フリーランスガイドラインとは?2026年改定・フリーランス新法との違いと発注者が守るべき義務をわかりやすく解説

はじめに

フリーランスへの業務委託は、Web制作、システム開発、ライティング、デザイン、動画制作、コンサルティング、配送、建設、士業など、幅広い分野で一般的になっています。一方で、契約内容が曖昧なまま発注したり、納品後に報酬を減額したり、支払いを先延ばしにしたりすると、フリーランスガイドラインやフリーランス新法、取適法、独占禁止法、労働関係法令の問題に発展する可能性があります。

特に2026年時点では、2024年11月に施行されたフリーランス新法に加え、2026年1月1日から旧下請法が「取適法」へ改正されたことに伴い、フリーランスガイドラインも見直されています。発注者は「フリーランスだから柔軟に頼める」と考えるのではなく、「事業者間取引として公正な条件を明示し、約束どおり支払い、就業環境にも配慮する」ことが求められます。

この記事では、フリーランスガイドラインの基本、フリーランス新法との違い、2026年改定で押さえるべき取適法の影響、発注者が守るべき義務、実務上のNG行為、契約前のチェックリストをわかりやすく解説します。

1. フリーランスガイドラインとは?まず押さえるべき結論

フリーランスガイドラインとは、正式には「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」と呼ばれるものです。事業者とフリーランスの取引について、フリーランス新法、独占禁止法、取適法、労働関係法令がどのように適用されるのかを整理し、問題になり得る行為を明確にするために策定されています。

1-1. フリーランスガイドラインの目的と位置づけ

フリーランスガイドラインの目的は、フリーランスが安心して働ける取引環境を整えることです。発注者とフリーランスは、どちらも形式上は「事業者」ですが、実際には発注者側が取引条件や報酬、納期、継続可否を決めやすく、フリーランス側が不利な立場になりやすい場面があります。

そのため、ガイドラインでは、どのような行為が不公正な取引に当たり得るのか、フリーランスが労働者と判断される場合はどのように労働関係法令が適用されるのか、発注者がどの法律を意識すべきかを整理しています。

1-2. フリーランス新法・独占禁止法・下請法・労働関係法令との関係

フリーランスガイドラインは、単独で発注者の義務を定める法律ではありません。あくまで、フリーランス取引に関係する複数の法律の適用関係を整理するものです。

フリーランス新法は、フリーランスに業務委託する発注者に対して、取引条件の明示、報酬支払い、募集情報の的確表示、育児介護等への配慮、ハラスメント対策、中途解除時の予告などを義務付ける法律です。独占禁止法は、優越的地位の濫用など不公正な取引を規制します。取適法は、旧下請法を改正した法律で、中小受託事業者との取引における発注者の義務や禁止行為を定めています。労働関係法令は、契約名が業務委託であっても、働き方の実態が労働者に当たる場合に適用されます。

1-3. ガイドラインは法律なのか?違反した場合の考え方

フリーランスガイドライン自体は法律ではありません。そのため、「ガイドラインに反した」というだけで直ちに罰則が科されるわけではありません。

ただし、ガイドラインで問題行為として示されている行為は、フリーランス新法、独占禁止法、取適法、労働関係法令などに違反する可能性があります。たとえば、取引条件を明示しない、受領後に報酬を一方的に減額する、支払期日を守らない、ハラスメント相談への体制を整えないといった行為は、法律上の問題になり得ます。

1-4. 発注者が最初に確認すべきポイント

発注者がまず確認すべきなのは、次の4点です。

1つ目は、相手がフリーランス新法上の「特定受託事業者」に該当するかどうかです。個人で従業員を使用しない人や、代表者以外に役員がなく従業員を使用しない一人法人は、対象になり得ます。2つ目は、自社が「業務委託事業者」または「特定業務委託事業者」に該当するかどうかです。3つ目は、契約期間が1か月以上または6か月以上に当たるかどうかです。4つ目は、フリーランス新法だけでなく、取適法や独占禁止法も関係する取引かどうかです。

2. フリーランスガイドラインが作られた背景

フリーランスガイドラインが作られた背景には、フリーランスという働き方の広がりと、それに伴う取引トラブルの増加があります。フリーランスは雇用労働者ではなく、原則として労働基準法上の労働時間規制や賃金支払いルールの直接の対象にはなりません。しかし、実際の取引では、発注者との力関係に差があり、契約内容や報酬条件を自由に交渉できないケースがあります。

2-1. フリーランス取引で起こりやすいトラブル

フリーランス取引で起こりやすいトラブルには、報酬未払い、支払い遅延、納品後の一方的な減額、発注内容の変更、追加作業の無償依頼、突然の契約打ち切り、募集情報と実際の条件の相違、ハラスメントなどがあります。

公正取引委員会のQ&Aでも、フリーランス取引では「一方的に発注が取り消された」「報酬が支払期日までに支払われなかった」「ハラスメントを受けた」といったトラブルが生じていることが説明されています。

2-2. 報酬未払い・一方的な減額・契約内容の不明確さが問題になる理由

報酬未払いが起きると、フリーランスの生活や事業継続に直接影響します。会社員と異なり、毎月の給与が保証されているわけではないため、1件の未払いでも資金繰りに大きな影響が出ることがあります。

また、一方的な減額は、発注時に合意した条件を後から崩す行為です。発注者が「予算が足りなくなった」「クライアントから修正が入った」「思ったより成果が出なかった」などの理由で、フリーランスの責任ではない事情をもとに報酬を減らすことは、法律上問題になり得ます。

契約内容が不明確な場合も危険です。業務範囲、納期、検収基準、修正回数、支払期日が曖昧だと、発注者は「ここまで含まれている」と考え、フリーランスは「追加作業だ」と考えるなど、認識のズレが生じます。

2-3. 雇用ではない働き方でも保護が必要とされた背景

フリーランスは雇用契約ではなく、請負契約や準委任契約などで仕事を受けることが多い働き方です。しかし、形式上は事業者であっても、発注者との交渉力や情報収集力に差があるため、不利な取引条件を受け入れざるを得ないことがあります。

そのため、フリーランス新法では、個人が事業者として受託した業務に安定的に従事できる環境を整えることが目的とされています。取引の適正化だけでなく、育児介護等との両立やハラスメント対策といった就業環境の整備も重視されています。

2-4. 企業に求められる「対等で公正な取引」の考え方

発注者に求められるのは、フリーランスを「安く・早く・都合よく使える外部人材」と見ることではありません。業務委託であっても、相手は独立した事業者です。業務内容、報酬、納期、支払期日、修正条件を明示し、変更が必要な場合は協議し、成果物を受け取ったら期日内に支払うことが基本です。

公正な取引とは、契約書を作ることだけではなく、契約前、発注時、業務遂行中、検収時、支払い時、契約終了時まで一貫して、相手に不利益を押し付けない運用を行うことです。

3. 2026年改定で何が変わる?最新動向をわかりやすく解説

2026年時点で重要なのは、フリーランスガイドラインがフリーランス新法だけでなく、旧下請法から取適法への改正も踏まえて整理されている点です。厚生労働省は、旧下請法が改正され、2026年1月1日から「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」として施行されることに伴い、旧下請法からの変更内容を追記するなどの改定を行ったと公表しています。

3-1. 2026年時点で発注者が押さえるべき法改正の全体像

2026年時点で発注者が押さえるべき主なポイントは、次の3つです。

第一に、フリーランス新法は2024年11月1日に施行され、発注者に対して取引条件の明示、原則60日以内の報酬支払い、ハラスメント対策などを義務付けています。第二に、2026年1月1日から旧下請法が取適法へ改正され、適用対象や禁止行為が拡大されています。第三に、フリーランスが取適法上の中小受託事業者にも該当する場合、フリーランス新法と取適法の両方を意識した取引管理が必要になります。

3-2. 下請法から取適法への変更とフリーランス取引への影響

取適法では、「下請」という上下関係を連想させる用語が見直され、「親事業者」は「委託事業者」、「下請事業者」は「中小受託事業者」へと整理されています。また、従来の資本金基準に加えて従業員数による基準が追加され、対象となる事業者の範囲が広がっています。さらに、対象取引に「特定運送委託」が追加されました。

フリーランスが中小受託事業者にも該当する場合、取適法のルールも関係します。政府広報では、中小受託事業者がフリーランス新法上の特定受託事業者にも該当し、両法に違反する行為が行われた場合、原則としてフリーランス新法が優先適用されると説明されています。

3-3. 取引条件明示・支払期日・価格交渉で注意すべき変更点

取適法では、発注内容等の明示、取引記録の作成・保存、支払期日の設定、遅延利息の支払いなどが委託事業者の義務として整理されています。支払期日は、受領日から60日以内のできる限り短い期間内に設定する必要があります。

また、2026年改正では、協議に応じない一方的な代金決定や、手形払等が新たに禁止行為として追加されています。労務費や原材料費が上昇しているにもかかわらず、フリーランスや中小受託事業者からの価格協議に応じず、十分な説明もなく一方的に単価を据え置く・引き下げる運用は、リスクが高いといえます。

3-4. 既存の業務委託契約にも見直しが必要な理由

既存の業務委託契約書を使い回している企業は、2026年時点で見直しが必要です。理由は、契約書に記載されている支払条件、検収条件、追加作業、契約解除、更新、ハラスメント相談窓口、育児介護等への配慮、募集情報の表示が、現在の法制度に合っていない可能性があるためです。

特に、基本契約書だけを締結し、個別発注はチャットや口頭で行っている企業は注意が必要です。フリーランス新法では、業務委託時に、業務内容、報酬額、支払期日などの取引条件を明示する必要があります。メール、チャット、SMSなどの電磁的方法による明示も可能ですが、後から確認できる形で保存しておくことが重要です。

3-5. 2026年以降に発注者が優先して対応すべきこと

2026年以降、発注者が優先すべきことは、契約書や発注書のひな型を整備すること、発注から検収・支払いまでの社内フローを明確にすること、価格変更や追加作業の協議ルールを作ること、ハラスメント相談窓口を整備すること、契約解除や不更新の判断を属人的にしないことです。

特に重要なのは、「発注時に決めて、記録に残す」ことです。後から条件を変えるのではなく、業務開始前に合意内容を明確にし、変更が必要な場合は再度合意し、記録を残す体制が必要です。

4. フリーランス新法とは?対象者と対象取引を整理

フリーランス新法とは、フリーランスと発注事業者との取引を適正化し、フリーランスの就業環境を整備するための法律です。正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」で、「フリーランス・事業者間取引適正化等法」とも呼ばれます。

4-1. フリーランス新法の正式名称と施行日

フリーランス新法は、2023年4月28日に成立し、同年5月12日に公布され、2024年11月1日に施行されました。発注者に対して、業務委託時の取引条件の明示、給付を受領した日から原則60日以内の報酬支払い、ハラスメント対策の体制整備などを義務付けています。

4-2. 法律上の「フリーランス」に該当する人

フリーランス新法上の「特定受託事業者」とは、業務委託の相手方である事業者で、個人であって従業員を使用しないもの、または法人であって一人の代表者以外に他の役員がなく、従業員を使用しないものをいいます。つまり、個人事業主だけでなく、いわゆる一人法人も対象になり得ます。

ここでいう「従業員を使用」とは、週の所定労働時間が20時間以上で、継続して31日以上雇用される見込みの労働者を雇用することを指します。短時間・短期間の一時的な雇用は、通常ここには含まれません。

4-3. 発注事業者・特定業務委託事業者とは

フリーランス新法では、フリーランスに業務委託をする事業者を「業務委託事業者」といいます。そのうち、従業員を使用する個人、または二人以上の役員がいる法人・従業員を使用する法人などは「特定業務委託事業者」に該当します。

発注者が特定業務委託事業者に該当する場合、報酬支払い、禁止行為、募集情報、育児介護等への配慮、ハラスメント対策、中途解除予告など、より広い義務が課されます。一方、従業員を使用していない発注者であっても、業務委託事業者として取引条件の明示義務はあります。

4-4. 対象になる業務委託と対象外になりやすい取引

対象になる業務委託は、事業者がその事業のために、他の事業者に物品の製造、情報成果物の作成、役務の提供を委託する取引です。たとえば、Webサイト制作、記事制作、システム開発、動画編集、配送、講師業務、コンサルティング、デザイン制作などが該当し得ます。

一方、単なる商品の購入、消費者としての個人的な依頼、事業とは無関係の依頼、実質的に雇用契約と判断される働き方などは、フリーランス新法の対象外または別の法律関係として整理される可能性があります。契約書に「業務委託」と書いてあっても、実態として労働者と判断される場合には、労働基準法などの労働関係法令が適用されます。

4-5. 個人事業主・一人法人・副業人材は対象になるのか

個人事業主は、従業員を使用していなければ対象になり得ます。一人法人も、代表者以外に役員がなく、従業員を使用していなければ対象になり得ます。会社員が副業として、他社から業務委託を受けている場合も、その副業の範囲では特定受託事業者に該当し得ます。

発注者は、相手が「法人だから対象外」「副業だから対象外」と決めつけるのではなく、業務委託時点で従業員の有無や契約実態を確認することが大切です。

5. フリーランスガイドラインとフリーランス新法の違い

フリーランスガイドラインとフリーランス新法は混同されやすいですが、役割が異なります。ガイドラインは複数の法律の適用関係を整理する資料であり、フリーランス新法は発注者に具体的な義務を課す法律です。

5-1. ガイドラインと法律の違い

ガイドラインは、行政機関が法律の考え方や問題行為の例を示すものです。直接の罰則を定めるものではありません。

一方、フリーランス新法は法律です。違反があれば、行政機関による助言、指導、報告徴収、立入検査、勧告、公表、命令の対象になり、命令違反や検査拒否等には50万円以下の罰金が科される可能性があります。

5-2. フリーランスガイドラインがカバーする範囲

フリーランスガイドラインは、フリーランス新法だけでなく、独占禁止法、取適法、労働関係法令との関係もカバーします。つまり、「フリーランス新法だけ守れば十分」というものではありません。

たとえば、フリーランス新法の対象外となる取引であっても、発注者が優越的な立場を利用して不利益を押し付ければ、独占禁止法上の問題が生じる可能性があります。また、資本金や従業員数、取引内容によっては取適法が適用されることもあります。

5-3. フリーランス新法で発注者に義務化された範囲

フリーランス新法で発注者に義務化された主な内容は、取引条件の明示、報酬支払期日の設定と支払い、一定期間以上の業務委託における禁止行為、募集情報の正確かつ最新の表示、育児介護等への配慮、ハラスメント対策、中途解除等の事前予告と理由開示です。

ただし、すべての義務がすべての発注者に同じように適用されるわけではありません。発注者が従業員を使用しているか、契約期間が1か月以上か、6か月以上かによって、義務の範囲が変わります。

5-4. 独占禁止法・労働法・取適法との使い分け

実務では、次のように考えると整理しやすくなります。

フリーランスに業務委託する場合は、まずフリーランス新法を確認します。相手が中小受託事業者にも当たる場合は、取適法も確認します。発注者が立場の強さを利用して不利益な条件を押し付けている場合は、独占禁止法の観点も確認します。契約名は業務委託でも、指揮命令、勤務時間の拘束、報酬の労務対価性などから実態が労働者に近い場合は、労働関係法令の適用を確認します。

5-5. 発注者が「どのルールを見ればよいか」を判断する方法

発注者は、少なくとも次の順番で確認しましょう。

まず、相手が従業員を使用しない個人または一人法人かを確認します。次に、自社が従業員を使用しているか、法人として複数役員がいるかを確認します。次に、取引内容が物品製造、情報成果物作成、役務提供などに当たるかを確認します。そのうえで、契約期間が1か月以上または6か月以上か、取適法の資本金基準・従業員基準に該当するかを確認します。

迷った場合は、フリーランス新法、取適法、独占禁止法のうち「より厳しい管理に合わせる」運用にすると、実務上のリスクを下げやすくなります。

6. 発注者が守るべき7つの義務

ここからは、発注者が実務で特に押さえるべき7つの義務を解説します。

6-1. 取引条件を明示する義務

発注者は、フリーランスに業務委託をする際、取引条件を明示しなければなりません。明示すべき事項には、発注者とフリーランスの名称、業務委託をした日、給付・役務の内容、納期や提供期日、提供場所、報酬額、支払期日、検査をする場合の検査完了日、現金以外で支払う場合の支払方法などがあります。

明示方法は、契約書や発注書だけでなく、電子メール、チャットツール、SMS、クラウドサービスなどでも可能です。ただし、後から確認できない形や、担当者だけが見られる形ではトラブルになります。発注者側・フリーランス側の双方が保存できる形にしておくことが重要です。

6-2. 報酬を原則60日以内に支払う義務

特定業務委託事業者は、フリーランスから給付を受領した日から60日以内のできる限り短い期間内で支払期日を定め、期日までに報酬を支払う必要があります。再委託の場合には、一定の条件のもとで、元委託者から支払いを受ける期日から30日以内とする例外があります。

注意すべきなのは、60日の起算点は「請求書を受け取った日」ではなく、原則として「給付を受領した日」だという点です。請求書の提出が遅れたことを理由に、無制限に支払いを遅らせる運用は避けるべきです。

6-3. 受領拒否・報酬減額・返品などの禁止行為

1か月以上の業務委託では、受領拒否、報酬減額、返品、買いたたき、購入・利用強制、不当な経済上の利益の提供要請、不当な給付内容の変更・やり直しが禁止行為として問題になります。

たとえば、発注者都合で納品物を受け取らない、発注後に予算不足を理由に報酬を下げる、フリーランスの責任ではないのにやり直しを無償で求める、といった行為はリスクがあります。

6-4. 募集情報を正確かつ最新に表示する義務

広告やSNS、求人媒体、マッチングサービスなどでフリーランスを募集する場合、募集情報は正確かつ最新の内容に保つ必要があります。虚偽表示や誤解を生じさせる表示は禁止されます。

特に、募集を行う者の氏名または名称、住所、連絡先、業務内容、業務に従事する場所、報酬の6項目を欠く募集情報は、誤解を生じさせる表示に該当し得るとされています。

6-5. 育児・介護等と業務の両立への配慮

6か月以上の業務委託では、フリーランスが育児、介護、妊娠、出産などと業務を両立できるよう、申出に応じて必要な配慮を行う義務があります。

具体的には、申出内容を把握し、取り得る選択肢を検討し、配慮の内容を伝達・実施することが求められます。どうしても希望どおりの配慮ができない場合でも、その理由を説明する必要があります。

6-6. ハラスメント対策の体制整備

発注者は、フリーランスに対するハラスメントを防止し、相談に対応する体制を整備する必要があります。ハラスメントは、発注者のオフィス内だけで起こるものではありません。取引先の事務所、顧客宅、打ち合わせ場所、電話、メール、チャット、懇親の場など、業務委託に関係する場面で問題になり得ます。

実務では、相談窓口を設置し、担当者を決め、相談があった場合の事実確認・対応フローを整備し、社内研修を行うことが重要です。

6-7. 中途解除・契約不更新時の事前予告と理由開示

6か月以上の業務委託を中途解除する場合や、契約を更新しない場合、原則として30日前までに予告する必要があります。契約終了を突然伝えると、フリーランスは次の仕事への移行が難しくなり、時間的・経済的損失を受ける可能性があるためです。

また、解除や不更新の理由を求められた場合は、理由を開示する必要があります。単に「社内都合」「総合的判断」とするのではなく、契約上・業務上の具体的な理由を説明できるようにしておきましょう。

7. 発注者がやってはいけないNG行為

フリーランス取引でトラブルになりやすいNG行為を具体的に見ていきます。

7-1. 口頭発注だけで業務を開始する

「急ぎなので先に始めてください」「詳細は後で送ります」という口頭発注は危険です。業務範囲、納期、報酬、支払期日が曖昧なまま進めると、後から認識のズレが生じます。

口頭で合意した場合でも、必ずメールやチャットで条件を明示し、双方が確認できる状態にしましょう。正式な契約書が間に合わない場合でも、最低限、発注書や発注確認メールを残すべきです。

7-2. 納品後に報酬を一方的に減額する

納品後に「思っていた内容と違う」「予算が厳しい」「クライアントから値引きされた」といった理由で報酬を下げることは、報酬減額として問題になる可能性があります。

品質に問題がある場合でも、契約時に定めた仕様、検収基準、修正条件に照らして対応すべきです。発注者都合や第三者都合を理由に、フリーランスへ一方的に負担を押し付けてはいけません。

7-3. 検収を理由に支払いを先延ばしする

「検収が終わっていないから支払えない」として、支払いを長期間先延ばしする運用もリスクがあります。支払期日は、原則として給付を受領した日から60日以内のできる限り短い期間内で設定する必要があります。

検収期間を設ける場合は、検査完了日を明示し、社内都合で検収を遅らせない仕組みを作りましょう。

7-4. 業務範囲を曖昧にしたまま追加作業を依頼する

「少しだけ修正して」「ついでにこれもお願い」と追加作業を依頼しながら、報酬を増やさないケースもトラブルになります。

追加作業が発生した場合は、作業内容、追加報酬、納期、支払期日を改めて明示しましょう。契約時に修正回数や対応範囲を定めておくと、後から揉めにくくなります。

7-5. 募集内容と実際の契約条件を大きく変える

募集時には「月額30万円」「フルリモート」「週3日程度」と表示していたのに、契約時に「月額15万円」「出社必須」「週5日対応」に変更するような運用は、虚偽表示や誤解を生じさせる表示として問題になり得ます。

条件変更が必要な場合は、変更理由を説明し、フリーランスが自由に判断できるようにすることが必要です。

7-6. 相談・申出を理由に取引を打ち切る

フリーランスが報酬未払いを相談した、育児介護等への配慮を申し出た、ハラスメントを相談した、行政機関に申出をした、といったことを理由に取引を打ち切るのは避けるべきです。

取適法でも、違反行為を通報したことを理由に取引停止や数量削減などの不利益取扱いをすることは、報復措置として禁止行為に位置づけられています。

8. フリーランスに発注する前に確認すべき実務チェックリスト

フリーランスへの発注は、発注前の準備でトラブルの多くを防げます。ここでは、実務で確認すべき項目を整理します。

8-1. 契約書・発注書に記載すべき項目

契約書や発注書には、少なくとも次の項目を記載しましょう。

発注者名、フリーランス名、業務委託日、業務内容、成果物の仕様、納期、納品方法、業務提供場所、報酬額、消費税の扱い、支払期日、支払方法、検収の有無、検収完了日、修正回数、追加作業の扱い、秘密保持、知的財産権、再委託の可否、契約期間、解除条件、更新条件、相談窓口などです。

フリーランス新法上の明示事項と、取適法上の明示事項が両方関係する場合、同一の契約書やメールで両法の記載事項をまとめて示すことも可能です。

8-2. 業務内容・納期・報酬・支払期日の決め方

業務内容は、「何をどこまで行うのか」が分かるように記載します。たとえば、「記事制作」ではなく、「5,000字程度の記事を1本作成、構成案作成、本文執筆、初稿提出後の修正2回まで」と記載すると明確です。

納期は、初稿提出日、修正戻し日、最終納品日を分けて決めると実務上スムーズです。報酬は、総額、単価、追加作業単価、交通費や外注費などの経費負担を明確にします。支払期日は、「月末締め翌月末払い」などの表現だけでなく、給付受領日から60日を超えないか確認しましょう。

8-3. 発注から検収・支払いまでの社内フロー

社内では、発注担当、契約確認担当、検収担当、支払処理担当を明確にしましょう。担当者が曖昧だと、発注条件の明示漏れ、検収遅れ、支払い漏れが起こりやすくなります。

おすすめの流れは、発注前に契約書または発注書を作成し、フリーランスに明示し、業務開始後は変更点を記録し、納品後は速やかに検収し、支払期日前に経理処理を完了することです。

8-4. 契約変更・追加発注時の対応方法

契約変更や追加発注が発生した場合は、口頭で済ませず、必ず記録に残します。変更内容、追加報酬、納期、支払期日、既存契約への影響を明示しましょう。

特に、業務範囲が広がる場合、当初報酬に含まれるのか、追加費用が発生するのかを明確にすることが重要です。フリーランス側に無償対応を期待する運用は避けるべきです。

8-5. ハラスメント相談窓口と社内研修の整備

発注者は、フリーランスからのハラスメント相談を受け付ける窓口を整備しましょう。窓口は、社内従業員向けのハラスメント窓口と兼用することも考えられますが、フリーランスが利用できることを明示しておく必要があります。

また、現場担当者や発注担当者に対して、フリーランスもハラスメント対策の対象であることを研修で周知しましょう。メールやチャットでの威圧的な指示、深夜休日の過度な連絡、性的・人格否定的な発言なども問題になり得ます。

8-6. 既存契約を見直すときの確認ポイント

既存契約を見直す際は、支払サイトが60日を超えていないか、検収条件が曖昧でないか、追加作業の扱いが明確か、中途解除や不更新の予告期間が定められているか、ハラスメント相談窓口が記載されているか、育児介護等への配慮の申出方法が整っているかを確認しましょう。

また、募集ページ、採用媒体、SNS投稿、業務委託マッチングサービス上の表示も見直し、実際の契約条件とズレがないか確認することが重要です。

9. 違反した場合のリスクと罰則

フリーランス新法や取適法に違反した場合、発注者には行政上・金銭上・信用上のリスクが生じます。単なる契約トラブルでは済まない可能性があります。

9-1. 行政指導・助言・勧告・命令の流れ

フリーランス新法では、公正取引委員会、中小企業庁長官、厚生労働大臣が、違反行為について助言、指導、報告徴収、立入検査、勧告、公表、命令を行うことができます。

最初は助言や指導であっても、改善が見られない場合や重大な違反がある場合には、勧告や命令、公表につながる可能性があります。

9-2. 企業名公表や罰金のリスク

違反行為が勧告や命令の対象となると、企業名が公表されるリスクがあります。また、命令違反や検査拒否等には、50万円以下の罰金が科される可能性があり、法人両罰規定もあります。

罰金額だけを見ると大きくないと感じるかもしれませんが、企業名公表による信用低下、採用・広報・取引先審査への影響、フリーランス人材から敬遠されるリスクは無視できません。

9-3. フリーランスから申出があった場合の対応

フリーランスは、発注者に法律違反と思われる行為があった場合、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省にその旨を申し出ることができます。

発注者は、申出をしたことを理由に契約終了、発注停止、報酬引き下げなどの不利益取扱いをしてはいけません。申出があった場合は、事実関係を確認し、必要に応じて未払いの支払い、契約条件の是正、社内フローの改善を行うべきです。

9-4. トラブルを放置した場合の信用低下リスク

フリーランスとのトラブルは、SNSや口コミ、業界内の評判として広がることがあります。特にクリエイティブ、IT、メディア、スタートアップ業界では、発注者の評判が次の採用や外部人材確保に影響しやすい傾向があります。

報酬未払い、急な契約打ち切り、無償修正の強要、ハラスメント対応の不備は、短期的にはコスト削減に見えても、中長期的には優秀な外部人材との関係構築を難しくします。

9-5. 違反を防ぐために社内で共有すべきこと

違反を防ぐには、法務部や経理部だけでなく、現場の発注担当者にルールを共有することが重要です。実際にフリーランスへ依頼するのは、マーケティング部、開発部、制作部、人事部、営業部などの現場担当者であることが多いためです。

社内では、「発注前に条件を明示する」「納品後に一方的に減額しない」「追加作業は追加契約にする」「支払期日を守る」「ハラスメント相談を放置しない」「契約終了は早めに通知する」という基本ルールを徹底しましょう。

10. フリーランス側が知っておくべきポイント

フリーランス側も、自分を守るためにフリーランスガイドラインやフリーランス新法の基本を知っておくことが大切です。法律は発注者だけでなく、受注者が取引条件を確認し、問題が起きたときに適切に対応するためにも役立ちます。

10-1. 契約前に確認すべき取引条件

契約前には、業務内容、成果物、納期、報酬額、支払期日、支払方法、検収基準、修正回数、追加作業の扱い、著作権や知的財産権、契約期間、解除条件を確認しましょう。

特に、報酬と支払期日は重要です。「納品月の翌々月末払い」などの表現が、実際に受領日から60日を超えないか確認してください。

10-2. 報酬未払い・減額があったときの対処法

報酬未払いがあった場合は、まず契約書、発注書、メール、チャット、納品記録、請求書を整理します。そのうえで、発注者に支払期日や未払い金額を明示して連絡します。

一方的な減額を受けた場合は、減額理由を確認し、合意していない減額であることを伝えましょう。振込手数料を勝手に差し引かれた場合も、報酬減額として問題になる可能性があります。

10-3. ハラスメントや一方的な契約解除への対応

ハラスメントを受けた場合は、日時、場所、相手、発言内容、チャット履歴、メール、録音メモなどを記録しましょう。発注者に相談窓口がある場合は、窓口に連絡します。

6か月以上の継続取引を突然終了された場合は、30日前予告の対象にならないか、理由開示を求められないか確認しましょう。契約解除の有効性や損害賠償は民事上の問題になることもあるため、必要に応じて専門家に相談することが大切です。

10-4. フリーランス・トラブル110番などの相談先

フリーランス・個人事業主は、契約上・仕事上のトラブルについて、弁護士に無料で相談できる「フリーランス・トラブル110番」を利用できます。厚生労働省のページでも、令和2年11月から設置されている相談窓口として案内されています。

また、フリーランス新法の違反が疑われる場合は、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省への申出窓口もあります。

10-5. 発注者に確認してよいこと・記録しておくべきこと

フリーランスは、発注者に対して、業務内容、報酬、支払期日、検収条件、追加作業の扱いを確認して構いません。むしろ、曖昧なまま受けると後で不利になりやすいため、契約前に確認することが重要です。

記録しておくべきものは、募集情報のスクリーンショット、契約書、発注書、メール、チャット、納品データ、検収連絡、請求書、支払い履歴です。クラウドサービス上のメッセージは削除される可能性もあるため、必要に応じてスクリーンショットやPDFで保存しておきましょう。

11. よくある質問

11-1. フリーランスガイドラインは個人事業主すべてに適用される?

フリーランスガイドラインは、広くフリーランスと発注者の取引に関する考え方を整理するものです。ただし、フリーランス新法や取適法の具体的な適用対象になるかは、相手が従業員を使用しているか、発注者の属性、取引内容、契約期間などによって異なります。

個人事業主であっても、従業員を使用している場合はフリーランス新法上の特定受託事業者に該当しないことがあります。一方、副業で業務委託を受ける会社員でも、その副業の範囲では対象になり得ます。

11-2. フリーランス新法と取適法はどちらを優先すべき?

フリーランスが取適法上の中小受託事業者にも該当し、発注者の行為が両法に違反する場合は、原則としてフリーランス新法が優先適用されるとされています。

ただし、実務上は「どちらか一方だけ見ればよい」と考えるべきではありません。明示事項、支払条件、禁止行為について、両法を満たす形で契約書・発注書・社内フローを整備するのが安全です。

11-3. 業務委託契約書があれば取引条件の明示は十分?

契約書に必要な事項がすべて記載され、個別発注の内容も明確であれば、取引条件の明示として機能します。しかし、基本契約書だけでは、個別案件ごとの業務内容、納期、報酬、支払期日が分からない場合があります。

その場合は、個別発注書、メール、チャットなどで、案件ごとの条件を明示する必要があります。重要なのは、「契約書があるか」ではなく、「法律上必要な条件が、業務委託時に具体的に明示されているか」です。

11-4. 請求書を受け取ってから60日以内に支払えばよい?

原則として違います。フリーランス新法では、特定受託事業者の給付を受領した日から60日以内のできる限り短い期間内で支払期日を定め、支払う必要があります。

したがって、「請求書を受け取ってから60日以内」とする運用では、給付受領日から見ると60日を超える可能性があります。請求書提出のタイミングにかかわらず、受領日を基準に支払管理を行うことが大切です。

11-5. 継続案件を途中で終了する場合はどうすればよい?

6か月以上の業務委託を中途解除する場合や不更新とする場合は、原則として30日前までに予告する必要があります。理由を求められた場合は、理由開示も必要です。

実務では、契約書に解除・不更新の条件を定め、終了判断をしたら早めに通知し、未払い報酬や納品済み成果物の扱いを整理しましょう。突然の打ち切りは、法的リスクだけでなく信用リスクも高くなります。

11-6. 発注者がフリーランスの場合も義務はある?

発注者自身がフリーランスで、従業員を使用していない場合でも、フリーランスに業務委託するなら「業務委託事業者」として取引条件の明示義務があります。一方で、従業員を使用していない発注者は、通常「特定業務委託事業者」には該当しないため、報酬支払い義務や就業環境整備義務などの適用範囲は異なります。

ただし、法律上の義務範囲が限定されるとしても、契約条件を明示し、期日どおりに支払い、追加作業は協議するという基本は変わりません。

まとめ

フリーランスガイドラインは、フリーランスと発注者の取引について、フリーランス新法、独占禁止法、取適法、労働関係法令の関係を整理し、問題行為を明確にするための重要な指針です。2026年時点では、フリーランス新法の施行に加えて、旧下請法から取適法への改正も踏まえて実務対応を見直す必要があります。

発注者が特に守るべきポイントは、取引条件を明示すること、報酬を原則60日以内に支払うこと、受領拒否や一方的な減額をしないこと、募集情報を正確に表示すること、育児介護等への配慮やハラスメント対策を整えること、継続取引の中途解除や不更新では事前予告と理由開示を行うことです。

フリーランスへの発注は、スピードや柔軟性が魅力ですが、口頭発注や曖昧な条件のまま進めると大きなトラブルにつながります。契約書・発注書・メール・チャットで条件を明確にし、変更や追加作業は都度合意し、支払いと相談対応の社内フローを整えることが、発注者とフリーランスの双方にとって安全で公正な取引につながります。