フリーランスの保険証はどうなる?退職後の切り替え手続きと注意点を解説

はじめに

会社員からフリーランスになるとき、多くの人が不安に感じるのが「保険証はどうなるのか」という点です。会社員時代は勤務先が健康保険の手続きをしてくれますが、フリーランスになると、退職後の健康保険は自分で選び、自分で手続きしなければなりません。

特に現在は、従来の健康保険証が新たに発行されなくなり、医療機関ではマイナ保険証または資格確認書を使う仕組みに移行しています。厚生労働省も、従来の健康保険証の有効期限は終了し、マイナ保険証を持っている人はマイナ保険証、持っていない人は資格確認書を提示するよう案内しています。

この記事では、フリーランスの保険証が退職後にどうなるのか、国民健康保険・任意継続・家族の扶養の違い、切り替え手続きの期限や注意点をわかりやすく解説します。

1. フリーランスになると保険証はどうなる?

1-1. 会社員時代の健康保険証は退職後に使えなくなる

会社員時代に使っていた健康保険は、勤務先を通じて加入している健康保険です。退職すると、その会社の健康保険の被保険者資格を失うため、退職日の翌日以降は会社員時代の保険資格では受診できません。

手元に資格確認書や古い健康保険証が残っていたとしても、退職後にそのまま使うのは避けましょう。資格がない状態で使ってしまうと、後日、健康保険組合や協会けんぽから医療費の返還を求められる可能性があります。

フリーランスになる場合、「会社を辞めたら自動的に国民健康保険に切り替わる」と考えてしまいがちですが、自動では切り替わりません。退職後は、次に加入する健康保険を選び、必要な手続きを行う必要があります。

1-2. 退職後は自分で健康保険の切り替え手続きが必要

退職後に選べる主な健康保険は、国民健康保険、退職前の健康保険の任意継続、家族の健康保険の扶養の3つです。協会けんぽも、退職後の健康保険の選択肢として「健康保険任意継続」「国民健康保険」「家族の健康保険の被扶養者」を案内しています。

どれを選ぶかによって、手続き先、期限、保険料、扶養家族の扱いが変わります。フリーランスとして独立する人は、退職直後の収入見込みだけでなく、前年の所得、家族構成、扶養に入れる可能性、今後の売上見込みを踏まえて選ぶことが大切です。

1-3. 保険証がない期間を作らないために退職前から準備すること

保険証がない期間を作らないためには、退職前から次の準備をしておきましょう。

まず、退職日を確認します。健康保険の資格喪失日は原則として退職日の翌日です。次に、会社から健康保険資格喪失証明書や退職証明書をいつ受け取れるか確認しておきます。国民健康保険や国民年金の手続きでは、退職日や資格喪失日がわかる書類を求められることがあります。

また、任意継続を検討する場合は、退職日の翌日から20日以内という短い期限があります。郵送の場合は必着で扱われることもあるため、退職してから調べ始めると間に合わない可能性があります。

家族の扶養に入りたい場合は、家族の勤務先や健康保険組合に事前確認しておきましょう。フリーランスの収入は給与と違い、売上や経費の考え方が健康保険組合によって異なる場合があるためです。

1-4. マイナ保険証・資格確認書で受診する場合の基本

現在は、医療機関での資格確認はマイナ保険証を基本とする仕組みに移行しています。マイナ保険証とは、健康保険証利用登録をしたマイナンバーカードのことです。厚生労働省は、マイナ保険証を持っていない人などには、当分の間、資格確認書が無償で交付されると案内しています。

ただし、マイナ保険証を持っていれば健康保険の切り替え手続きが不要になるわけではありません。マイナンバーカードはあくまで資格確認のための手段であり、国民健康保険への加入、任意継続の申請、扶養認定などの手続きは別途必要です。

退職後すぐに病院へ行く予定がある人は、切り替え手続きの進捗に加えて、マイナポータルで健康保険の資格情報が反映されているか確認しておくと安心です。

2. フリーランスが退職後に選べる健康保険の選択肢

2-1. 国民健康保険に加入する

フリーランスになる人にとって最も一般的な選択肢が、国民健康保険です。国民健康保険は、会社の健康保険や後期高齢者医療制度などに加入していない住民を対象とする医療保険制度です。厚生労働省は、国民健康保険を「他の医療保険制度に加入していない全ての住民」を対象とする制度と説明しています。

国民健康保険は、住んでいる市区町村で手続きします。保険料は自治体ごとに異なり、前年の所得、世帯人数、年齢などによって決まります。会社員時代と違い、会社負担分がないため、退職後に「思ったより高い」と感じる人も少なくありません。

一方で、退職後の収入が下がった場合や、倒産・解雇・雇い止めなど一定の事情がある場合は、保険料の軽減や減免を受けられる可能性があります。該当しそうな場合は、市区町村の窓口で確認しましょう。

2-2. 会社の健康保険を任意継続する

任意継続とは、退職前に加入していた健康保険を、退職後も一定期間継続できる制度です。協会けんぽの場合、退職日までに被保険者期間が継続して2か月以上あり、退職日の翌日から20日以内に手続きすることが条件とされています。

任意継続を選ぶと、退職前と同じ健康保険に加入し続けられるため、給付内容や手続きに慣れている点がメリットです。扶養家族がいる場合、条件を満たせば家族を被扶養者として扱えることもあります。

ただし、保険料は原則として退職前に給与から控除されていた健康保険料の2倍程度になります。会社員時代は会社が半分を負担していましたが、任意継続ではその分も自分で負担するためです。協会けんぽでは、保険料は退職前に控除されていた保険料を2倍した額になると案内していますが、上限や都道府県差により必ずしも単純に2倍とは限りません。

2-3. 家族の健康保険の扶養に入る

配偶者や親など、家族が会社員として健康保険に加入している場合、その家族の被扶養者になれる可能性があります。扶養に入ると、自分で健康保険料を負担せずに健康保険を利用できるため、退職直後の収入が少ない人には大きなメリットがあります。

ただし、フリーランスでも無条件で扶養に入れるわけではありません。日本年金機構は、被扶養者の収入要件として、年間収入130万円未満、60歳以上または障害者の場合は180万円未満などの基準を示しています。また、同居の場合は収入が扶養者の収入の半分未満、別居の場合は仕送り額未満であることも要件です。

フリーランスの場合、収入の判定で「売上を見るのか」「経費を差し引いた所得を見るのか」「どの経費が認められるのか」が健康保険組合によって異なることがあります。扶養に入りたい場合は、家族の勤務先を通じて、具体的な判定方法を事前に確認しましょう。

2-4. 業種別・団体経由の健康保険を検討する

フリーランスの職種によっては、業種別の国民健康保険組合に加入できる場合があります。国民健康保険には、市区町村が運営する市町村国保と、業種ごとに組織される国民健康保険組合があります。

たとえば、文芸美術国民健康保険組合は、文芸美術および著作活動に従事する個人事業主で、組合加盟団体の会員である人などを対象としています。

国保組合は、所得が高くなるほど市区町村の国民健康保険より有利になるケースもありますが、加入できる職種や団体、必要書類、審査基準が限られます。クリエイター、建設業、士業、医療関係など、該当する業種で活動する場合は、自分が加入できる組合があるか調べてみる価値があります。

2-5. どの選択肢が自分に合うか比較するポイント

健康保険を選ぶときは、次のポイントで比較しましょう。

保険料を重視するなら、国民健康保険料の試算、任意継続の保険料、扶養に入れるかを確認します。扶養家族がいる場合は、任意継続で家族を扶養にできるか、国民健康保険では家族それぞれに保険料がかかるかを比較します。

手続き期限も重要です。国民健康保険は14日以内、任意継続は20日以内が目安です。扶養は家族の勤務先で認定を受ける必要があり、書類確認に時間がかかる場合があります。

また、退職直後だけでなく翌年以降の保険料も見ましょう。国民健康保険料は前年所得をもとに計算されるため、退職初年度は会社員時代の所得が反映されて高くなり、翌年以降に下がることがあります。

3. 国民健康保険に切り替える手続き

3-1. 国民健康保険への加入期限

国民健康保険への加入手続きは、原則として国民健康保険の被保険者となった日から14日以内に行います。厚生労働省は、国民健康保険の被保険者となったときや脱退するときは、14日以内に市町村の国民健康保険窓口へ関係書類を提出する必要があると案内しています。

退職してフリーランスになる場合、一般的には退職日の翌日から国民健康保険の加入対象になります。退職日が月末か月中かによって保険料の発生月に影響することもあるため、不明点は市区町村に確認しましょう。

3-2. 手続きする場所

手続き先は、住民票がある市区町村の国民健康保険担当窓口です。自治体によっては、窓口だけでなく郵送やオンライン申請に対応している場合もあります。

引っ越しを伴う退職の場合は、住民票を移すタイミングにも注意しましょう。国民健康保険は自治体ごとに運営されているため、手続き先は実際に住民票を置く市区町村になります。

3-3. 必要書類

国民健康保険への加入で必要になることが多い書類は、本人確認書類、マイナンバーが確認できる書類、健康保険資格喪失証明書、退職証明書、離職票などです。

特に重要なのが、退職前の健康保険の資格を失ったことがわかる書類です。会社からの発行が遅れる場合は、市区町村に代替書類で手続きできるか確認しましょう。

マイナ保険証を使う場合でも、国民健康保険への加入手続き自体は必要です。資格確認書を希望する場合や、マイナ保険証を持っていない場合は、窓口で交付方法を確認しておくと安心です。

3-4. 保険料の決まり方

国民健康保険料は、市区町村によって計算方法や料率が異なります。一般的には、前年の所得に応じてかかる所得割、加入者数に応じてかかる均等割、世帯ごとにかかる平等割などで構成されます。

フリーランスになった直後は、まだ売上が少なくても、前年の会社員時代の所得をもとに保険料が計算されるため、負担が大きくなることがあります。退職前に市区町村の試算サービスや窓口で概算を確認しておくと、資金計画を立てやすくなります。

3-5. 加入が遅れた場合の注意点

国民健康保険の加入手続きが遅れても、資格が発生する日までさかのぼって加入するのが原則です。そのため、手続きが遅れた期間の保険料もまとめて請求される可能性があります。

また、手続き前に医療機関を受診すると、いったん全額自己負担になることがあります。その後、療養費の申請で自己負担分との差額が戻るケースもありますが、書類手続きが増えてしまいます。

退職後に通院予定がある人、持病がある人、家族の受診予定がある人は、退職後すぐに手続きを進めましょう。

4. 任意継続を選ぶ場合の手続き

4-1. 任意継続を利用できる条件

任意継続を利用するには、退職前に一定期間、健康保険の被保険者であったことが必要です。協会けんぽの場合は、退職日までに被保険者期間が継続して2か月以上あることが条件です。

勤務先の健康保険が協会けんぽではなく健康保険組合の場合、細かな手続きや書類が異なることがあります。退職前に会社の人事・総務、または加入している健康保険組合に確認しましょう。

4-2. 申請期限と手続き先

協会けんぽの任意継続は、退職日の翌日から20日以内に「健康保険任意継続被保険者資格取得申出書」を提出します。20日目が土日祝日の場合は翌営業日ですが、郵送では20日以内に必着するよう案内されています。

手続き先は、協会けんぽであれば住んでいる都道府県の協会けんぽ支部です。健康保険組合の場合は、その組合が指定する窓口に提出します。

この期限を過ぎると、原則として任意継続を選べなくなるため、迷っている場合でも早めに保険料を試算し、国民健康保険と比較しましょう。

4-3. 任意継続の保険料

任意継続の保険料は、会社員時代より高くなるのが一般的です。会社員時代は健康保険料を会社と本人で分担していましたが、任意継続では会社負担がなくなり、全額を自分で支払うためです。

協会けんぽでは、保険料は退職前に控除されていた保険料を2倍した額と案内されています。ただし、上限があることや、都道府県が異なる場合などにより、必ずしも単純な2倍にならない場合があります。

40歳以上65歳未満の人は介護保険料も加わるため、試算時には健康保険料だけでなく介護保険料も含めて確認しましょう。

4-4. 任意継続のメリット

任意継続のメリットは、退職前と同じ健康保険に加入し続けられる点です。給付内容や手続き窓口が大きく変わらないため、退職直後でも安心感があります。

また、扶養家族がいる場合、条件を満たせば家族を被扶養者として継続できる可能性があります。国民健康保険では扶養という考え方がなく、家族の人数に応じて保険料が増えるため、扶養家族が多い人は任意継続のほうが有利になることがあります。

さらに、前年所得が高く、国民健康保険料が高額になりやすい人にとっては、任意継続の保険料上限が有利に働く場合があります。

4-5. 任意継続のデメリットと注意点

任意継続のデメリットは、保険料の負担が重くなりやすいことです。会社負担がなくなるため、退職前の給与明細で見ていた健康保険料より高く感じるでしょう。

また、保険料の納付期限に遅れると資格を失う可能性があります。フリーランスは収入が不安定になりやすいため、納付スケジュールを管理しておくことが重要です。

任意継続は最長2年間ですが、その間ずっと有利とは限りません。独立後に所得が下がった場合、翌年度以降は国民健康保険のほうが安くなる可能性があります。

4-6. 任意継続をやめるタイミング

協会けんぽの任意継続は、被保険者期間が2年間とされており、就職して他の健康保険に加入したとき、保険料を納付期限までに納付しなかったとき、後期高齢者医療制度に加入したとき、本人が亡くなったとき、任意継続をやめる旨を申し出たときなどに資格を喪失します。

フリーランスとして独立した後、所得が下がって国民健康保険のほうが安くなる場合は、翌年度の保険料通知を見て見直すのも一つの方法です。ただし、任意継続をやめた後に再加入することは原則としてできないため、切り替え前に保険料と手続き日をよく確認しましょう。

5. 家族の扶養に入る場合の条件と注意点

5-1. フリーランスでも扶養に入れるケース

フリーランスでも、収入見込みが一定基準を下回り、家族に主として生計を維持されていると認められれば、家族の健康保険の扶養に入れる場合があります。

たとえば、退職後しばらく売上が少ない人、開業準備中で収入がほとんどない人、副業程度で事業を始める人は、扶養に入れる可能性があります。

ただし、扶養に入れるかどうかは、家族が加入している健康保険の保険者が判断します。自己判断で「年収が少ないから大丈夫」と決めつけず、必ず勤務先や健康保険組合に確認しましょう。

5-2. 収入要件と事業所得の考え方

被扶養者の収入要件は、一般的に年間収入130万円未満が目安です。日本年金機構は、年間収入は過去の収入ではなく、被扶養者に該当する時点および認定日以降の年間見込み収入額だと説明しています。

フリーランスの場合、ここでいう収入の考え方が重要です。税金の計算では、売上から必要経費を差し引いて事業所得を計算します。一方、社会保険の扶養認定では、税法上の所得とは異なる基準で判断される場合があります。

青色申告特別控除や減価償却費などが、扶養認定上の経費として認められるとは限りません。売上が少ないうちは問題なくても、継続的に収入が増える見込みになった時点で扶養から外れる必要が出てくることがあります。

5-3. 扶養に入るための手続き

扶養に入る手続きは、自分ではなく、家族の勤務先を通じて行うのが一般的です。必要書類としては、被扶養者異動届、退職証明書、収入見込みを示す書類、開業届の控え、確定申告書の控え、売上や経費がわかる資料などを求められることがあります。

退職直後でまだ確定申告書がない場合は、今後の収入見込みを説明する書類を提出することもあります。必要書類は健康保険組合によって異なるため、早めに確認しましょう。

5-4. 開業届を出している場合の注意点

開業届を出していても、それだけで必ず扶養に入れないわけではありません。しかし、健康保険組合によっては、個人事業主として継続的に事業を行っていることを重く見る場合があります。

特に、開業届を提出済みで、事業用サイトやSNS、請求書、契約書などから継続収入が見込まれる場合は、扶養認定が慎重に判断されることがあります。

扶養に入る予定がある人は、開業届の提出時期、売上見込み、経費の扱いを家族の勤務先に相談したうえで進めると安心です。

5-5. 扶養から外れるタイミング

扶養から外れるタイミングは、年末に確定申告をしたときだけではありません。今後1年間の収入見込みが基準を超えると判断される時点で、扶養から外れる必要が出てくる場合があります。

たとえば、継続契約が決まって月額報酬が増えた、売上が安定して月収が一定額を超えるようになった、事業規模が拡大したといった場合は、早めに家族の勤務先へ相談しましょう。

扶養から外れたら、国民健康保険への加入や国民年金第1号被保険者への切り替えが必要になります。

6. 国民健康保険・任意継続・扶養の比較

6-1. 保険料で比較する

保険料だけで比較すると、扶養に入れる場合は本人の健康保険料負担がないため、最も負担が軽くなる可能性があります。次に、任意継続と国民健康保険を比較します。

任意継続は退職時の標準報酬月額をもとに計算され、上限があります。一方、国民健康保険は前年所得や世帯人数、自治体の料率によって決まります。

前年の所得が高い人、扶養家族が多い人は任意継続が有利になることがあります。退職後の所得が少なく、翌年度以降の所得も低い見込みであれば、国民健康保険のほうが有利になることもあります。

6-2. 扶養家族の有無で比較する

扶養家族がいる場合は、任意継続と国民健康保険の差が大きくなりやすいです。任意継続では、条件を満たした家族を被扶養者にできる場合があります。一方、国民健康保険には扶養の仕組みがなく、家族それぞれが加入者として扱われます。

配偶者や子どもを扶養している人は、国民健康保険にした場合の世帯全体の保険料を必ず確認しましょう。本人分だけで比較すると、判断を誤る可能性があります。

6-3. 手続き期限で比較する

手続き期限は、選択肢によって異なります。国民健康保険は14日以内、任意継続は20日以内が目安です。扶養は家族の勤務先を通じて認定を受けるため、会社や健康保険組合の処理日数も考慮する必要があります。

任意継続は期限を過ぎると選べなくなる可能性が高いため、少しでも検討しているなら退職前に保険料を確認しておきましょう。

6-4. 保障内容や給付で比較する

医療機関での自己負担割合は、どの健康保険でも年齢や所得区分に応じて決まるため、大きな違いはありません。ただし、傷病手当金や出産手当金、付加給付、人間ドック補助などは、加入する健康保険によって差が出ることがあります。

国民健康保険では、会社員向けの健康保険にある傷病手当金や出産手当金が原則としてない、または限定的な場合があります。退職後すぐに出産予定がある人、持病で働けないリスクがある人は、給付内容も確認しましょう。

6-5. 退職直後と翌年以降で見直すべき理由

退職直後に最適な健康保険が、翌年以降も最適とは限りません。国民健康保険料は前年所得をもとに計算されるため、退職初年度は高く、翌年度は下がることがあります。

一方、任意継続は最長2年間利用できますが、途中で国民健康保険のほうが安くなる可能性もあります。退職した年、翌年、事業が軌道に乗った年で、保険料や家族構成を見直すことが大切です。

7. フリーランスが保険証の切り替えで失敗しやすい注意点

7-1. 退職後も会社の保険証を使ってしまう

退職後に会社員時代の保険資格で受診してしまうのは、よくある失敗です。手元に古い保険証や資格確認書が残っていても、退職後は使えません。

もし誤って使ってしまった場合は、医療費の精算が必要になることがあります。退職日以降は、必ず新しい保険資格で受診しましょう。

7-2. 手続き期限を過ぎてしまう

国民健康保険は14日以内、任意継続は20日以内と、退職後の手続きには期限があります。特に任意継続は期限が短く、郵送の場合は到着日で判断されることがあります。

退職後は開業準備、取引先対応、失業給付の確認、年金手続きなどが重なります。健康保険の手続きは優先度を高くして進めましょう。

7-3. 国民健康保険料が想定より高くなる

フリーランスになると収入が一時的に下がることがありますが、国民健康保険料は前年所得をもとに計算されます。そのため、会社員時代に年収が高かった人ほど、退職後の国民健康保険料が高くなりやすいです。

資金繰りに影響しないよう、退職前に自治体の保険料シミュレーションや窓口で概算を確認しておきましょう。

7-4. 扶養に入れると思っていたのに条件を満たさない

フリーランスの扶養認定では、収入見込みや事業実態が確認されます。税法上の所得が少なくても、社会保険上の扶養では別の判断がされる場合があります。

「開業直後だから扶養に入れるはず」「青色申告控除を引けば130万円未満になるはず」といった自己判断は危険です。家族の勤務先や健康保険組合に、フリーランス収入の扱いを確認しましょう。

7-5. マイナ保険証の資格情報が反映されていない

マイナ保険証を使っている場合でも、退職後すぐに新しい資格情報が反映されるとは限りません。手続き直後に医療機関を受診すると、資格確認がうまくいかないことがあります。

厚生労働省は、医療機関や薬局でマイナ保険証の受付ができない場合でも、他の方法で資格確認を行い、適切な自己負担割合で保険診療を受けられると案内しています。

受診予定がある場合は、資格確認書、資格情報のお知らせ、マイナポータルの資格情報画面など、医療機関で確認に使えるものを持参すると安心です。

7-6. 病院に行く予定があるのに切り替えを後回しにする

退職後すぐに通院、歯科治療、薬の処方、出産関連の受診などがある場合、健康保険の切り替えを後回しにすると不便です。

いったん10割負担になった場合、後日払い戻し手続きが必要になることがあります。医療費が高額になると、一時的な立て替え負担も大きくなります。

退職日が決まったら、受診予定と健康保険の切り替え予定をセットで確認しましょう。

8. 保険証の切り替えとあわせて必要な手続き

8-1. 厚生年金から国民年金への切り替え

会社員を退職してフリーランスになる場合、健康保険だけでなく年金の切り替えも必要です。厚生年金に加入しなくなるため、原則として国民年金第1号被保険者になります。

日本年金機構は、20歳以上60歳未満で厚生年金に加入していない人は国民年金の第1号被保険者または第3号被保険者になると案内しており、第1号被保険者の手続き期限は退職日の翌日から14日以内です。

国民健康保険の手続きと同じ市区町村窓口で対応できることも多いため、同時に済ませると効率的です。

8-2. 開業届や青色申告承認申請書の提出

フリーランスとして事業を始める場合は、税務署へ開業届を提出します。青色申告をしたい場合は、青色申告承認申請書も期限内に提出しましょう。

青色申告を利用すると、一定の要件を満たすことで青色申告特別控除を受けられ、帳簿管理や赤字の繰越などでもメリットがあります。ただし、健康保険の扶養認定では、青色申告特別控除が収入判定上そのまま考慮されるとは限らない点に注意が必要です。

8-3. 所得税・住民税・社会保険料の支払い準備

フリーランスになると、所得税、住民税、国民健康保険料、国民年金保険料を自分で管理して支払います。会社員時代は給与天引きだったため意識しにくいですが、独立後はまとまった請求が届くことがあります。

特に住民税は前年所得をもとに課税されるため、退職後に収入が減っていても負担が大きく感じられることがあります。事業用口座や納税用の積立口座を分けておくと、資金繰りが安定しやすくなります。

8-4. 医療費控除や確定申告に備えた管理

フリーランスは確定申告が必要になるため、医療費や社会保険料の支払い記録を管理しておきましょう。国民健康保険料や任意継続の保険料、国民年金保険料は、事業の経費ではなく社会保険料控除の対象です。

国税庁は、社会保険料控除の対象として、健康保険、国民年金、国民健康保険の保険料または国民健康保険税などを挙げています。

医療費控除を受ける場合は、医療費通知、領収書、交通費の記録なども保管しておきましょう。

8-5. 収入が不安定な場合に確認したい減免制度

フリーランスは収入が安定しないことがあります。退職、廃業、災害、病気、失業などで収入が大きく減った場合、国民健康保険料や国民年金保険料の減免・免除・猶予制度を利用できる可能性があります。

国民健康保険の減免は自治体によって基準が異なるため、納付が難しいと感じたら放置せず、市区町村の窓口に相談しましょう。滞納すると延滞金や差し押さえにつながることもあるため、早めの相談が重要です。

9. フリーランスの保険証に関するよくある質問

9-1. 退職後すぐに病院へ行きたい場合はどうする?

退職後すぐに病院へ行く予定がある場合は、退職前から健康保険の切り替え準備をしておきましょう。国民健康保険に入るなら、市区町村で必要書類を確認します。任意継続にするなら、申請書の提出期限を確認します。扶養に入るなら、家族の勤務先に必要書類を確認します。

受診日までに資格確認が間に合わない場合は、医療機関に事情を説明し、後日資格確認ができた時点で精算できるか相談しましょう。

9-2. 保険証が届く前でも医療機関を受診できる?

受診自体はできます。ただし、医療機関で資格確認ができない場合、一時的に全額自己負担になることがあります。その後、加入している健康保険に療養費を申請することで、自己負担割合を超える分が戻る場合があります。

マイナ保険証を利用している場合でも、資格情報の反映に時間がかかることがあります。資格確認書や資格情報のお知らせがある場合は、あわせて持参しましょう。

9-3. マイナ保険証があれば切り替え手続きは不要?

不要ではありません。マイナ保険証は、健康保険の資格を確認するための手段です。退職後に国民健康保険へ加入する、任意継続を申請する、家族の扶養に入るといった手続きは別途必要です。

手続きをしていなければ、マイナ保険証を持っていても新しい健康保険資格は反映されません。

9-4. 任意継続と国民健康保険はあとから変更できる?

任意継続から国民健康保険へ切り替えられるケースはありますが、任意継続をやめるタイミングや資格喪失日は保険者のルールに従う必要があります。

一方、国民健康保険に加入した後で任意継続に入り直すことは、申請期限を過ぎていると難しいのが一般的です。退職直後にどちらを選ぶかは、期限内に慎重に判断しましょう。

9-5. フリーランスは社会保険に入れない?

フリーランス本人は、会社員のように勤務先の社会保険へ加入するのが一般的ではありません。そのため、多くの場合は国民健康保険と国民年金に加入します。

ただし、法人を設立して役員報酬を受け取る場合や、従業員を雇って社会保険の適用事業所になる場合は、健康保険・厚生年金に加入するケースがあります。また、家族の扶養に入る場合は、家族の健康保険の被扶養者として扱われます。

9-6. 保険料を経費にできる?

国民健康保険料、任意継続の保険料、国民年金保険料は、事業の必要経費ではなく、原則として社会保険料控除の対象です。確定申告では、事業所得の経費欄ではなく、所得控除として申告します。

一方、従業員を雇って事業主として負担する社会保険料などは、事業に関係する費用として扱う場合があります。自分本人の保険料と、事業主として支払う保険料は区別して管理しましょう。

まとめ

フリーランスになると、会社員時代の健康保険資格は退職後に使えなくなります。退職後は、国民健康保険、任意継続、家族の扶養、業種別の国民健康保険組合などから、自分に合った健康保険を選び、期限内に手続きすることが必要です。

国民健康保険は市区町村で14日以内、任意継続は退職日の翌日から20日以内が目安です。扶養に入る場合は、年間収入の見込みや事業所得の扱いを、家族の勤務先や健康保険組合に確認しましょう。

また、現在はマイナ保険証や資格確認書で受診する仕組みに移行していますが、マイナ保険証があるだけで切り替え手続きが不要になるわけではありません。退職前から必要書類、保険料、受診予定を確認し、保険証の空白期間を作らないよう準備することが大切です。