フリーランス事業者間取引適正化等法とは?発注者が知るべき義務・罰則・対応ポイントをわかりやすく解説

はじめに

フリーランスに業務を発注する企業や個人事業主にとって、「フリーランス事業者間取引適正化等法」への対応は、もはや一部の大企業だけの課題ではありません。デザイナー、ライター、エンジニア、動画編集者、カメラマン、コンサルタント、配送・施工・講師業務など、外部の個人に業務委託をしている事業者であれば、日常的な発注が法律の対象になる可能性があります。

この法律では、発注時の取引条件の明示、報酬の支払期日、募集情報の表示、ハラスメント対策、中途解除時の予告など、発注者が守るべきルールが定められています。違反した場合は、行政機関による指導・助言、勧告、命令、公表、さらに命令違反等には50万円以下の罰金が科される可能性もあります。

本記事では、フリーランス事業者間取引適正化等法の基本から、発注者が押さえるべき義務・禁止行為・罰則・実務対応ポイントまで、わかりやすく解説します。

1. フリーランス事業者間取引適正化等法とは?まず押さえるべき基本

1-1. 正式名称・通称・施行日

フリーランス事業者間取引適正化等法の正式名称は、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」です。一般には「フリーランス・事業者間取引適正化等法」や「フリーランス法」と呼ばれています。

この法律は、令和6年、つまり2024年11月1日に施行されました。フリーランスとの業務委託取引について、発注者側の義務や禁止行為を明確にし、フリーランスが安心して業務に従事できる環境を整備するための法律です。

1-2. 法律が制定された背景と目的

フリーランスは、企業に雇用される労働者とは異なり、労働基準法などの労働法による保護を受けにくい立場にあります。一方で、発注者から業務内容や報酬、納期を指定され、実質的には発注者の条件に従って仕事を進めるケースも少なくありません。

その結果、報酬の支払遅延、一方的な減額、契約内容の不明確さ、突然の契約解除、ハラスメントなどのトラブルが生じやすいという課題がありました。

フリーランス事業者間取引適正化等法は、こうした取引上の弱い立場に置かれやすいフリーランスを保護し、事業者間取引を公正にすることを目的としています。法律の目的は、大きく「取引の適正化」と「就業環境の整備」の2つに整理できます。

1-3. 発注者がこの法律を知っておくべき理由

発注者にとって重要なのは、「フリーランスに発注しているつもりはなかった」という場合でも、実態として業務委託に該当すれば法律の対象になり得る点です。

たとえば、個人のデザイナーにバナー制作を依頼する、ライターに記事作成を依頼する、エンジニアにシステム開発を依頼する、カメラマンに撮影を依頼する、といった取引は典型的な対象例です。

また、発注担当者が口頭やチャットだけで依頼している場合、契約書や発注書の整備が不十分な場合、支払期日が曖昧な場合は、知らないうちに違反リスクを抱えている可能性があります。企業規模にかかわらず、フリーランスへ業務を委託している事業者は、社内ルールや契約実務を見直す必要があります。

1-4. 「取引の適正化」と「就業環境の整備」の2つの柱

この法律の内容は、大きく2つに分かれます。

1つ目は「取引の適正化」です。具体的には、取引条件の明示、報酬支払期日の設定、受領拒否・報酬減額・返品・買いたたきなどの禁止行為が含まれます。

2つ目は「就業環境の整備」です。募集情報の正確な表示、育児・介護等への配慮、ハラスメント対策、中途解除や契約不更新時の事前予告などが含まれます。

つまり、単に「報酬をきちんと払えばよい」という法律ではありません。発注前の募集、契約締結、業務遂行、検収、支払い、契約終了まで、フリーランスとの取引全体を適正化するためのルールだと理解することが重要です。

2. フリーランス事業者間取引適正化等法の対象になる取引・事業者

2-1. 対象となるフリーランスとは

この法律でいうフリーランスとは、法律上は「特定受託事業者」と呼ばれます。簡単にいえば、業務委託の相手方である事業者で、従業員を使用しないものを指します。

個人事業主として一人で仕事をしている人だけでなく、法人化していても、代表者以外に役員や従業員がいない一人会社が対象になる場合があります。一方で、従業員を雇って組織的に事業を行っている事業者は、この法律上のフリーランスには該当しない場合があります。

注意したいのは、一般的な会話で「フリーランス」と呼ばれる人すべてが、この法律の対象になるとは限らない点です。対象になるかどうかは、取引時点で「業務委託の相手方である事業者」かつ「従業員を使用していないか」という観点で確認します。

2-2. 対象となる発注者とは

発注者には、「業務委託事業者」と「特定業務委託事業者」という考え方があります。

業務委託事業者とは、フリーランスに業務委託をする事業者です。取引条件の明示義務は、この業務委託事業者に広く関係します。

一方、特定業務委託事業者とは、フリーランスに業務委託をする事業者のうち、従業員を使用する個人事業主や、役員が複数いる法人、従業員を使用する法人などを指します。報酬支払期日の設定、禁止行為、就業環境整備に関する義務などは、主にこの特定業務委託事業者に関係します。

そのため、発注者側はまず、自社または自分がどの区分に当たるのかを整理することが大切です。

2-3. 業務委託に該当する取引の具体例

業務委託に該当する取引には、物品の製造・加工、情報成果物の作成、役務の提供などがあります。業種や業界による限定はなく、事業者からフリーランスへ委託する幅広い業務が対象になり得ます。

具体例としては、次のような取引が考えられます。

・Webサイト制作を個人のエンジニアに依頼する
・記事作成や取材をライターに依頼する
・ロゴや広告バナーのデザインをデザイナーに依頼する
・動画編集を個人クリエイターに依頼する
・商品写真の撮影をカメラマンに依頼する
・研修講師やコンサルティングを個人に依頼する
・アプリ開発、システム保守、翻訳、ナレーション、イラスト制作などを依頼する

ポイントは、発注者が事業のために、仕様や内容を指定して、成果物の作成や役務の提供を依頼しているかどうかです。

2-4. 対象外となるケース

対象外となる代表的なケースは、消費者が個人的にフリーランスへ依頼する場合です。たとえば、個人が家族写真の撮影をカメラマンに依頼する場合などは、事業者間取引ではないため対象外です。

また、フリーランスが自ら作成した商品やコンテンツを不特定多数に販売するだけの場合も、発注者から仕様を指定されて業務を委託されているわけではないため、通常は対象外です。

さらに、実態として雇用契約に近く、労働基準法上の労働者に該当する場合は、フリーランス法ではなく労働関係法令の問題として整理されることがあります。契約書の名称が「業務委託契約」でも、勤務時間や場所の拘束、指揮命令の程度、報酬の性質などによっては、労働者性が問題になることがあります。

2-5. 下請法・労働基準法との違い

フリーランス事業者間取引適正化等法は、下請法や労働基準法と似ている部分がありますが、対象や目的が異なります。

下請法は、2026年1月1日から改正され「中小受託取引適正化法」、通称「取適法」として施行されています。取適法は、一定の委託取引における中小受託事業者の保護を目的とする法律です。これに対して、フリーランス事業者間取引適正化等法は、従業員を使用しないフリーランスとの業務委託取引に焦点を当てています。

労働基準法は、使用者と労働者の関係を規律する法律です。フリーランスは原則として事業者であり、労働者ではありません。そのため、労働時間、割増賃金、有給休暇といった労働基準法上の保護が当然に適用されるわけではありません。

ただし、契約上はフリーランスでも、実態として発注者の指揮命令下で働いている場合は、労働者性が問題になることがあります。フリーランス法への対応とあわせて、偽装フリーランスや偽装請負になっていないかも確認が必要です。

3. 発注者に課される主な義務

3-1. 取引条件を明示する義務

発注者がフリーランスに業務委託をする場合、業務委託をしたら直ちに、取引条件を書面または電磁的方法で明示しなければなりません。メール、チャット、SNSのダイレクトメッセージなども、相手方を特定して送信でき、記録が残る方法であれば利用できます。

明示すべき主な事項は、発注者とフリーランスの名称、業務委託をした日、業務内容、納期または役務提供日、納品場所または役務提供場所、検査をする場合の検査完了期日、報酬額、支払期日、金銭以外で支払う場合の支払方法などです。

口頭だけで発注する運用は、取引条件の明示義務を満たしません。電話や打ち合わせで依頼した場合でも、直ちにメールや発注書などで条件を明示する必要があります。

3-2. 報酬支払期日を設定し期日内に支払う義務

特定業務委託事業者は、フリーランスへの報酬支払期日を、給付を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で定め、定めた期日までに支払う必要があります。役務提供の場合も、提供を受けた日を基準に考えます。

「請求書が届いていないから支払わない」「社内の締め処理が遅れたから翌月に回す」といった対応は、支払期日を過ぎれば問題になります。発注者は、請求書の有無にかかわらず、あらかじめ定めた支払期日までに報酬を支払えるフローを整える必要があります。

また、支払期日は「翌月末まで」「納品後60日以内」など曖昧な表現ではなく、具体的に特定できる形で定めることが望ましいです。

3-3. 募集情報を正確に表示する義務

広告や求人媒体、SNS、クラウドソーシングサービスなどでフリーランスを募集する場合、募集情報について虚偽表示や誤解を生じさせる表示をしてはいけません。また、情報を正確かつ最新の内容に保つ必要があります。

たとえば、実際より高い報酬額を表示する、あくまで一例の報酬を確定額のように見せる、募集が終了しているのに掲載を続ける、といった表示は問題になり得ます。

募集要項には、業務内容、報酬、契約期間、作業場所、稼働条件、契約解除や不更新の条件などを、できるだけ具体的に記載しましょう。

3-4. 育児・介護等への配慮義務

フリーランスに対して6か月以上の業務委託をしている場合、発注者は、フリーランスからの申出に応じて、妊娠、出産、育児、介護などと業務を両立できるよう必要な配慮をしなければなりません。6か月未満の業務委託でも、配慮するよう努める必要があります。

配慮の例としては、打ち合わせ時間の調整、オンライン対応、納期や稼働時間の調整、妊婦健診や介護の予定に応じたスケジュール変更などが考えられます。

重要なのは、申出があった際に一律に拒否するのではなく、内容を把握し、可能な選択肢を検討し、対応可否や理由を伝えるプロセスを整えることです。

3-5. ハラスメント対策に関する義務

発注者は、フリーランスの就業環境がハラスメントによって害されないよう、相談対応のための体制整備など必要な措置を講じる必要があります。

具体的には、ハラスメントに関する方針の明確化と周知、相談窓口の設置、相談があった場合の適切な対応、再発防止策などが求められます。対象となるハラスメントには、セクシュアルハラスメント、パワーハラスメント、マタニティハラスメントなどが含まれます。

社員向けのハラスメント規程や相談窓口がすでにある企業でも、フリーランスが利用できる仕組みになっているかを確認する必要があります。

3-6. 中途解除・契約不更新時の事前予告義務

フリーランスに対して6か月以上の業務委託をしている場合、契約を中途解除する、または更新しないときは、原則として少なくとも30日前までに予告しなければなりません。予告は、書面、ファクシミリ、電子メールなどの方法で行います。

また、予告後、契約満了までの間にフリーランスから理由の開示を求められた場合は、遅滞なく理由を開示する必要があります。

「来月から案件がなくなった」「今週で終了」といった突然の終了連絡は、トラブルの原因になります。契約期間や更新条件、解除手続きは、契約書や発注書にあらかじめ明記しておきましょう。

4. 発注者がしてはいけない禁止行為

4-1. 受領拒否

受領拒否とは、フリーランスに責任がないにもかかわらず、委託した物品や情報成果物の受け取りを拒むことです。

たとえば、発注者側の都合で企画が中止になったにもかかわらず、完成した成果物を受け取らない場合などが問題になります。納品物が仕様と異なる場合など、フリーランス側に責任があるケースとは区別が必要です。

4-2. 報酬の減額

報酬の減額とは、フリーランスに責任がないにもかかわらず、あらかじめ定めた報酬額を後から減らして支払うことです。

「予算が足りなくなった」「クライアントから入金がなかった」「社内事情で単価を下げたい」といった発注者側の都合による減額は、原則として認められません。交通費や材料費など、発注者が負担すると明示していた費用を支払わないことも、減額に該当する可能性があります。

4-3. 返品

返品とは、フリーランスに責任がないにもかかわらず、受領した物品や情報成果物を後から引き取らせることです。

納品後に発注者側の方針が変わった、販売計画が中止になった、社内で不要になったといった理由で返品することは問題になります。検収条件を満たしている成果物については、発注者都合で返品できないことを理解しておきましょう。

4-4. 買いたたき

買いたたきとは、通常支払われる対価に比べて著しく低い報酬を不当に定めることです。

たとえば、相場を大きく下回る金額を一方的に提示する、継続発注を条件に極端な低単価を迫る、短納期や追加作業があるのに報酬へ反映しない、といったケースが考えられます。

報酬を決める際は、業務量、難易度、納期、専門性、修正回数、経費負担などを踏まえ、合理的な金額を設定することが重要です。

4-5. 購入・利用強制

購入・利用強制とは、正当な理由がないにもかかわらず、発注者が指定する商品やサービスをフリーランスに購入・利用させることです。

たとえば、業務に不要な自社商品を購入させる、有料ツールを発注者指定で利用させるにもかかわらず費用負担をしない、特定サービスへの加入を強制するといった行為は問題になり得ます。

業務遂行上どうしても必要なツールやサービスがある場合は、必要性を説明し、費用負担の扱いを明確にしておくべきです。

4-6. 不当な経済上の利益提供要請

不当な経済上の利益提供要請とは、発注者が自己のために、金銭、役務、その他の経済的利益を提供させ、フリーランスの利益を不当に害することです。

たとえば、契約外の作業を無償で依頼する、協賛金や手数料の名目で金銭を負担させる、発注者の社内業務を無償で手伝わせる、といった行為が該当する可能性があります。

追加作業が必要になった場合は、無償で当然に依頼するのではなく、追加報酬や納期変更について協議することが必要です。

4-7. 不当な給付内容の変更・やり直し

不当な給付内容の変更・やり直しとは、フリーランスに責任がないにもかかわらず、発注者が費用を負担せずに業務内容を変更させたり、納品後にやり直しをさせたりすることです。

たとえば、当初の仕様にない機能追加、方向性変更による全面修正、発注者側の確認漏れによる再作業などを無償で求める場合が問題になります。

修正対応を依頼する場合は、契約時に修正回数や範囲を定めておくことが重要です。契約範囲を超える変更ややり直しは、追加発注として扱うのが安全です。

5. 違反した場合の罰則・行政対応

5-1. 指導・助言・勧告の対象になるケース

発注者が法律に違反した場合、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省などの行政機関から、報告徴収や立入検査を受けることがあります。

違反が認められると、まず指導や助言が行われることがあります。さらに、必要な措置をとるよう勧告される場合もあります。

対象となるケースには、取引条件を明示していない、支払期日までに報酬を支払っていない、禁止行為を行っている、募集情報に虚偽や誤解を招く表示がある、ハラスメント相談体制を整えていない、などが考えられます。

5-2. 命令・公表が行われるケース

発注者が勧告に従わない場合、行政機関は命令を行い、事業者名などを公表することがあります。公表されると、法令違反の事実が取引先、顧客、採用候補者、社会に知られる可能性があり、企業の信用低下につながります。

とくに、フリーランス人材を継続的に活用している企業にとって、事業者名の公表は大きなレピュテーションリスクになります。法的リスクだけでなく、ブランドや採用、取引継続への影響も考慮する必要があります。

5-3. 50万円以下の罰金が科される場合

命令に違反した場合や、検査を拒否した場合などには、50万円以下の罰金が科される可能性があります。

「罰金額が大きくないから問題ない」と考えるのは危険です。行政対応に要する時間、社内調査、取引先への説明、信用低下、再発防止策の整備など、実務上の負担は小さくありません。

5-4. フリーランスから行政機関へ申出があった場合の流れ

フリーランスは、発注者に法律違反と思われる行為があった場合、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省に申出をすることができます。

申出があると、行政機関は内容に応じて確認や調査を行います。必要に応じて、発注者に対する報告徴収、立入検査、指導・助言、勧告、命令、公表といった対応が行われます。

発注者としては、フリーランスから苦情や相談があった段階で真摯に対応し、記録を残しながら解決を図ることが重要です。放置すると、行政機関への申出や外部トラブルに発展する可能性があります。

5-5. 申出を理由とする不利益取扱いの禁止

発注者は、フリーランスが行政機関へ申出をしたことを理由に、契約解除、取引停止、報酬の減額、今後の発注拒否などの不利益取扱いをしてはいけません。

たとえ申出内容に事実誤認があると考える場合でも、報復的な対応は避けるべきです。事実関係を整理し、契約書、発注書、メール、納品記録、支払記録などを確認したうえで、冷静に対応しましょう。

6. 発注者が今すぐ見直すべき実務対応ポイント

6-1. 契約書・発注書に記載すべき項目

まず見直すべきは、契約書や発注書のフォーマットです。業務内容、報酬額、支払期日、納期、納品場所、検収条件、契約期間、解除条件など、法律上明示すべき事項が漏れていないか確認しましょう。

業務委託基本契約書だけでは、個別案件の業務内容や報酬、納期が明確にならないことがあります。その場合は、個別発注書、注文書、メール、管理システムなどで補完する必要があります。

6-2. 報酬支払フローの見直し

フリーランスへの報酬は、受領日から60日以内のできる限り短い期間内に定めた支払期日までに支払う必要があります。そのため、経理処理や請求書受付の締め日が法律に適合しているか確認しましょう。

請求書が遅れた場合でも支払期日を過ぎないよう、納品・検収・支払いの管理を一元化することが重要です。現場担当者だけが納品状況を把握し、経理に連携されていない状態は危険です。

6-3. 業務委託先管理台帳の整備

フリーランスとの取引を管理するために、業務委託先管理台帳を整備しましょう。

台帳には、委託先名、個人または法人の別、従業員の有無、業務内容、契約期間、発注日、納期、報酬額、支払期日、担当部署、契約更新状況などを記録します。

とくに、1か月以上、6か月以上といった期間によって義務が変わるため、契約期間や更新履歴を管理することが重要です。

6-4. 募集要項・求人広告のチェック

フリーランスを募集する際の募集要項や求人広告も見直しが必要です。

報酬額、業務内容、稼働時間、契約期間、勤務地または作業場所、応募条件、契約解除条件などが正確に記載されているか確認しましょう。古い募集情報を放置している場合は、速やかに削除または更新します。

「月収〇万円可能」「高単価案件多数」などの表現を使う場合は、実態と乖離していないか、確約と誤解されないかを確認することが大切です。

6-5. 中途解除・契約終了時の社内ルール整備

契約を終了する場合の手続きも、社内ルールとして整備しておきましょう。

6か月以上の業務委託では、原則として30日前までの予告が必要です。契約終了の判断を現場担当者だけで行うと、予告漏れや理由説明の不備が起きやすくなります。

契約終了時には、契約期間、更新条件、終了理由、予告日、通知方法、未払い報酬、成果物の扱いを確認するチェックフローを設けると安心です。

6-6. ハラスメント相談体制の整備

フリーランスも相談できるハラスメント窓口を整備しましょう。既存の社内窓口を活用する場合は、対象者にフリーランスが含まれることを明確にし、契約書や発注時の案内で周知します。

相談を受けた場合の対応手順、秘密保持、相談者への不利益取扱い禁止、事実確認の方法、再発防止策も定めておく必要があります。

6-7. 現場担当者・管理部門への社内周知

法律対応は、法務や経理だけで完結しません。実際にフリーランスへ依頼するのは、制作、開発、マーケティング、営業、編集、イベント運営などの現場担当者であることが多いためです。

現場担当者には、口頭発注の禁止、取引条件明示の必要性、無償修正のリスク、支払期日の重要性、契約終了時の予告義務などを周知しましょう。管理部門は、契約書ひな形、発注書フォーマット、チェックリストを用意し、現場が迷わず対応できる仕組みを作ることが大切です。

7. 契約書・発注書に入れるべき具体的な記載項目

7-1. 業務内容

業務内容は、できるだけ具体的に記載します。「デザイン業務一式」「システム開発業務」だけでは、作業範囲が曖昧になりがちです。

たとえば、制作物の種類、数量、サイズ、仕様、対応範囲、打ち合わせ回数、修正回数、納品形式などを明記します。業務範囲を明確にすることで、後から追加作業や無償修正をめぐるトラブルを防げます。

7-2. 報酬額・計算方法

報酬額は、総額、単価、時間単価、成果物単価など、計算方法がわかるように記載します。消費税、源泉徴収、交通費、材料費、ツール利用料などの扱いも明確にしましょう。

成果報酬や変動報酬の場合は、成果の定義、計算基準、集計期間、支払条件を具体的に定める必要があります。

7-3. 支払期日・支払方法

支払期日は、具体的な日付または特定可能な表現で記載します。「納品月の翌月末日」「検収完了日の翌月25日」など、いつ支払うのか明確にしましょう。

支払方法については、銀行振込、振込手数料の負担者、金銭以外で支払う場合の内容などを記載します。支払期日が金融機関休業日に当たる場合の扱いも、あらかじめ合意しておくと実務上の混乱を防げます。

7-4. 納期・成果物・検収条件

納期、納品方法、納品場所、ファイル形式、検収期間、検収基準を明記します。

検収条件が曖昧だと、発注者がいつまでも検収を完了せず、支払いが遅れる原因になります。検収を行う場合は、検査完了期日も明示しましょう。

7-5. 契約期間・更新条件

継続的な業務委託では、契約開始日、契約終了日、更新の有無、自動更新の条件を記載します。

「双方異議がない場合は同条件で1か月更新する」などの条項を入れる場合でも、6か月以上継続する可能性があるなら、中途解除や不更新時の事前予告義務に注意が必要です。

7-6. 解除条件・事前予告

契約解除の条件、解除通知の方法、予告期間を明記します。6か月以上の業務委託では、原則として30日前までの予告が必要になるため、契約書上もこれに整合する内容にしましょう。

また、重大な契約違反、秘密保持違反、納期遅延、連絡不能など、例外的に解除できる場合も定めておくと、トラブル時に対応しやすくなります。

7-7. 知的財産権・秘密保持・再委託の扱い

成果物の著作権や知的財産権を誰が保有するのか、発注者に譲渡するのか、利用許諾にとどめるのかを明確にします。著作権を譲渡する場合は、譲渡範囲や対価も記載しましょう。

秘密保持については、対象となる情報、利用目的、第三者提供の禁止、契約終了後の義務を定めます。再委託を認めるかどうか、認める場合の条件も明記しておくべきです。

8. フリーランス事業者間取引適正化等法への対応チェックリスト

8-1. 取引開始前に確認すべき項目

・相手方が法律上のフリーランスに該当するか確認した
・業務委託に該当する取引か確認した
・募集情報に虚偽や誤解を招く表現がない
・募集情報が最新の内容になっている
・報酬、業務内容、契約期間、解除条件を事前に整理した
・発注担当者が法律上の注意点を理解している

8-2. 契約締結時に確認すべき項目

・取引条件を書面または電磁的方法で明示した
・業務内容、納期、納品場所、検収条件を記載した
・報酬額と計算方法を明記した
・支払期日と支払方法を明記した
・契約期間、更新条件、解除条件を記載した
・知的財産権、秘密保持、再委託の扱いを定めた
・未定事項がある場合、理由と決定予定日を明示した

8-3. 業務遂行中に確認すべき項目

・契約外の追加作業を無償で依頼していない
・仕様変更時に追加報酬や納期を協議している
・フリーランスからの相談や申出を記録している
・育児・介護等への配慮申出に適切に対応している
・ハラスメントが発生しないよう管理している
・現場担当者のやり取りが記録として残っている

8-4. 報酬支払い時に確認すべき項目

・納品日または役務提供日を把握している
・支払期日が60日以内に設定されている
・請求書の有無にかかわらず期日内に支払える状態になっている
・一方的な減額をしていない
・交通費や材料費などの負担条件に従って支払っている
・振込手数料の負担者を契約どおり処理している

8-5. 契約終了時に確認すべき項目

・契約期間と更新条件を確認した
・6か月以上の業務委託に該当するか確認した
・中途解除または不更新の場合、原則30日前までに予告した
・理由開示を求められた場合の対応準備ができている
・未払い報酬や成果物の扱いを整理した
・行政機関への申出等を理由に不利益取扱いをしていない

9. よくある質問

9-1. 個人事業主に発注する場合はすべて対象になる?

個人事業主に発注する場合でも、すべてが対象になるわけではありません。対象になるのは、事業者が事業のために、従業員を使用しない個人事業主などへ業務委託をする場合です。

消費者として個人的に依頼する場合や、単なる商品の購入にすぎない場合は、対象外となることがあります。発注の目的、相手方の属性、業務委託に該当するかを確認しましょう。

9-2. フリーランス同士の取引も対象になる?

フリーランス同士の取引でも、事業者からフリーランスへの業務委託であれば対象になる場合があります。

ただし、発注者が従業員を使用していない個人事業主である場合など、どの義務が課されるかは発注者の属性によって異なります。少なくとも、取引条件を明確にして記録に残すことは、トラブル防止の観点から重要です。

9-3. 口頭発注は違法になる?

口頭で依頼しただけでは、取引条件の明示義務を満たしません。業務委託をした場合は、直ちに書面または電磁的方法で取引条件を明示する必要があります。

打ち合わせや電話で発注した場合でも、その後すぐにメール、チャット、発注書などで、業務内容、報酬、納期、支払期日などを明示しましょう。

9-4. 業務委託契約書があれば十分?

業務委託契約書があるだけでは十分とは限りません。契約書に、法律上明示すべき事項がすべて記載されていない場合は、不十分です。

たとえば、基本契約書には一般条項しかなく、個別案件の報酬、納期、業務内容、支払期日が記載されていないケースがあります。この場合は、個別発注書やメールなどで不足事項を補う必要があります。

9-5. 単発案件でも対応が必要?

単発案件でも、フリーランスに業務委託をする場合は、取引条件の明示が必要です。

一方で、1か月以上、6か月以上といった継続期間によって適用される義務や禁止行為もあります。単発だから何もしなくてよいのではなく、最低限、業務内容、報酬、納期、支払期日を明確にし、記録に残すことが大切です。

9-6. 既存契約も見直す必要がある?

既存契約についても、法律に対応できているか見直すべきです。とくに、継続的にフリーランスへ発注している場合は、支払期日、契約期間、更新条件、解除予告、ハラスメント相談体制、育児・介護等への配慮対応を確認しましょう。

契約書をすぐに全面改定できない場合でも、覚書、個別発注書、運用ルール、社内チェックリストなどで不足部分を補うことが重要です。

まとめ

フリーランス事業者間取引適正化等法は、フリーランスとの業務委託取引を公正にし、安心して働ける環境を整備するための法律です。発注者には、取引条件の明示、報酬支払期日の設定、募集情報の正確な表示、育児・介護等への配慮、ハラスメント対策、中途解除・不更新時の事前予告など、さまざまな義務が課されます。

また、受領拒否、報酬の減額、返品、買いたたき、購入・利用強制、不当な経済上の利益提供要請、不当な給付内容の変更・やり直しといった行為は禁止されています。違反すれば、行政機関による指導・助言、勧告、命令、公表、罰金につながる可能性があります。

発注者がまず取り組むべきことは、フリーランスとの取引を洗い出し、契約書・発注書・支払フロー・募集情報・契約終了ルール・相談体制を見直すことです。現場任せの口頭発注や曖昧な条件提示をなくし、取引条件を明確に記録する仕組みを整えることで、法令違反リスクだけでなく、報酬や納期、修正対応をめぐる実務上のトラブルも防ぎやすくなります。

フリーランスとの取引は、今後も多くの企業にとって重要な外部リソース活用手段です。法律対応を単なる義務として捉えるのではなく、信頼できるパートナーと継続的に良い関係を築くための実務基盤として整備していきましょう。