発注者の管理下に置かれたか」が分かる記録が有効です。

7-3. 検収完了日ではなく受領日が重要であることを理解する

契約書に検収期間が定められていても、原則として60日の計算は受領日から始まります。

発注者から「まだ検収が終わっていない」「社内承認が済んでいない」と説明されても、それだけで支払期限が延長されるわけではありません。ただし、作成途中の情報成果物を一時提出する場合など、事前の合意内容によって判断が異なることがあります。公正取引委員会

7-4. 支払いが遅れた場合の連絡手順

支払期日を過ぎた場合は、まず発注担当者と経理担当者に、記録が残る方法で連絡します。

連絡文には、次の内容を記載すると状況を整理しやすくなります。

  • 案件名

  • 発注日

  • 納品日または役務提供日

  • 報酬額

  • 契約上の支払期日

  • 未入金である事実

  • 入金予定日の回答期限

感情的な表現を避け、「契約上の支払期日を過ぎているため、具体的な入金日を回答してほしい」と明確に伝えましょう。

7-5. 相談窓口を利用すべきケース

次のような場合は、個人で交渉を続けるだけでなく、公的な相談窓口の利用を検討しましょう。

  • 支払期日を大幅に過ぎても入金されない

  • 発注者と連絡が取れない

  • 一方的に報酬を減額された

  • 検収を理由に支払いを繰り返し延期される

  • 法令違反を指摘した後に取引を打ち切られた

  • 契約書と実際の支払い条件が異なる

厚生労働省委託事業の「フリーランス・トラブル110番」では、弁護士への無料相談や和解あっせんを利用できます。公正取引委員会などへの違反申出についても相談可能です。フリーランス・トラブル110番〖厚生労働省委託事業・第二東京弁護士会運営〗

8. 発注者が60日ルールに対応するための実務チェックリスト

8-1. 契約書・発注書に支払期日を明記する

契約書や発注書には、支払日を具体的に特定できる形で記載します。

「納品後60日以内」ではなく、「毎月末日締め、翌月末日支払い」などと記載しましょう。基本契約書だけで支払条件を定める場合は、個別発注との関連が分かるようにすることも必要です。

8-2. 受領日を社内で記録する仕組みを整える

納品物を受け取った担当者が、受領日を経理部門へ速やかに共有できる仕組みを整えます。

メール、チャット、ファイル共有サービス、購買管理システムなど、納品経路が複数ある場合は、受領情報を一元管理することが重要です。

少なくとも次の情報を記録しましょう。

  • 発注先

  • 案件名

  • 発注日

  • 納品予定日

  • 実際の受領日

  • 支払期日

  • 支払状況

8-3. 経理処理と支払いサイトを見直す

既存の支払いサイトが「翌々月末払い」「請求書受領月の翌月末払い」になっている場合は、60日を超える案件が発生しないか確認します。

請求書の締切に間に合わなかった案件を翌月処理に回す運用も危険です。請求書が提出されていなくても、発注者は原則として定められた支払期日までに報酬を支払わなければなりません。公正取引委員会+1

8-4. 検収フローが支払い遅延につながらないようにする

検収に時間がかかる場合でも、受領日から60日以内に支払えるスケジュールを組む必要があります。

検収担当者が不在だった、社内会議が延期された、顧客の確認が遅れたといった事情は、原則として支払いを遅らせる理由になりません。

検収が必要な案件では、納品後すぐに確認を開始し、修正の要否を早期に伝えられる体制を整えましょう。

8-5. 再委託案件の支払期日管理を徹底する

再委託の例外を利用する案件では、通常の案件と分けて管理します。

確認項目は次のとおりです。

  • 再委託であることを明示したか

  • 元委託者の名称を明示したか

  • 元委託支払期日を明示したか

  • フリーランスへの支払期日が適法か

  • 元委託者の実際の入金日と混同していないか

  • 前払金を受け取った場合の配慮を行ったか

必要事項を明示していなければ、元委託支払期日から30日以内という例外を利用できず、通常の受領日から60日以内のルールが適用されます。

9. フリーランス新法の60日ルールに関するよくある質問

9-1. 60日を1日でも超えたら違反になるのか

原則として、受領日から60日を1日でも超える支払期日は認められません。

ただし、月単位の締切制度では「60日以内」を「2か月以内」として運用するため、月末締め・翌月末払いによって61日目や62日目になるケースは問題とされません。公正取引委員会

また、金融機関の休業日による順延について事前に書面や電磁的方法で合意し、一定の条件を満たしている場合も、例外的に期限を超えることがあります。公正取引委員会

9-2. 請求書が届いていない場合でも60日ルールは適用されるのか

請求書が提出されていなくても、60日ルールは適用されます。

発注事業者は、請求書の有無にかかわらず、給付を受領した日から60日以内に設定した支払期日までに報酬を支払わなければなりません。請求書が提出されていないことは、通常、フリーランス側の責任で支払えなかった場合には該当しません。公正取引委員会

例外となり得るのは、フリーランスが誤った口座番号を伝えていたため、発注者が期限までに振込手続きをしても入金できなかった場合などです。

9-3. 検収が終わっていない場合でも支払いは必要か

原則として必要です。

検収の有無にかかわらず、給付を受領した日から60日以内に支払期日を設定し、その期日までに支払わなければなりません。発注者の検収が遅れていることを理由に、支払期日を超えることはできません。公正取引委員会+1

ただし、情報成果物の作成途中に確認用データを提出する場合など、正式な受領時点について事前に適切な合意があるケースは個別に判断されます。

9-4. フリーランスが法人の場合も対象になるのか

法人でも対象になる場合があります。

一人の代表者以外に役員がおらず、従業員を使用していない法人は、法律上の特定受託事業者に該当します。いわゆる一人会社や一人社長法人だからという理由だけで、フリーランス新法の対象外になるわけではありません。公正取引委員会

一方、代表者以外の役員がいる法人や、従業員を使用している法人は、原則として特定受託事業者には該当しません。

9-5. 下請法の60日ルールとの違いは何か

従来の下請法は、2026年1月1日から「中小受託取引適正化法」、通称「取適法」に名称が変更され、適用基準や対象取引なども見直されています。公正取引委員会+1

フリーランス新法と取適法は、どちらも受領日から60日以内のできる限り短い期間に支払期日を定めることを求めていますが、主な違いは適用対象です。

フリーランス新法は、従業員を使用しない個人や一人法人を保護対象とし、発注者側の従業員・役員の有無を基準とします。

これに対し取適法は、委託事業者と中小受託事業者の資本金や従業員数、取引内容などを基準として適用されます。製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託、特定運送委託など、法律で定められた取引が対象です。公正取引委員会+1

同じフリーランス取引に、フリーランス新法と取適法の両方が適用される場合もあります。そのため、発注者は一方の法律だけでなく、自社の規模、受注者の状況、委託内容を踏まえて適用関係を確認する必要があります。

まとめ

フリーランス新法の60日ルールでは、発注事業者は給付を受領した日から60日以内のできる限り短い期間に支払期日を定め、その期日までに報酬を支払わなければなりません。

特に重要なポイントは、次のとおりです。

  • 原則として受領日を1日目として60日を計算する

  • 支払期日は具体的に特定できるように定める

  • 支払期日を定めなければ受領日が支払期日になる

  • 60日を超える期日を契約しても、60日目までに支払う必要がある

  • 月末締め・翌月末払いは原則として認められる

  • 月末締め・翌々月末払いは違反になりやすい

  • 請求書の提出日や検収完了日を起算日にはできない

  • 再委託の例外を利用するには必要事項の明示が必要

  • 元請の未払いは、フリーランスへの支払いを遅らせる理由にならない

発注者は、契約書だけでなく、納品管理、検収、請求書処理、経理、振込までの社内フローを一体的に見直す必要があります。

フリーランス側も、契約条件と支払期日を事前に確認し、納品日や受領日を証明できる記録を残すことが重要です。支払いが遅れた場合は、早めに書面で確認し、必要に応じて公的な相談窓口や専門家を利用しましょう。