フリーランスに残業代は出る?請求できるケースと労働者性の判断基準を解説

はじめに

フリーランスとして働いているものの、取引先から長時間の作業を求められ、「会社員と同じように残業代を請求できないのだろうか」と疑問を感じる人は少なくありません。

結論からいうと、一般的なフリーランスには、労働基準法上の残業代は発生しません。フリーランスは通常、会社と雇用契約ではなく、請負契約や準委任契約などの業務委託契約を締結しているからです。

ただし、契約書に「業務委託」「個人事業主」と書かれていても、実際には会社の指揮命令を受け、勤務時間や働く場所を管理されている場合があります。このようなケースでは、労働基準法上の「労働者」と判断され、未払い残業代を請求できる可能性があります。厚生労働省も、労働者に該当するかどうかは契約の名称ではなく、実際の働き方を踏まえて総合的に判断するとしています。厚生労働省+1

本記事では、フリーランスに残業代が出るケース、労働者性の判断基準、必要な証拠、請求の進め方について解説します。

1. フリーランスに残業代は出る?まず結論を解説

1-1. 原則としてフリーランスに残業代は発生しない

フリーランスは、自らの裁量と責任で事業を行う独立した事業者として扱われるのが原則です。そのため、労働基準法が定める労働時間や休日、割増賃金に関する規定は通常適用されません。

たとえば、成果物を30万円で納品する請負契約を締結した場合、完成までに50時間かかったとしても、100時間かかったとしても、原則として報酬は30万円です。作業時間が想定より長くなっただけでは、会社員のような残業代が自動的に加算されるわけではありません。

もっとも、契約に「月160時間を超えた場合は1時間につき〇円を追加する」などの規定があれば、労働基準法上の残業代ではなく、契約に基づく追加報酬を請求できます。

1-2. ただし「労働者」と判断される場合は残業代を請求できる

名目上はフリーランスでも、実際の働き方が雇用されている従業員と変わらない場合、労働基準法上の労働者と判断される可能性があります。

労働者と認められれば、原則として1日8時間または週40時間を超えた労働について、割増賃金を請求できます。深夜や法定休日に働いていた場合には、それぞれの割増賃金も請求対象になり得ます。

ただし、「長時間働いた」という事実だけで労働者になるわけではありません。指揮命令の有無、仕事を断る自由、時間的・場所的な拘束、報酬の決め方など、複数の事情から判断されます。

1-3. 契約書の名称だけで残業代の有無は決まらない

「業務委託契約書に署名したから残業代は絶対に請求できない」というわけではありません。

労働者性は、契約書の表題や当事者が使用している呼び方ではなく、契約内容と実際の働き方から判断されます。契約書に「本契約は雇用契約ではない」「受託者は個人事業主である」と記載されていても、会社から日常的に具体的な指示を受けていた場合には、労働者性が認められる余地があります。厚生労働省+1

反対に、契約書に勤務時間が記載されていても、業務の性質上必要な連絡可能時間を定めただけで、仕事の進め方を自由に決められる場合は、直ちに労働者になるとは限りません。

1-4. 業務委託でも未払い残業代を請求できる可能性がある

業務委託契約を締結していても、実態として労働者であれば、過去の時間外労働について未払い残業代を請求できる可能性があります。

この場合、請求する側は主に次の2点を示す必要があります。

1つ目は、形式上は業務委託でも、実態として労働基準法上の労働者だったことです。2つ目は、実際に法定労働時間を超えて働いていたことです。

そのため、契約書だけでなく、勤務時間の記録、チャットでの指示、出退勤の報告、業務マニュアル、シフト表などを確保することが重要です。

2. フリーランスに残業代が出ないとされる理由

2-1. フリーランスは労働基準法上の労働者ではないのが原則

労働基準法第9条では、労働者を「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」と定めています。

一方、一般的なフリーランスは、発注者に使用されて賃金を受け取るのではなく、自ら事業を行い、委託業務の対価として報酬を受け取ります。そのため、通常は労働基準法上の労働者に該当しません。厚生労働省

労働者に該当しなければ、労働基準法上の法定労働時間や割増賃金の規定も適用されないのが原則です。

2-2. 業務委託契約では労働時間の管理対象になりにくい

雇用契約では、会社が労働者の始業・終業時刻を決め、労働時間を把握します。これに対し、業務委託では、受託者が作業時間や作業方法を自ら決めるのが基本です。

発注者が確認するのは、納期までに成果物が完成したか、依頼した業務が適切に遂行されたかという点であり、「何時から何時まで働いたか」ではありません。

ただし、準委任契約などでは作業時間を基準に報酬を計算することもあります。時間単価で報酬を受け取っていることだけで労働者になるわけではありませんが、労働者性を判断する一つの事情にはなります。

2-3. 報酬は成果物や業務遂行に対して支払われる

フリーランスの報酬は、成果物の完成や一定の業務遂行に対して支払われるのが一般的です。

たとえば、Webサイト制作を50万円で請け負った場合、原則として50万円はサイトを完成させることへの対価です。作業が夜間に及んだとしても、深夜割増が自動的に発生するわけではありません。

作業量が当初の想定を超えた場合は、残業代ではなく、仕様変更や追加作業に対する追加報酬を交渉することになります。

2-4. 会社員の残業代とフリーランスの追加報酬の違い

会社員の残業代は、労働基準法に基づく賃金です。法定労働時間を超えて働かせた場合、会社には一定の割増率で賃金を支払う義務があります。

これに対し、フリーランスの追加報酬は、原則として契約に基づくものです。追加報酬の金額や発生条件は、業務委託契約書、発注書、見積書、当事者間の合意などによって決まります。

したがって、労働者性が認められない場合は、「長時間働いたから残業代を請求する」のではなく、「契約範囲を超える作業を行ったため追加報酬を請求する」という整理が必要です。

3. フリーランスでも残業代を請求できるケース

3-1. 実態として会社の指揮命令下で働いているケース

会社の担当者や上司から、作業の順序、進め方、処理件数、顧客への対応方法などについて日常的かつ具体的な指示を受けている場合は、労働者性を肯定する事情になります。

単に納期や完成すべき成果物を指定されるだけでは、一般的な業務委託でもあり得ます。重要なのは、業務の完成に必要な指示を超えて、働き方そのものを細かく管理されているかどうかです。

指示に従わなかった場合に注意、叱責、評価の引下げなどを受ける状況であれば、会社への従属性が強いと判断されやすくなります。

3-2. 勤務時間や出退勤を厳格に管理されているケース

始業時刻や終業時刻が指定され、遅刻や早退について承認を求められる場合は、時間的拘束が強いといえます。

具体的には、次のような事情が考えられます。

  • 毎日9時までの出勤を義務付けられていた

  • シフトを会社側が一方的に決めていた

  • 休憩や退勤に上司の許可が必要だった

  • タイムカードや勤怠システムへの入力を求められていた

  • 欠勤すると報酬を減額された

もっとも、会議への参加時間や店舗の営業時間に合わせる必要があるだけでは、必ずしも労働者とは限りません。拘束の程度や理由を含めて総合的に判断されます。

3-3. 業務場所や作業方法を自由に決められないケース

会社のオフィスや店舗への常駐を義務付けられ、自宅や他の場所で作業することが認められていない場合は、場所的拘束を示す事情になります。

また、業務マニュアルに従うだけでなく、使用する道具、作業手順、顧客への話し方などを細かく指定されている場合も、指揮監督関係が認められやすくなります。

ただし、セキュリティ上の理由や顧客情報の管理上、作業場所が指定されているケースもあります。作業場所の指定だけで結論を出すのではなく、他の事情と合わせて判断する必要があります。

3-4. 仕事の依頼を断る自由がないケース

フリーランスは通常、採算やスケジュールを踏まえて、仕事を受けるかどうかを自ら決められます。

ところが、会社から割り当てられた仕事を事実上断れず、拒否すると契約を打ち切られたり、報酬を減らされたりする場合は、労働者性を肯定する方向に働きます。

形式上は「依頼」とされていても、実際には拒否した例がなく、断ることが許されない職場環境だった場合も、実態を示す証拠が重要になります。

3-5. 報酬が時間給・日給に近い形で支払われているケース

成果の内容にかかわらず、「1時間〇円」「1日〇円」「月160時間で〇円」といった形で報酬が支払われている場合、報酬が労務提供の対価であると評価されやすくなります。

欠勤や遅刻の時間に応じて報酬が差し引かれ、長時間働いても成果物の数や価値にかかわらず一定額が支払われていた場合は、賃金に近い性質があると考えられます。

もっとも、時間単価制の準委任契約も一般的に存在するため、時間給に近いという事情だけで労働者性が決まるわけではありません。

3-6. 会社員と同じような働き方をしているケース

正社員や契約社員と同じチームに入り、同じ上司から指示を受け、同じ時間に出退勤している場合は、実態として労働者である可能性があります。

たとえば、次のような状況です。

  • 社員と同じシフトに組み込まれている

  • 社員と同じ勤怠システムを利用している

  • 社内規則や服務規律の適用を受けている

  • 社員と同様の人事評価や業務評価を受けている

  • 独立した事業者として価格交渉する機会がない

  • 会社の名刺やメールアドレスを使い、社員として顧客対応している

ただし、名刺やメールアドレスの支給は、取引上の必要性から行われる場合もあります。複数の事情を組み合わせて検討することが大切です。

4. 残業代請求で重要になる「労働者性」の判断基準

4-1. 労働者性とは何か

労働者性とは、ある人が労働基準法上の労働者に該当する性質を備えているかという問題です。

厚生労働省は、主に「他人の指揮監督下で労務を提供しているか」と「報酬が指揮監督下で行った労働の対価として支払われているか」を判断し、これらを総称して「使用従属性」と説明しています。さらに、事業者性や専属性などの補強要素も考慮されます。厚生労働省+1

一つの項目に該当すれば直ちに労働者になるわけではなく、契約内容や就労実態を総合して判断されます。

4-2. 使用従属性の有無

使用従属性とは、発注者に使用され、従属した状態で労務を提供しているかという考え方です。

仕事の受注量、作業時間、作業場所、業務の進め方を自分で決められる場合は、独立した事業者としての性格が強くなります。一方、会社から一方的に働き方を決められ、従わなければ不利益を受ける場合は、使用従属性が認められやすくなります。

残業代請求では、この使用従属性を示す具体的な事実と証拠を整理することが重要です。

4-3. 指揮命令を受けているか

発注者から業務の遂行方法について具体的な指揮命令を受けているかが確認されます。

業務委託でも、納期、仕様、品質基準、安全上の注意事項などの指示は通常行われます。そのため、単に指示があったというだけでは不十分です。

作業の順番を毎日指定される、途中経過を細かく報告させられる、担当者の許可なしに判断できないなど、業務遂行の過程まで管理されていたかがポイントになります。

4-4. 時間的・場所的拘束があるか

始業・終業時刻、勤務日、休憩時間、作業場所が指定され、その指定に従う義務があったかを確認します。

遅刻や欠勤の際に上司への連絡や承認が必要だった場合、時間的拘束が強いと評価される可能性があります。会社の設備や店舗でなければ業務ができないという事情がある場合は、場所の指定が業務上必要だったのか、それとも労務管理のためだったのかを区別する必要があります。

4-5. 代替性が認められるか

受託者が自分の判断で別の人に業務を任せられる場合は、独立した事業者としての性格が強くなります。

反対に、本人が必ず業務を行わなければならず、代役や補助者を使うことが認められていない場合は、労働者性を補強する事情になります。

ただし、専門的な能力や本人の創作性を前提に依頼された業務では、フリーランスでも代替が認められないことがあります。そのため、代替性も単独ではなく、他の事情と合わせて評価されます。

4-6. 報酬の労務対償性があるか

労務対償性とは、報酬が仕事の成果ではなく、労働時間や労務の提供そのものに対して支払われているかという観点です。

時間給や日給に近い報酬、欠勤控除、残業時間に応じた報酬の増減などがある場合は、賃金としての性質が強いと判断される可能性があります。

一方、納品物の数量、売上、完成したプロジェクトなどに応じて報酬が決まる場合は、事業者としての報酬に近いと評価されやすくなります。

4-7. 事業者性があるか

独立した事業者として活動しているかも判断材料になります。

具体的には、次のような事情が確認されます。

  • 高額な機械や設備を自ら所有している

  • 材料費や外注費を自ら負担している

  • 業務上の損失や赤字のリスクを負っている

  • 報酬額を自ら見積もり、交渉している

  • 屋号を掲げて複数の顧客と取引している

  • 業務の効率化によって利益を増やせる

事業者性が強いほど、労働者性は否定されやすくなります。ただし、開業届を提出していることや確定申告をしていることだけで、労働者性が否定されるわけではありません。

4-8. 専属性の程度

特定の会社だけから継続的に仕事を受け、他社の業務を行うことが禁止または事実上困難だった場合は、専属性が高いといえます。

収入の大部分を1社に依存していることも判断材料の一つですが、1社専属だから必ず労働者になるわけではありません。高い専門性を持つフリーランスが長期プロジェクトに専念しているケースもあるためです。

他社案件を受ける自由があったか、競業禁止が設けられていたか、会社の勤務時間によって他の仕事ができなかったかなどを確認します。

4-9. 契約書よりも実際の働き方が重視される

労働者性の判断では、契約書の記載と実際の働き方が一致しているかが重要です。

契約書に「業務の遂行方法は受託者が自由に決定する」と書かれていても、実際には会社の上司が毎日の作業を指示していた場合、実態が重視されます。

反対に、契約書に作業時間が記載されていても、受託者が自由にスケジュールを変更でき、仕事を断ることもできた場合は、労働者性が否定される可能性があります。

5. フリーランスが請求できる可能性のある残業代の種類

5-1. 法定時間外労働の割増賃金

労働者性が認められた場合、原則として1日8時間または週40時間を超える労働には、25%以上の割増賃金が発生します。

1か月の法定時間外労働が60時間を超えた部分については、50%以上の割増率が適用されます。この50%以上の割増率は、2023年4月1日以降、中小企業にも適用されています。都道府県労働局所在地一覧+1

なお、会社が定めた所定労働時間を超えていても、法定労働時間以内であれば、労働基準法上の25%割増が必ず発生するとは限りません。契約や就業規則に基づき、通常の時間単価で賃金を請求することになります。

5-2. 深夜労働の割増賃金

午後10時から午前5時までの深夜時間帯に働いた場合、25%以上の深夜割増賃金が発生します。

法定時間外労働と深夜労働が重なった場合は、原則として時間外割増25%と深夜割増25%を合わせ、50%以上の割増になります。

月60時間を超える法定時間外労働を深夜に行った場合は、時間外割増50%以上と深夜割増25%以上を合わせ、75%以上の割増となります。厚生労働省+1

5-3. 休日労働の割増賃金

労働基準法上の法定休日に働いた場合は、35%以上の割増賃金が発生します。

会社が休日としている土曜日や祝日に働いたとしても、その日が法定休日でなければ、直ちに35%割増になるわけではありません。週40時間を超えた部分について、時間外労働として扱われる可能性があります。

法定休日労働が深夜時間帯に及んだ場合は、休日割増35%以上と深夜割増25%以上が加算され、合計60%以上の割増となります。

5-4. 固定報酬・月額報酬の場合の残業代計算

月額固定報酬を受け取っていた場合でも、労働者性が認められれば、報酬の全部または一部を賃金として時間単価に換算し、残業代を計算することがあります。

一般的な月給制では、次のような考え方で1時間当たりの賃金を算出します。

1時間当たりの賃金=割増賃金の基礎となる月給÷1か月平均所定労働時間

算出した時間単価に、対象となる労働時間と割増率を掛けて計算します。厚生労働省も、月給制では1年間における1か月平均所定労働時間数を用いる計算方法を示しています。都道府県労働局所在地一覧+1

ただし、業務委託では所定労働時間や基本給が明確でないことがあります。報酬に経費や成果報酬が含まれている場合もあるため、契約内容や支払いの実態を踏まえた個別の計算が必要です。

5-5. 未払い残業代の時効

未払い残業代を含む賃金請求権の消滅時効は、法律上5年に延長されましたが、当分の間は3年とされています。原則として、それぞれの賃金支払期日から進行します。労働チェック+1

請求の準備をしている間にも、古い残業代から順に時効が完成する可能性があります。取引先に連絡しただけで時効の問題が完全に解消されるとは限らないため、早めに弁護士などへ相談することが重要です。

6. 残業代を請求するために必要な証拠

6-1. 業務委託契約書・発注書・請求書

業務委託契約書や発注書は、契約期間、業務内容、報酬、稼働時間、作業場所などを確認する基本資料です。

請求書からは、毎月同額の報酬だったのか、時間数に応じて金額が変動していたのかを確認できます。契約更新時の書類や覚書、見積書も保管しておきましょう。

契約書に不利な記載があっても、それだけで請求を諦める必要はありません。契約書と異なる運用が行われていたことを示す資料を集めることが大切です。

6-2. 勤務時間がわかる記録

残業代を請求するためには、各日の始業時刻、終業時刻、休憩時間をできるだけ具体的に示す必要があります。

証拠になり得るものには、次のような記録があります。

  • タイムカード

  • パソコンのログイン・ログアウト履歴

  • 入退館記録

  • 業務システムへのアクセス履歴

  • カレンダーやスケジュール

  • 交通系ICカードの利用履歴

  • 日々の作業メモ

  • ファイルの作成・更新履歴

自分で作成したメモも証拠になり得ますが、毎日継続して記録され、メールやシステムログなどの客観的資料と一致しているほど信用性が高まります。

6-3. チャット・メール・業務指示の履歴

Slack、Chatwork、Teams、LINE、メールなどの履歴は、指揮命令の有無と労働時間の両方を示す重要な証拠です。

たとえば、早朝や深夜に作業指示を受けて返信していた履歴、上司から出勤時刻を指定された履歴、仕事を断った際に注意された履歴などが考えられます。

アカウントが削除されると確認できなくなる可能性があるため、必要な範囲でスクリーンショットやデータの書き出しを行い、日時や送信者が分かる状態で保存しましょう。

6-4. 勤怠管理システムや日報

会社の勤怠管理システムへの入力を求められていた場合、その記録は会社が労働時間を管理していたことを示す有力な資料になります。

業務日報、週報、作業報告書、工数表なども、実際に働いた時間や具体的な指示内容を確認するために役立ちます。

システム上の記録を自分で閲覧できるうちに、対象期間のデータを保存しておくことが重要です。ただし、営業秘密や他人の個人情報を必要以上に持ち出さないよう注意してください。

6-5. 報酬の支払い履歴

銀行口座の入金履歴、報酬明細、支払通知書などから、報酬の支払日や計算方法を確認できます。

欠勤した月だけ報酬が減っている、稼働時間に比例して報酬が支払われているといった事情は、報酬の労務対償性を示す材料になり得ます。

契約書に記載された報酬額と実際の入金額が異なる場合は、その理由が分かるメールや明細も保存しておきましょう。

6-6. 会社員と同様に働いていたことを示す資料

組織図、座席表、社員向けマニュアル、シフト表、社内連絡、評価シートなども証拠になる可能性があります。

特に、社員と同じ上司から指示を受けていたことや、同じ勤務規則の適用を受けていたことを示す資料は重要です。

同僚や元従業員の証言が役立つこともあります。ただし、証言だけに依存せず、客観的な資料と組み合わせて主張を組み立てることが望ましいでしょう。

7. フリーランスが残業代を請求する流れ

7-1. 契約内容と働き方の実態を整理する

最初に、契約書に書かれている内容と、実際の働き方を分けて整理します。

次の項目を時系列でまとめると、労働者性を検討しやすくなります。

  • 契約期間と更新の経緯

  • 業務内容

  • 誰から指示を受けていたか

  • 勤務時間と作業場所

  • 仕事を断る自由があったか

  • 報酬の計算方法

  • 他社の仕事が可能だったか

  • 道具や経費を誰が負担していたか

「会社員と同じだった」という抽象的な説明だけでなく、具体的な出来事を記録することが重要です。

7-2. 労働時間と未払い残業代を計算する

勤務記録を基に、日ごとの始業時刻、終業時刻、休憩時間を一覧にします。

そのうえで、法定時間外労働、深夜労働、法定休日労働に分けて時間数を集計します。単に契約上の稼働時間を超えた時間ではなく、労働基準法上の区分に沿って計算する必要があります。

固定報酬のうち、どの部分を割増賃金の計算基礎に含めるかによって請求額が変わるため、不明な場合は専門家に確認しましょう。

7-3. 証拠を集める

契約書、勤務記録、チャット、メール、報酬明細などを期間ごとに整理します。

証拠は原本や元データを保存し、加工した一覧表とは分けて管理するのが適切です。スクリーンショットだけでなく、可能であればメッセージの書き出しデータやメールファイルも保存します。

労働者性を示す証拠と、労働時間を示す証拠は異なるため、両方を意識して集めましょう。

7-4. 取引先に請求書や通知書を送る

請求額を計算したら、取引先に書面で支払いを求めます。

通知書には、一般的に次の内容を記載します。

  • 労働者に該当すると考える理由

  • 請求対象期間

  • 時間外・深夜・休日労働の時間数

  • 時間単価と割増率

  • 請求金額

  • 支払期限

  • 振込先

  • 回答期限

送付した事実と内容を証明できるよう、内容証明郵便や配達記録が残る方法を検討します。ただし、請求内容に誤りがあると交渉が難しくなるため、送付前に弁護士へ確認する方法もあります。

7-5. 話し合いで解決できない場合は専門家に相談する

会社が労働者性や労働時間を否定する場合、当事者だけでの解決が難しくなります。

労働者に該当する可能性があるフリーランスは、全国の労働基準監督署に設置されている「労働者性に疑義がある方の労働基準法等違反相談窓口」を利用できます。業務委託契約上のトラブルについては、フリーランス・トラブル110番などの相談先もあります。厚生労働省+2厚生労働省+2

労働基準監督署は法令違反について調査や指導を行う機関であり、個人の債権を代理で回収する機関ではありません。金銭回収まで見据える場合は、弁護士への相談が有効です。

7-6. 労働審判・訴訟などの法的手続きを検討する

交渉で解決できない場合は、労働審判や訴訟を検討します。

労働審判では、労働者性を前提とした未払い残業代だけでなく、労働者としての地位が争われるケースについても、具体的な事情に応じて審理されます。裁判所は労働審判用の申立書や証拠説明書などの書式を公開しています。最高裁判所ウェブサイト+1

主張する期間や金額が大きい場合、会社側から詳細な反論が行われる可能性があります。証拠の評価や請求額の計算が複雑になるため、早い段階で労働問題に詳しい弁護士へ相談することが望ましいでしょう。

8. 残業代請求をする際の注意点

8-1. 契約解除や取引停止のリスクを考慮する

残業代を請求すると、取引先との関係が悪化し、契約を更新されない可能性があります。

もっとも、実態が労働者であれば、会社が自由に解雇できるわけではありません。契約終了の有効性についても、雇用関係を前提とした法的な争いになる可能性があります。

生活費を特定の取引先に依存している場合は、請求のタイミングや交渉方法を慎重に検討し、可能であれば請求前に証拠を確保しておきましょう。

8-2. 証拠が不十分だと請求が難しくなる

労働者性を示す証拠があっても、実際の残業時間を示せなければ、請求額の立証が難しくなります。

反対に、長時間働いた記録があっても、独立した事業者として自由に作業していたのであれば、労働基準法上の残業代は認められない可能性があります。

労働者性と労働時間の両方について、客観的な証拠をそろえることが重要です。

8-3. 請求できる金額を正確に計算する

すべての作業時間が法定時間外労働になるとは限りません。

休憩時間、移動時間、待機時間、自主的な学習時間などが労働時間に該当するかは、会社の指揮命令下に置かれていたかによって判断されます。

また、法定時間外、深夜、法定休日では割増率が異なります。計算ミスのある請求書を送ると、相手方から主張全体の信用性を争われるおそれがあります。

8-4. 感情的に交渉せず書面で記録を残す

未払い残業代をめぐる交渉では、強い言葉で責任を追及するよりも、事実と根拠を整理して伝えることが重要です。

電話や口頭で話し合った場合は、日時、参加者、相手の回答を記録し、必要に応じて確認メールを送ります。

SNSへの投稿や取引先の顧客への連絡は、新たなトラブルを生む可能性があります。まずは正式な書面と適切な手続きによって請求しましょう。

8-5. 時効になる前に早めに対応する

未払い残業代は、原則として各支払期日から順に時効期間が進行します。

証拠集めや会社との話し合いに時間をかけている間に、一部の請求権が時効になる可能性があります。時効完成の猶予や更新には法的な要件があるため、「請求する意思を伝えたから大丈夫」と自己判断しないことが重要です。

古い未払い残業代がある場合は、特に早めに専門家へ相談しましょう。

9. 残業代以外にフリーランスが請求できる可能性のあるお金

9-1. 契約外業務の追加報酬

労働者性が認められなくても、当初の契約範囲を超える業務を依頼された場合は、追加報酬を請求できる可能性があります。

仕様変更、修正回数の増加、予定外の会議、納品後の継続対応などについて、追加料金の合意があれば、その内容に従って請求します。

追加報酬の金額を事前に決めていない場合は、当然に希望額を請求できるとは限りません。追加依頼の内容、過去の取引、一般的な相場などを踏まえて交渉することになります。

9-2. 報酬の未払い分

納品や業務遂行が完了しているにもかかわらず、契約で定めた報酬が支払われていない場合は、業務委託契約に基づいて未払い報酬を請求できます。

これは労働基準法上の賃金請求ではなく、契約上の報酬請求です。そのため、労働者性が認められなくても請求できる可能性があります。

フリーランス法では、適用対象となる発注事業者は、原則として給付を受領した日から60日以内のできる限り短い期間内に支払期日を定め、期日までに報酬を支払う必要があります。公正取引委員会+1

9-3. 一方的な減額分

発注後に「予算がなくなった」「振込手数料がかかる」などの理由で、合意した報酬を一方的に減額された場合は、差額を請求できる可能性があります。

フリーランス法の適用要件を満たす取引では、フリーランス側に責任がないにもかかわらず、発注時に決めた報酬を後から減額する行為が禁止されます。公正取引委員会

2026年1月1日以降の一定の取引では、振込手数料を報酬から差し引くことも減額として扱われるため、契約内容と発注時期を確認する必要があります。公正取引委員会

9-4. キャンセル料・損害賠償

発注者の都合で契約が途中解除され、すでに作業した分の報酬や発生済みの経費が支払われない場合は、契約内容に応じて報酬や損害賠償を請求できる可能性があります。

ただし、キャンセルされたら必ず契約金額の全額を請求できるわけではありません。契約の種類、解除理由、作業の進捗、他の案件を受けられなかったことによる損失などを検討する必要があります。

キャンセル料の発生条件や計算方法は、業務開始前に契約書へ明記しておくのが有効です。

9-5. フリーランス新法や下請法で問題になるケース

フリーランス法は2024年11月1日に施行され、取引条件の明示、報酬の支払い、一定の禁止行為、就業環境の整備などを発注事業者に求めています。公正取引委員会+1

また、従来「下請法」と呼ばれていた法律は、2026年1月1日から「中小受託取引適正化法」、通称「取適法」に名称が変わり、適用対象や禁止行為が拡充されています。取適法では、適用対象となる取引について、協議に適切に応じない一方的な代金決定や手形払いなどが禁止されています。公正取引委員会+1

残業代を請求できない場合でも、次のような問題があれば、フリーランス法や取適法、契約法上の請求を検討できます。

  • 発注条件を書面や電磁的方法で示されていない

  • 報酬の支払いが不当に遅れている

  • 合意した報酬を減額された

  • 著しく低い報酬を一方的に決められた

  • 無償の追加作業を強要された

  • 発注後に一方的なやり直しを求められた

  • 正当な理由なく納品物の受領を拒否された

10. フリーランスの残業代に関するよくある質問

10-1. 業務委託契約でも残業代は請求できる?

実際の働き方が労働基準法上の労働者に該当すれば、業務委託契約でも残業代を請求できる可能性があります。

判断では、指揮命令、時間・場所の拘束、仕事を断る自由、報酬の性質、事業者性などが総合的に確認されます。

労働者性が認められない場合でも、契約時間を超えたときの追加単価が定められていれば、契約に基づく追加報酬を請求できます。

10-2. 契約書に「残業代なし」と書かれていても請求できる?

労働者性が認められる場合は、契約書に「残業代なし」と記載されているだけで、法律上の割増賃金請求権がなくなるわけではありません。

労働基準法が適用される労働者について、法定の割増賃金を支払わない合意は、その限度で無効となる可能性があります。

ただし、固定報酬の中に固定残業代が含まれていると会社側が主張するケースもあります。固定残業代として有効に扱えるかは、通常賃金部分と残業代部分が明確に区分されているか、実際の残業代が固定額を超えていないかなどを検討する必要があります。

10-3. 個人事業主でも労働者と認められることはある?

開業届を提出している個人事業主でも、労働者と認められる可能性があります。

税務上の個人事業主であることと、労働基準法上の労働者に該当するかは、必ずしも同じ問題ではありません。確定申告で事業所得として申告していたことも判断材料にはなりますが、それだけで結論は決まりません。

契約の名称や税務処理より、実際にどのような指示を受け、どの程度自由に働けたかが重視されます。

10-4. 残業代を請求したら契約を切られる?

実務上、請求をきっかけに契約更新を拒否されたり、業務量を減らされたりするリスクはあります。

ただし、実態として労働者であれば、形式上の業務委託契約を終了させただけで有効な解雇になるとは限りません。契約終了の理由や手続きが別の争点になる可能性があります。

請求を検討している場合は、契約を切られる前に勤務記録や業務指示の履歴を保存し、収入への影響も含めて対応方針を考えましょう。

10-5. 弁護士に相談すべきタイミングは?

次のような場合は、早めに弁護士へ相談することが望ましいでしょう。

  • 数か月から数年にわたる未払い残業代がある

  • 会社が労働者性を否定している

  • 勤務時間の計算方法が分からない

  • 契約終了や報復的な対応が心配である

  • 取引先から請求を拒否された

  • 時効が迫っている

  • 労働審判や訴訟を検討している

証拠が完全にそろってから相談する必要はありません。現在保有している資料を基に、追加で集めるべき証拠や適切な請求方法について助言を受けることができます。

まとめ

フリーランスには、原則として労働基準法上の残業代は発生しません。業務委託の報酬は、通常、労働時間ではなく、成果物の完成や業務の遂行に対して支払われるためです。

しかし、契約上はフリーランスでも、会社から具体的な指揮命令を受け、勤務時間や作業場所を管理されていた場合は、労働基準法上の労働者と判断される可能性があります。契約書に「業務委託」「個人事業主」と書かれているだけで、残業代の請求が否定されるわけではありません。

残業代を請求する際は、労働者性を示す資料と、実際の労働時間を示す資料の両方が必要です。契約書、チャット、メール、勤怠記録、パソコンのログ、報酬明細などを早めに確保しましょう。

労働者性が認められない場合でも、契約外業務の追加報酬、未払い報酬、一方的な減額分などを請求できる可能性があります。フリーランス法や取適法の対象になるケースもあるため、残業代だけに限定せず、取引全体の問題を整理することが重要です。