フリーランスになるための退職完全ガイド|会社を辞める前後の手続き・税金・保険を解説

はじめに

会社員からフリーランスになるための退職では、会社に退職届を提出するだけでなく、健康保険・年金の切り替え、住民税の支払い、開業や確定申告の準備まで進める必要があります。

特に注意したいのが、退職直後は収入が減りやすい一方、前年の会社員収入を基準とした住民税や国民健康保険料の負担が続くことです。準備不足のまま退職すると、資金不足や手続き漏れによって、フリーランスとしての仕事に集中できなくなる可能性があります。

本記事では、フリーランスになるために退職する人が、会社を辞める前後に行うべき手続き、税金、健康保険、年金、失業保険、開業届などを2026年6月時点の制度に基づいて解説します。

1. フリーランスになるための退職で最初に押さえるべき全体像

1-1. 会社員からフリーランスになるまでの流れ

会社員からフリーランスになるまでの基本的な流れは、次のとおりです。

  1. フリーランスとして提供するサービスを決める

  2. 生活費と事業資金を確保する

  3. 退職後の案件や取引先を探す

  4. 就業規則や雇用契約を確認する

  5. 会社に退職意思を伝える

  6. 引き継ぎと有給休暇の調整を行う

  7. 退職時の必要書類を受け取る

  8. 健康保険と年金を切り替える

  9. 開業・記帳・確定申告の準備を始める

退職日から逆算して準備することが重要です。案件獲得や審査を伴う契約は退職後では間に合わないことがあるため、できる限り会社員のうちに進めましょう。

1-2. 退職前・退職時・退職後に必要な手続き一覧

退職前、退職時、退職後に行う主な手続きは以下のとおりです。

時期主な手続き
退職前資金準備、案件獲得、就業規則確認、カードや賃貸契約、ポートフォリオ作成
退職時退職届提出、有給休暇調整、引き継ぎ、貸与物返却、必要書類の確認
退職後健康保険、国民年金、住民税、失業給付、開業、帳簿付け
翌年所得税・消費税の確定申告、納税

国民健康保険と国民年金は、原則として退職日の翌日から14日以内に手続きします。健康保険を任意継続する場合は、原則として資格喪失日から20日以内です。厚生労働省+2年金ポータル+2

1-3. 退職日を決める前に確認すべき税金・保険・収入のポイント

退職日を決める前に確認したいのは、次の3点です。

第一に、退職後の健康保険料です。国民健康保険、任意継続、家族の扶養などで負担額が異なるため、事前に試算します。

第二に、住民税です。住民税は前年の所得を基準として計算され、通常は6月から翌年5月まで給与から徴収されます。退職時期によっては、残額が最後の給与や退職金からまとめて引かれることがあります。都道府県労働局所在地一覧+1

第三に、退職後の売上見込みです。「案件を獲得できそう」という段階ではなく、契約期間、報酬、入金日まで確認しましょう。フリーランスは仕事を完了した日と報酬が入金される日に時間差があるため、売上があっても資金不足になることがあります。

1-4. フリーランスになる退職で失敗しやすいケース

よくある失敗は、次のようなケースです。

  • 案件がない状態で退職する

  • 売上を手取り収入だと考えてしまう

  • 住民税や保険料を生活費に含めていない

  • 取引先が一社しかなく、契約終了と同時に収入がなくなる

  • 口頭の約束だけで仕事を始める

  • 失業保険を確認せずに開業準備を進める

  • 会社の顧客情報や制作物を無断で持ち出す

退職によって固定給、会社負担の社会保険、有給休暇などを失うことを踏まえ、売上だけでなく手元に残る金額とリスクを計算する必要があります。

2. フリーランスとして退職する前にやるべき準備

2-1. 生活費と事業資金を何か月分用意すべきか

生活防衛資金は、最低でも生活費の6か月分、収入の見通しが不透明な場合は12か月分を目安にすると安心です。

必要資金は、次の計算式で考えます。

必要資金=毎月の生活費×無収入でも生活できる月数+事業の初期費用+税金・保険料の予備費

生活費には家賃、食費、通信費だけでなく、国民健康保険料、国民年金保険料、住民税、医療費も含めます。パソコンやソフトウェア、広告、外注費などが必要な業種では、生活資金と事業資金を分けて確保しましょう。

2-2. 退職前に案件・取引先・収入見込みを確保する

退職前に少なくとも一件は継続案件を確保し、可能であれば複数の取引先に収入源を分散させましょう。

確認すべき内容は、報酬額だけではありません。

  • 業務内容と成果物

  • 契約期間

  • 稼働時間や納期

  • 修正回数

  • 検収条件

  • 請求日と支払日

  • 契約解除の条件

  • 著作権や秘密保持の扱い

フリーランス法では、対象となる業務委託について、発注者は業務内容、報酬額、支払期日などの取引条件を、書面またはメールなどで明示する必要があります。発注者には、原則として給付を受領した日から60日以内のできる限り短い期間内に支払期日を定め、報酬を支払う義務もあります。公正取引委員会+1

2-3. クレジットカード・ローン・賃貸契約は会社員のうちに済ませる

フリーランスになると、会社員時代より収入の安定性を証明しにくくなることがあります。引っ越し、住宅ローン、自動車ローン、クレジットカードの作成などを予定している場合は、必要性を十分に検討したうえで退職前に手続きを進めましょう。

ただし、退職予定や今後の収入について虚偽の申告をしてはいけません。契約書や申込書の質問には事実に基づいて回答する必要があります。

事業用のクレジットカードも用意しておくと、生活費と事業経費を分けやすくなります。

2-4. 副業禁止・競業避止義務・秘密保持契約を確認する

退職前に、就業規則、雇用契約書、誓約書を確認しましょう。

特に確認したいのは、次の項目です。

  • 副業・兼業の許可制や届出制

  • 競合企業との取引制限

  • 退職後の競業避止義務

  • 顧客への営業行為の制限

  • 秘密保持義務

  • 知的財産権や著作権の帰属

会社で得た顧客リスト、未公開情報、営業資料、ソースコードなどをフリーランスの仕事に利用してはいけません。自分が制作した成果物であっても、権利が会社や取引先に帰属している場合があります。

2-5. ポートフォリオ・職務経歴書・実績を整理する

ポートフォリオには、作品を並べるだけでなく、次の情報を掲載します。

  • 担当した業務

  • 課題と目的

  • 自分が担当した範囲

  • 使用した技術やツール

  • 得られた成果

  • 対応可能な業務

  • 連絡方法

会社員時代の実績を掲載する場合は、社名や数値を公開してよいか確認しましょう。守秘義務に抵触する可能性がある場合は、業界、企業規模、担当内容などを匿名化して説明します。

2-6. 退職後の働き方を個人事業主・法人・業務委託から選ぶ

個人事業主と法人は事業形態、業務委託は契約形態です。そのため、個人事業主として業務委託契約を結ぶことも、法人を設立して業務委託を受けることもできます。

退職直後は、設立費用や事務負担が比較的小さい個人事業主から始める方法が一般的です。一方、利益が増えた場合、採用したい場合、法人との取引で信用力が必要な場合は法人化を検討します。

法人化は税金だけで決めず、社会保険料、会計費用、設立費用、役員報酬、赤字でも発生する税負担などを含めて判断しましょう。

3. フリーランスになるための会社の退職手続き

3-1. 退職の意思はいつ・誰に伝えるべきか

まずは就業規則を確認し、原則として直属の上司に伝えます。引き継ぎや採用に時間がかかる職種では、退職希望日の1~3か月前を目安に相談すると進めやすくなります。

期間の定めがない雇用契約では、法律上は原則として退職の申入れから2週間で契約が終了します。ただし、円満退職を目指すなら、就業規則を確認し、業務に支障が出ない時期に申し出ることが大切です。契約社員など期間の定めがある場合は別のルールが適用されるため、契約内容を確認してください。厚生労働省

3-2. 退職届・退職願の書き方と提出タイミング

退職願は「退職を認めてほしい」という申出、退職届は「退職する」という意思表示に用いられるのが一般的です。ただし、会社によって書式や運用が異なります。

一般的な記載事項は次のとおりです。

  • 提出日

  • 所属部署

  • 氏名

  • 退職理由

  • 退職希望日

  • 宛名

自己都合退職の場合は、「一身上の都合により」と記載するのが一般的です。退職日を上司や人事と調整し、会社指定の書式がある場合は、その書式を使用します。

3-3. 有給休暇の消化と最終出社日の決め方

退職日と最終出社日は同じとは限りません。有給休暇を取得する場合、最終出社日の後も在籍が続き、退職日をもって雇用契約が終了します。

引き継ぎに必要な日数を計算し、残っている有給休暇の日数と合わせてスケジュールを作りましょう。退職直前に突然まとめて申請するのではなく、退職相談の段階で上司や人事と調整する方が円滑です。

3-4. 引き継ぎ・貸与物返却・社内手続きの進め方

引き継ぎ資料には、担当業務、進行中案件、期限、取引先担当者、保存場所、注意事項を記載します。後任者が資料だけでも状況を把握できる状態を目指しましょう。

返却が必要なものには、次のようなものがあります。

  • 社員証、入館証

  • 健康保険の資格確認書など

  • パソコン、スマートフォン

  • 鍵、制服、備品

  • 法人カード

  • 紙資料、記録媒体

会社のデータを個人端末やクラウドストレージに保存している場合は、会社の指示に従って削除します。

3-5. 退職時に会社から受け取るべき書類

退職時または退職後に確認したい書類は次のとおりです。

  • 雇用保険被保険者証

  • 離職票1・2

  • 給与所得の源泉徴収票

  • 退職所得の源泉徴収票

  • 健康保険資格喪失証明書

  • 基礎年金番号が分かる書類

  • 退職証明書

  • 住民税に関する書類

離職票は失業給付などの手続きで使用します。給与所得の源泉徴収票は、中途退職者に対して原則として退職後1か月以内に交付されます。離職票が届かない場合は会社に確認し、解決しなければハローワークに相談しましょう。ハローワーク+1

3-6. 円満退職するための注意点

フリーランスとして独立した後、前職の会社や同僚から仕事を紹介してもらえることがあります。退職時の関係を必要以上に悪化させないことも、営業活動の一つです。

退職理由は簡潔に伝え、会社や上司への批判を並べるのは避けましょう。退職日まで職務を果たし、引き継ぎや返却を丁寧に行うことが円満退職につながります。

ただし、ハラスメント、長時間労働、賃金未払いなどの問題がある場合は、円満さより自分の安全と権利を優先してください。

4. 退職後すぐに必要な公的手続き

4-1. 健康保険の切り替え手続き

退職後の健康保険には、主に次の選択肢があります。

  • 国民健康保険に加入する

  • 会社の健康保険を任意継続する

  • 家族の健康保険の扶養に入る

  • 対象業種の国民健康保険組合に加入する

国民健康保険は原則14日以内、任意継続は原則20日以内に手続きが必要です。期限が短いため、退職前に保険料と必要書類を確認しておきましょう。厚生労働省+1

4-2. 年金の切り替え手続き

会社員は厚生年金に加入していますが、退職してフリーランスになる場合、通常は国民年金の第1号被保険者へ切り替えます。

手続き期限は原則として退職日の翌日から14日以内です。市区町村の窓口、年金事務所または対応する電子申請で手続きを行います。配偶者の扶養に入り、第3号被保険者となる場合は、配偶者の勤務先を通して手続きします。年金ポータル+1

4-3. 住民税の支払い方法を確認する

会社員の住民税は、通常、給与から天引きされる特別徴収です。退職後は、残額を最後の給与などから一括徴収するか、市区町村から届く納付書や口座振替で支払う普通徴収に切り替わります。

6月1日から12月31日までの退職では、本人の申出がなければ普通徴収になるのが原則です。翌年1月1日から4月30日までの退職では、一定の場合を除き、残額が最後の給与や退職金から一括徴収されます。東京都税務署

最後の給与が予想より少なくなる可能性があるため、退職前に人事・給与担当者へ確認しましょう。

4-4. 離職票・源泉徴収票・雇用保険被保険者証の扱い

離職票は、雇用保険の基本手当や受給期間の特例を申請するときに使用します。

源泉徴収票は、その年の給与収入や源泉徴収税額を確定申告書に記載するために必要です。年の途中で退職し、年末調整を受けていない場合、確定申告によって所得税が還付されることがあります。国税庁

雇用保険被保険者証は、将来再就職したときにも使用するため、大切に保管してください。

4-5. 退職後の手続き期限と必要書類一覧

手続き主な期限主な必要書類
国民健康保険原則14日以内資格喪失証明書、本人確認書類、マイナンバー確認書類
健康保険の任意継続原則20日以内資格取得申出書、退職日を確認できる書類など
国民年金原則14日以内退職日を確認できる書類、基礎年金番号、本人確認書類
雇用保険退職後速やかに離職票、本人確認書類、写真、口座情報など
開業届2026年以後は原則として開業年分の確定申告期限まで個人事業の開廃業等届出書
青色申告承認申請原則3月15日まで。1月16日以後の開業は開業日から2か月以内青色申告承認申請書

提出書類や申請方法は自治体、健康保険組合、個人の状況によって異なります。事前に各窓口で確認しましょう。開業届の提出期限は2026年1月1日から見直されており、従来の「開業から1か月以内」とは異なります。国税庁

5. フリーランス退職後の健康保険・年金の選び方

5-1. 国民健康保険に加入する場合

国民健康保険料は、前年の所得、世帯構成、年齢、自治体の料率などによって決まります。そのため、退職後の収入が少なくても、会社員時代の所得が高ければ初年度の負担が大きくなる可能性があります。

住んでいる市区町村の試算ページを利用するか、窓口で概算額を確認しましょう。会社都合退職など一定の要件を満たす場合は、保険料の軽減制度を利用できることがあります。

5-2. 会社の健康保険を任意継続する場合

任意継続を利用するには、一般に次の要件を満たす必要があります。

  • 退職日までに継続して2か月以上の被保険者期間がある

  • 資格喪失日から20日以内に申請する

加入期間は最長2年間です。会社負担がなくなるため、保険料は全額自己負担となり、在職中の本人負担額のおおむね2倍が目安ですが、上限の扱いなどにより必ず2倍になるとは限りません。協会けんぽ+1

扶養家族がいる場合、被扶養者の人数によって保険料が増えない任意継続の方が、国民健康保険より安くなることがあります。

5-3. 家族の扶養に入れる場合

配偶者などが会社の健康保険に加入している場合、収入要件などを満たせば被扶養者になれる可能性があります。

一般的な収入要件は年間収入130万円未満で、60歳以上または一定の障害がある人は180万円未満です。さらに、同居・別居の状況に応じた生計維持要件があります。年金ポータル

フリーランスの収入判定では、税務上の所得と健康保険上の収入が同じになるとは限りません。必要経費として差し引ける範囲も保険者によって判断が異なることがあるため、配偶者の勤務先や健康保険組合へ確認してください。

5-4. 国民健康保険組合に加入できる場合

業種によっては、文芸美術、建設、医師、税理士などを対象とする国民健康保険組合に加入できることがあります。

加入条件、地域、職種、組合員資格、保険料は組合ごとに異なります。所得が高くなっても定額に近い保険料体系を採用している組合では、市区町村の国民健康保険より負担が軽くなる場合があります。

ただし、組合費や加入団体の会費が必要になることもあるため、総額で比較しましょう。

5-5. 国民年金への切り替えと免除・猶予制度

収入が減少し、国民年金保険料の支払いが難しい場合は、未納のまま放置せず、免除や納付猶予を申請します。

退職した人は、前年所得が高くても、失業の事実を考慮した特例を利用できる場合があります。免除や猶予の期間は老齢基礎年金額への反映方法が通常納付と異なるため、追納制度を含めて確認しましょう。

5-6. 保険料を比較して損しない選び方

健康保険は、次の順番で比較します。

  1. 家族の扶養に入れるか確認する

  2. 任意継続の月額を会社や健康保険組合に確認する

  3. 国民健康保険料を自治体で試算する

  4. 対象となる国民健康保険組合を調べる

  5. 給付内容や扶養家族の扱いも比較する

保険料の安さだけでなく、扶養家族の人数、今後の所得見込み、出産手当金や傷病手当金の扱いなども確認してください。

6. フリーランス退職後の税金で知っておくべきこと

6-1. 退職後に支払う税金の種類

フリーランスが主に支払う税金は、次のとおりです。

  • 所得税および復興特別所得税

  • 住民税

  • 個人事業税

  • 消費税および地方消費税

  • 固定資産税や自動車税など

すべての税金が売上に対して課されるわけではありません。所得税や住民税は、基本的に売上から必要経費や所得控除などを差し引いた金額を基に計算されます。

売上の一部を納税用口座へ移し、生活費に使わない仕組みを作りましょう。

6-2. 所得税と確定申告の基本

個人事業主は、原則として1月1日から12月31日までの所得を計算し、翌年の確定申告期間に申告・納税します。

基本的な事業所得の計算は、次のとおりです。

事業所得=売上-必要経費

さらに、青色申告特別控除や基礎控除、社会保険料控除などを差し引き、課税所得を計算します。

会社員時代の給与と退職後の事業所得が同じ年に発生した場合は、給与所得と事業所得を合わせて確定申告します。

6-3. 住民税は退職後に負担が重くなりやすい

住民税は前年の所得に基づいて課税されるため、退職後に売上が減っても、会社員時代の収入を基準とした税額を支払うことがあります。

また、給与天引きでは月ごとの負担が見えにくかったのに対し、普通徴収では納付書によってまとまった金額を支払うため、負担が大きく感じられます。

退職前に住民税の年額と残額を確認し、納税資金を別に確保しておきましょう。

6-4. 個人事業税がかかる職種とかからない職種

個人事業税は、地方税法で定められた法定業種に該当する場合に課税されます。課税対象となる業種や税率は業種によって異なり、一般的には事業所得から年間290万円の事業主控除などを差し引いて計算します。営業期間が1年未満の場合、事業主控除は月割りです。東京都税務署

エンジニア、ライター、デザイナー、コンサルタントなどは、具体的な業務内容や自治体の判断によって扱いが異なる可能性があります。職種名だけで判断せず、都道府県税事務所へ確認しましょう。

6-5. 消費税・インボイス制度への対応

基準期間の課税売上高が1,000万円以下であれば、原則として消費税の免税事業者となることがあります。ただし、インボイス発行事業者として登録した場合は、原則として消費税の申告と納税が必要です。

取引先がインボイスを求めるか、売上先が事業者中心か消費者中心か、消費税分を価格へ転嫁できるかを考えて登録を判断しましょう。

インボイス制度を機に免税事業者から登録事業者となった一定の事業者には、納付税額を売上税額の2割とする特例があります。2割特例の対象期間は、原則として2026年9月30日までの日を含む課税期間です。2026年度税制改正では、一定の個人事業者について2027年分・2028年分の納付税額を売上税額の3割とする特例も設けられています。国税庁+1

6-6. 退職金がある場合の税金

退職金は、原則として給与所得や事業所得とは別に退職所得として計算されます。

退職所得控除は、原則として次の式で計算します。

  • 勤続年数20年以下:40万円×勤続年数。最低80万円

  • 勤続年数20年超:800万円+70万円×20年を超える年数

一般的には、退職金から退職所得控除を差し引いた後の金額の2分の1が課税対象となりますが、勤続年数や役員退職金などによって異なる場合があります。国税庁

会社へ「退職所得の受給に関する申告書」を提出していれば、通常は支給時に税額が精算されます。

6-7. 経費にできるもの・できないもの

経費にできるのは、売上を得るために必要な支出です。例えば次のような費用があります。

  • パソコン、周辺機器

  • 業務用ソフトウェア

  • 通信費

  • 広告宣伝費

  • 外注費

  • 打ち合わせの交通費

  • 事業用口座の手数料

  • セミナーや専門書の費用

  • コワーキングスペース代

一方、私生活だけに使う家賃、食費、衣服、旅行費などは経費にできません。

自宅家賃、電気代、インターネット代などを仕事と私生活の両方で使う場合は、業務に使用した割合を合理的な基準で按分します。事業に必要な部分を記録などによって明確に区分できる金額だけが必要経費になります。国税庁+1

7. 開業届・青色申告・確定申告の手続き

7-1. 開業届を出すタイミング

個人事業として継続的に仕事を始めたら、税務署へ個人事業の開廃業等届出書を提出します。

2026年1月1日以後の手続きでは、開業届の提出期限は、原則として事業を開始した年分の所得税の確定申告期限までです。国税庁+1

ただし、期限まで待つ必要はありません。事業用口座の開設、補助金申請、保育施設への提出などで控えが必要になる場合があるため、開業後早めに提出すると管理しやすくなります。

7-2. 青色申告承認申請書を提出するメリット

青色申告の主なメリットには、青色申告特別控除、赤字の繰越し、青色事業専従者給与などがあります。

青色申告特別控除は、記帳方法などの要件に応じて55万円、一定の要件を満たせば65万円、簡易な記帳の場合は10万円です。65万円控除には、55万円控除の要件に加え、e-Taxによる申告または一定の電子帳簿保存などが必要です。国税庁+1

青色申告承認申請書の提出期限は、原則として青色申告をする年の3月15日までです。その年の1月16日以後に開業した場合は、開業日から2か月以内となります。国税庁

7-3. 屋号・事業用口座・会計ソフトの準備

屋号は必須ではありませんが、請求書や銀行口座、ウェブサイトに記載すると事業名を統一できます。

事業用口座と事業用カードを用意し、私生活の入出金と分けましょう。取引を分けるだけで、帳簿付けや確定申告の負担を大幅に減らせます。

会計ソフトを選ぶ際は、次の点を確認します。

  • 銀行やカードとの連携

  • 電子帳簿保存への対応

  • 請求書作成機能

  • インボイス制度への対応

  • e-Taxとの連携

  • 税理士とのデータ共有

7-4. 帳簿付けと領収書管理の始め方

帳簿付けは確定申告直前にまとめるのではなく、開業日から始めます。

最低限、次の内容を記録しましょう。

  • 取引日

  • 取引先

  • 売上または支出の内容

  • 金額

  • 支払方法

  • 勘定科目

  • 証拠書類の保存場所

紙の領収書だけでなく、メールで届いた請求書、オンラインサービスの利用明細、電子領収書も保存します。電子取引データには電子帳簿保存法上の保存ルールがあるため、会計ソフトやクラウドストレージの運用を早めに決めてください。

7-5. 確定申告までに準備する書類

確定申告では、主に次の資料を使用します。

  • 給与所得の源泉徴収票

  • 売上台帳

  • 請求書、領収書、利用明細

  • 銀行口座とカードの明細

  • 青色申告決算書または収支内訳書

  • 国民健康保険料などの支払額

  • 国民年金保険料控除証明書

  • 生命保険料控除証明書

  • 医療費控除や寄附金控除の資料

  • 住宅ローン控除などの関係書類

年の途中で退職した場合は、会社員時代の給与も申告対象になるため、源泉徴収票を忘れずに保管しましょう。

8. フリーランスは退職後に失業保険を受け取れるのか

8-1. フリーランス・個人事業主と失業保険の基本

一般に失業保険と呼ばれる制度は、雇用保険の基本手当です。

基本手当を受けるには、就職する意思と能力があり、積極的に求職活動をしているにもかかわらず、職業に就いていない状態であることが必要です。

フリーランスとして事業に専念している場合、通常は「失業」の状態とは認められません。一方、準備や副業の程度、稼働時間、収入、求職状況によって判断が異なることがあります。自分で判断せず、活動を始める前にハローワークへ申告・相談しましょう。

8-2. 開業届を出すと失業保険にどう影響するか

開業届を提出しただけで機械的に基本手当が停止されるとは限りませんが、事業開始を示す重要な資料になります。

開業届の提出日だけでなく、営業活動、業務委託契約、ウェブサイト公開、設備購入、仕事の受注、稼働時間などを総合的に見て、事業を開始・準備しているかが判断されます。

失業給付を受けながら開業準備をする場合は、作業日、作業時間、収入、契約状況を正確に申告してください。

8-3. 再就職手当・受給期間延長の考え方

一定の要件を満たして自営業を開始した場合、再就職手当の対象になる可能性があります。事業を1年を超えて安定的に継続できる見込みがあるかなどが審査され、開業届、業務委託契約書、営業許可証などの提出を求められることがあります。都道府県労働局所在地一覧+1

また、離職後に事業を開始した人などについては、事業を行っている期間を基本手当の受給期間に算入しない特例があります。本来の受給期間に最大3年間を加えることができ、原則として事業開始などの日の翌日から2か月以内に申請します。厚生労働省+1

8-4. 失業保険を受けたい場合の注意点

失業給付を検討している場合は、次の順番で行動しましょう。

  1. 退職後、離職票を受け取る

  2. ハローワークで求職申込みを行う

  3. フリーランス活動の予定を相談する

  4. 作業日、契約、収入を記録する

  5. 開業前に再就職手当や受給期間の特例を確認する

先に開業届を出したり、継続案件を開始したりすると、利用できる制度の判断に影響する可能性があります。

8-5. 不正受給にならないために確認すべきこと

業務を行った日、報酬が発生した日、収入を受け取った日、開業準備をした日などは、認定日に正確に申告します。

少額だから、まだ入金されていないから、知人の手伝いだからという理由で申告しなくてよいとは限りません。申告漏れは不正受給と判断される可能性があります。

判断に迷う活動は、開始前にハローワークへ具体的に説明し、回答内容を記録しておきましょう。

9. フリーランス退職で後悔しないための注意点

9-1. 収入が不安定になるリスク

フリーランスは、契約終了、案件減少、入金遅延などによって収入が変動します。

対策として、取引先を複数に分散し、固定費を抑え、売上が少ない月でも生活できる資金を確保しましょう。一社からの売上が大部分を占める場合は、その契約が終了したときの代替案件を準備しておく必要があります。

9-2. 社会保険料・税金を見落とすリスク

売上から経費を引いた金額が、そのまま自由に使える手取りではありません。

住民税、所得税、健康保険料、年金保険料、個人事業税、消費税などの支払いがあります。売上が入金されたら、一定割合を税金・社会保険用の口座へ移す習慣をつけましょう。

9-3. 会社員時代より信用審査が厳しくなるリスク

独立直後は、確定申告書や納税証明書などの実績書類がありません。賃貸契約やローン審査では、収入の継続性を説明しにくくなる可能性があります。

引っ越しや資金調達を予定している場合は早めに準備し、独立後は帳簿、申告書、納税証明書を適切に保管しましょう。

9-4. 業務委託契約・報酬未払いトラブルのリスク

仕事を始める前に、少なくとも業務内容、報酬、納期、検収条件、修正範囲、経費負担、支払日、著作権、契約解除について書面やメールで合意します。

報酬未払いなどのトラブルが発生したら、契約書、発注メール、納品記録、請求書、相手との連絡履歴を保存してください。

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9-5. 体調不良・休業時の備え

フリーランスは、働けない期間の売上が減少しやすく、有給休暇もありません。

次のような備えを検討しましょう。

  • 生活防衛資金

  • 所得補償保険や就業不能保険

  • 小規模企業共済

  • 民間の医療保険

  • 納期を代替できる外注先

  • データのバックアップ

  • 緊急時に取引先へ連絡できる体制

保険は保障内容、免責期間、対象外となる病気や働き方を確認してから加入してください。

9-6. 退職後に孤立しないための相談先

退職後は、会社の同僚や上司にすぐ相談できなくなります。

税金は税務署や税理士、年金は年金事務所、健康保険は自治体や健康保険組合、失業給付はハローワークへ相談します。契約トラブルは弁護士やフリーランス・トラブル110番、経営相談は商工会・商工会議所やよろず支援拠点などを活用しましょう。

同業者のコミュニティに参加し、仕事だけでなく情報交換や相談ができる関係を作ることも重要です。

10. フリーランス退職前後のチェックリスト

10-1. 退職3か月前までにやること

  • フリーランスとして提供するサービスを決める

  • 生活費6~12か月分を目安に資金を用意する

  • 事業計画と毎月の収支予測を作る

  • 案件や取引先を探す

  • 就業規則、副業規定、秘密保持契約を確認する

  • 健康保険料と住民税を試算する

  • 引っ越し、カード、ローンなどの予定を整理する

10-2. 退職1か月前までにやること

  • 上司へ退職意思を伝える

  • 退職日と最終出社日を決める

  • 退職届を提出する

  • 有給休暇の取得日を調整する

  • 引き継ぎ資料を作る

  • ポートフォリオを整える

  • 事業用口座やカードを準備する

  • 国民健康保険と任意継続の保険料を比較する

10-3. 退職日までにやること

  • 引き継ぎを完了する

  • パソコン、社員証、鍵などを返却する

  • 健康保険資格喪失証明書の発行を依頼する

  • 離職票が必要であることを伝える

  • 雇用保険被保険者証を確認する

  • 源泉徴収票の受取方法を確認する

  • 住民税の残額と徴収方法を確認する

  • 会社データを個人端末から削除する

10-4. 退職後14日以内にやること

  • 国民健康保険への加入、扶養申請などを行う

  • 国民年金へ切り替える

  • 任意継続を選ぶ場合は20日以内の期限を確認する

  • 離職票が届いたか確認する

  • 失業給付を検討する場合はハローワークへ相談する

  • 住民税の納付書や口座振替を確認する

10-5. 開業後1か月以内にやること

開業届は2026年以後、原則として開業年分の確定申告期限までに提出できますが、次の作業は早めに進めましょう。

  • 開業届を提出する

  • 青色申告承認申請書の期限を確認する

  • 会計ソフトを設定する

  • 売上と経費の記帳を始める

  • 請求書の書式を作る

  • 契約書のひな型を準備する

  • インボイス登録の必要性を検討する

  • 事業用口座と私用口座を分ける

10-6. 確定申告までにやること

  • 源泉徴収票を受け取る

  • 売上の計上漏れを確認する

  • 領収書と請求書を整理する

  • 家事按分の基準を決める

  • 社会保険料控除などの証明書を集める

  • 青色申告決算書または収支内訳書を作る

  • 所得税の納税資金を確保する

  • 消費税の申告義務を確認する

  • e-Taxの利用準備をする

11. フリーランスの退職に関するよくある質問

11-1. 退職してすぐフリーランスになるのは危険?

案件、生活資金、税金・保険料の準備がない状態で退職するのはリスクがあります。

一方、継続案件があり、生活費を確保し、退職後の手続きを把握している場合は、退職直後からフリーランスとして活動することも可能です。判断基準は「やる気」ではなく、契約済みの売上、手元資金、固定費、取引先の分散状況です。

11-2. 退職前に開業届を出してもよい?

実際に事業を開始しているのであれば、会社員として在籍中でも開業届を提出できます。

ただし、副業禁止規定、雇用保険、健康保険の扶養認定などに影響する可能性があります。まだ準備だけで事業を開始していない場合は、実態と異なる開業日を記載しないようにしましょう。

失業給付を検討している場合は、提出前にハローワークへ相談することが重要です。

11-3. 会社にフリーランスになることを伝えるべき?

一般に、退職理由として独立後の詳細な計画まで伝える必要はありません。「一身上の都合」で退職することも可能です。

ただし、在職中に副業を行う場合や、退職後に会社と業務委託契約を結ぶ場合は、必要な範囲で説明します。競業、顧客への営業、秘密保持に関係する場合は、契約内容を確認したうえで慎重に対応しましょう。

11-4. フリーランスになると扶養から外れる?

フリーランスになっただけで直ちに扶養から外れるとは限りません。健康保険の被扶養者となれるかは、見込収入、生計維持関係などによって判断されます。

ただし、税金上の扶養と健康保険上の扶養は別制度です。また、健康保険組合によって自営業者の経費の扱いが異なる場合があるため、加入先へ確認してください。

11-5. 退職後の健康保険はどれが一番安い?

一律に最も安い制度はありません。

単身で前年所得が低ければ国民健康保険が安い場合があります。前年所得が高い場合や扶養家族が多い場合は、任意継続が有利になる可能性があります。家族の扶養に入れる場合は、追加保険料が発生しないこともあります。

国民健康保険、任意継続、扶養、加入可能な国民健康保険組合の年間負担額を比較して決めましょう。

11-6. 会社員時代の副業収入も確定申告が必要?

年末調整済みの給与を一か所から受けている会社員で、給与所得・退職所得以外の所得が年間20万円を超える場合は、原則として所得税の確定申告が必要です。20万円は売上ではなく、基本的に収入から必要経費を差し引いた所得で判断します。国税庁

20万円以下で所得税の確定申告が不要でも、住民税の申告が必要になる場合があります。また、医療費控除などのために確定申告をする場合は、20万円以下の副業所得も含めて申告します。名古屋市公式サイト+1

11-7. フリーランスになる前に税理士へ相談すべき?

全員が退職前から税理士と顧問契約を結ぶ必要はありません。ただし、次に該当する場合は早めの相談が有効です。

  • 売上や利益が大きくなる見込みがある

  • インボイス登録を検討している

  • 法人化するか迷っている

  • 海外取引がある

  • 従業員や外注スタッフを使う

  • 会社員時代の副業と開業時期が重なる

  • 退職金や複数の所得がある

  • 帳簿付けに不安がある

初回相談や確定申告だけ依頼する方法もあります。税理士へ依頼しない場合でも、開業直後から正しく帳簿を付け、期限を管理することが大切です。

まとめ

フリーランスになるための退職では、会社を辞める手続きと、独立後の事業準備を同時に進める必要があります。

退職前には、生活費と事業資金を確保し、案件、契約、健康保険、住民税を確認しましょう。退職時には、引き継ぎと貸与物の返却を行い、離職票、源泉徴収票、健康保険資格喪失証明書などを受け取ります。

退職後は、原則14日以内の健康保険・年金手続きを優先してください。失業給付を検討している場合は、開業届の提出や事業開始前にハローワークへ相談することが重要です。

フリーランスとして安定して働くためには、売上を増やすだけでなく、税金・保険料を含めた資金管理、契約書の整備、複数の取引先の確保が欠かせません。退職日から逆算したチェックリストを作り、一つずつ準備を進めましょう。